星野仙一が「人生でいちばん、誰よりも強く抱きしめた日」――赤星憲広が明かす阪神18年ぶりVの舞台裏【インタビュー後編】
執筆者: ノンフィクションライター/長谷川 晶一

現役時代には「燃える男」と称され、監督時代には「闘将」と呼ばれた星野仙一が天に召されてすでに8年が経過した。昭和、平成を代表する野球人である一方、優しさと厳しさ、飴と鞭を巧みに使い分けた人心掌握術は、現在の観点から見れば、行きすぎた「根性野球」「精神野球」といった側面がクローズアップされたり、選手たちへの鉄拳制裁が問題視されたりすることもある。
一体、星野仙一とはどんな人物だったのか? 彼が球界に遺したものとは何だったのか? 彼の実像を探るべく、生前の彼をよく知る者たちを訪ね歩くことにした。彼らの口から語られる「星野像」は、パブリックイメージ通りである一方で、それとは異なる意外な一面もあった。「星野仙一」のリアルに迫りたい——。連載第11回は、星野が監督として阪神を18年ぶりの優勝に導いた試合でサヨナラヒットを放つなど、星野政権下で圧倒的なインパクトをもたらした赤星憲広に話を聞いた。【赤星憲広インタビュー全2回の2回目/第1回を読む】
「ゲッツーばかり打つバカがおるか!」怒鳴った直後、星野仙一が赤星憲広にかけた”意外な一言”【インタビュー前編】

「人生でいちばん、誰よりも強く抱きしめた」
星野仙一が監督に就任した2002(平成14)年、阪神タイガースはシーズンを4位で終えた。このとき、チームには「やれる」という確かな手応えが芽生えていたという。そして迎えた翌03年のキャンプイン前日、星野は選手たちを前に「今年は優勝を狙う」ではなく、「優勝するぞ」と断言した。前年までなら誰もが無理だと冷めていたかもしれないが、「このときは違った」と赤星憲広は振り返る。
「星野さんに“今年は優勝するぞ”と言われたときに、たぶん前年までだったら、“いやいや、無理でしょ、そんなこと”って、みんな思っていたはずなんですけど、あのときは心の底から、“ひょっとしたら優勝できるかもしれない、優勝したい”と思えました。確実にチームは変わっていたんです」
この年、タイガースは快進撃を続けた。7月8日には早くもマジック49が点灯すると、紆余曲折はありつつも、着実に白星を積み重ねる。そして9月15日、マジック2で迎えた甲子園球場での広島東洋カープ戦。9回裏2対2、一死満塁という最高の場面で、赤星に打席が回ってきた。その瞬間、静かに星野がベンチから歩み出す。打席へ向かう赤星に向かって、背中越しにそっと声を掛けたのである。
「このとき星野監督から、“周りを見ろ”と言われました。たぶん外野は前に守るから、ヒットゾーンがかなり広がる。今年のお前のバッティングをすれば絶対に打てる、決めてこい。そんな言葉でした。だから、打席に入るときにまず相手のポジショニングを見ました。確かに、星野さんの言葉通りでした」
赤星は、さらに続ける。
「……あのときは初球を打ったんですけど、実はめちゃくちゃ時間を長く感じていました。ものすごく気持ちのゆとりがあって、僕の中では5球目ぐらいを打ったような感覚。それぐらい、心の余裕がありました」
初球のカーブを完璧に捉えた打球が右中間を破り、18年ぶりのリーグ優勝をたぐり寄せる一打となった。歓喜の坩堝(るつぼ)と化したグラウンドで、星野は殊勲の赤星を強く抱きしめ、何度もその頭を叩いた。その後何度も繰り返して登場する伝説の名場面だが、赤星にとっては別の意味でも強烈な記憶として残っている。
「あの場面は絶対に忘れられません。でも、本当に驚いたのは、その翌日のことです。僕の左肩に、星野さんの指の痕がついていました。星野さんの手の力が強すぎて、あざになっていたんです。星野さんも後々言っていました。“人生でいちばん、誰よりも強く抱きしめたのはお前だ”って(笑)。相当、力が入っていたはずです。喜びよりも痛みのほうが強かった印象がありますね」
この記事を書いた人
1970年生まれ。早稲田大学卒業後に出版社へ入社し、女子高生雑誌『Cawaii!』などのファッション誌の編集に携わる。2003年からフリーに。ノンフィクションライターとして活動しながら、プロ野球12 球団すべてのファンクラブに入会する「12 球団ファンクラブ評論家®」としての顔も持つ。熱狂的な東京ヤクルトスワローズファンとしても知られ、神宮球場でのホームゲームには全試合駆けつける。単行本が7刷となり文庫化もされている『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間』(単行本:インプレス、文庫:双葉社)をはじめ、ヤクルト関連の著書・連載多数。スポーツ総合雑誌『Sports Graphic Number』(文藝春秋)にも定期的に寄稿中。日本文藝家協会会員。
お問い合わせ:smartofficial@takarajimasha.co.jp
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