連載真説 星野仙一 ~誰も知らない“鉄拳制裁”の裏側~

星野監督は日本一の裏で満身創痍だった――。鉄拳制裁を封印した楽天時代、嶋基宏が触れた「究極の優しさ」

執筆者: ノンフィクションライター/長谷川 晶一

星野監督は日本一の裏で満身創痍だった――。鉄拳制裁を封印した楽天時代、嶋基宏が触れた「究極の優しさ」

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 現役時代には「燃える男」と称され、監督時代には「闘将」と呼ばれた星野仙一が天に召されてすでに8年が経過した。昭和、平成を代表する野球人である一方、優しさと厳しさ、飴と鞭を巧みに使い分けた人心掌握術は、現在の観点から見れば、行きすぎた「根性野球」「精神野球」といった側面がクローズアップされたり、選手たちへの鉄拳制裁が問題視されたりすることもある。

 一体、星野仙一とはどんな人物だったのか? 彼が球界に遺したものとは何だったのか? 彼の実像を探るべく、生前の彼をよく知る者たちを訪ね歩くことにした。彼らの口から語られる「星野像」は、パブリックイメージ通りである一方で、それとは異なる意外な一面もあった。「星野仙一」のリアルに迫りたい——。連載第8回は、星野が監督として初めて日本一になった楽天時代の選手会長にして正捕手の嶋基宏に話を聞いた。【嶋基宏インタビュー全2回の2回目/第1回を読む】

「星野さんは僕らを帰さなかった」嶋基宏が今だから語る東日本大震災。闘将の冷徹な決断の裏にあった“野球人としての覚悟”

星野誠一が監督として初めて日本一になった楽天時代の選手会長にして、正捕手の嶋基宏

鉄拳制裁を自ら封じた、楽天時代の「闘将」

 中日ドラゴンズ監督時代には、「鉄拳制裁」が星野仙一の代名詞でもあった。しかし、当時選手会長を務めていた嶋基宏によれば、東北楽天ゴールデンイーグルス時代に「鉄拳」「暴力」の影はなかったという。

「テレビでよく見るように、扇風機を殴ったり、椅子を蹴り上げたりはよくしていたけど、僕の知る限り、いわゆる選手に対しての鉄拳制裁は一度もありませんでした。その代わり、監督はコミュニケーションの場を大切にしていた。ピッチャーだけ、捕手だけ、ベテランだけと、いつも食事会をセッティングして、そこで自分の思いを伝えていました。遠征先の食事会場でも、選手たちといろいろな話をしていました。グラウンドの威圧感と、ユニフォームを脱いだときの気さくさ。そのギャップに、僕ら若い選手は魅了されていったんです」

 これまで、本連載において「星野は飴と鞭の使い分けが巧みだ」という証言は何度も聞かれた。嶋は、イーグルス時代のチームメイトだった山﨑武司とのこんなやり取りを記憶しているという。

「山﨑さんからは、“昔は飴なんてほとんどねぇぞ、鞭、鞭、鞭だ”と聞いたことがあります(笑)。でも、僕たちが楽天で接した星野監督は、決してそうではありませんでした。時代に合わせて、監督自身も少しずつ指導の形を変えていかれたのだと思います」

 イーグルス時代の星野はすでに60代半ばを迎えていた。肉体的な衰えというよりも、精神的なエネルギーの使いどころを見極めていたのではないかと嶋は分析する。

星野誠一が監督として初めて日本一になった楽天時代の選手会長にして、正捕手の嶋基宏

「人を本気で怒るというのは、ものすごく体力を使うことです。監督も年齢を重ねられ、若い選手に対してどうすればいちばん響くのかを、より冷静に判断されていた。僕らにとっては、厳しさと優しさが共存する、本当にやりやすい環境を作っていただいたと感じています」

 近年のスポーツ界では、一般社会同様にコンプライアンスが重視され、体罰などは論外とされる。しかし、「星野流」の本質は別のところにあると、嶋は指摘する。

「もし星野監督が今もユニフォームを着ていたら、きっといちばんコンプライアンスに気をつかって指導されていたはずです。ただ、一つ言えるのは、星野監督はまず選手と徹底的に“いい人間関係”を築くことから始める、ということです。深い信頼があるからこそ、厳しい言葉も愛情として届くし、もし監督に殴られたとしても、僕は何とも思わなかったはず」

 平然と、そして淡々と嶋は言った。手放しの賛辞はなおも続く。

「たくさん怒られもしたけど、僕らは監督のことが大好きでした。厳しい指導のベースに揺るぎない愛がある。それが星野さんの真骨頂です。もし手が上がったとしても、それは《指導》というよりも、監督と選手との“魂のぶつかり合い”だった。今の時代にはそぐわないかもしれないけど、あの信頼関係こそが、楽天を日本一へ押し上げた原動力だったのは間違いありません」

この記事を書いた人

1970年生まれ。早稲田大学卒業後に出版社へ入社し、女子高生雑誌『Cawaii!』などのファッション誌の編集に携わる。2003年からフリーに。ノンフィクションライターとして活動しながら、プロ野球12 球団すべてのファンクラブに入会する「12 球団ファンクラブ評論家®」としての顔も持つ。熱狂的な東京ヤクルトスワローズファンとしても知られ、神宮球場でのホームゲームには全試合駆けつける。単行本が7刷となり文庫化もされている『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間』(単行本:インプレス、文庫:双葉社)をはじめ、ヤクルト関連の著書・連載多数。スポーツ総合雑誌『Sports Graphic Number』(文藝春秋)にも定期的に寄稿中。日本文藝家協会会員。

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