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【局アナからeスポーツキャスターへ転身】平岩康佑が発する言葉の裏側にある“100時間プレイ”と“人ありき”の理由とは | 連載:eスポーツの輪〜e-sports donuts】

執筆者: インタビュアー・ライター・編集者/本田圭佑

――先ほどeスポーツ大会の観客はリテラシーが高いとおっしゃっていましたが、実況するにあたってeスポーツをあまり知らない人に向けた伝え方は意識していますか?

平岩 ゲーム会社や大会を開催しているクライアントの意向で、あらかじめエントリーユーザー向けに実況を依頼されるケースもありますし、僕自身もできるだけ多くの人に魅力を知ってほしいという意識を常に持っています。ですが、そもそも僕の実況の根底には、ゲームを知っていても知らなくても基本は人ありき、という考え方があります。わかりやすい例として、ストリートファイターで有名なプロプレイヤー・ときどさんであれば、「麻布高校から東京大学へ進学するも就職を選ばずストリートファイターという道にかけた」や、「そんなときどが今から世界大会の決勝戦に挑む」など、選手のストーリーを伝えることで応援したくなったり、観る気にさせることができると思っています。短い言葉でもいいんです。あるプレイヤーの紹介に「富山県出身の16歳」と加えるだけでも選手像を描くことにつながりますし、応援する側の理由のひとつにもなる。そういった共感性を大切にしています。

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エナジードリンクでお馴染みのレッドブルが主催するゲームイベント「Red Bull 5G」でMCを務めた時の写真。

――瞬発的に言葉を発する実況は高度な技術を要する職業の印象を受けますが、実際には?

平岩 技術的に高度かどうか自分ではわからないです(笑)。僕が言えることとしたら、実況の描写自体は無意識レベルで行わなければならないということですね。ゲーム実況中の「ショットガンを打った」や「頭に当たって130のダメージ!」などを言葉は、頭で考えず反射的に言語化しているんです。その間に資料を見たり、こちらのチームが勝ったら何を言おうかなどを考えています。オフラインで行われる大会の場合は選手や観客の顔から読み取れる情報や会場の雰囲気を伝える必要もあるので、限られた時間内にやるべきことは多い職種かもしれません。

あとは解説者とのコミュニケーションも大事なポイントです。長く仕事をしていて慣れた関係性であれば、どういうテンポで話をしていくのか、息継ぎするタイミングなども掴めてきます。こちらが質問を投げてからどのくらいの間で返してくれるのかがかなり重要です。とはいえライブなので当然、こちらで聞いておきながら相手の返事を待たずにまた実況を開始する、なんてこともありますけど(笑)。僕は解説できる内容があったとしても、わからないふりをして解説者に話してもらいます。プロ野球の実況をやっていた頃も同じで、僕がいくら偉そうに話しても、実際に甲子園でホームランを打ったことはないわけです。隣に金本さん(金本知憲。元プロ野球選手)がいれば、金本さんが伝える言葉にこそ価値があってそれがすべて。なので、基本的に選手の評価であったりこの先の展開については、会話のキャッチボールをしながら解説者に委ねています。

――オフラインとオンラインそれぞれの環境で、実況に違いが生じるなどはありますか?

平岩 極端な話ですが、オフラインの場合は観客全員がスタンディングして手を上げて大声を出していれば、言葉による実況よりその場の雰囲気を強く物語ることもあります。そういうときの実況は声の強さや抑揚(よくよう)に気を配ることだけでよかったりしますが、オンラインは観客が目の前にいないので歓声が上がりません。そうすると全体的に熱量が下がりやすく、実況者はわざと少しテンションを高めに実況したりするなど、盛り上げ役を担う必要が出てきます。そしてオンラインで最も重要なのは、目に見えない多くの観客を想像したうえで魅力的なプレイを言葉で届ける意識です。ある人はベッドに横たわって観ているかもしれませんし、またある人は通勤途中にイヤホンで聴いているかもしれません。単純に盛り上げっている描写だけではなく、選手の人となりを含めてしっかりと言葉にしていくことが大切です。

――この先のeスポーツ業界の成長についてどう考えますか?

平岩 世の中が次第に落ち着きだしてきて、オフラインでの大会開催もふたたび勢いを取り戻しています。最近は入場券を購入してもらうチケット制のパターンも増加していますが、それでも一瞬で完売するような熱狂がすでに生まれていて。興行としてのeスポーツが発展して、選手や業界に還元される仕組みが今まで以上に整うことを望んでいます。そのためにはゲーム会社の理解を得ることも必要になってくるのですぐには難しく、時間をかけて整備していく必要があります。

また、eスポーツの特徴には、スポーツ中継やニュースなどをリアルタイムで観る若い人が確実に減少している時代においても、生放送で観る人口の多さが挙げられます。そしてeスポーツやゲーム実況は、観客側との接触時間が非常に長いコンテンツでもあります。インスタグラムなどのSNSは流し見程度でも終わりますが、eスポーツの大会となると1日7〜8時間ほど観続けることがほとんどです。これは、個人的にインスタグラムの瞬間的な映え以上に多くの人を動かす大きな存在であると思っていますし、実際、リーグ・オブ・レジェンドの世界大会のスポンサーにルイ・ヴィトン(Louis Vutton)やマスターカード(Mastercard)、メルセデス・ベンツ(Mercedes-Benz)などのクライアントがつくようになっていることからも注目度がわかると思います。この流れが今後、日本国内でもますます強まっていくのではないかと推測しています。

――eスポーツが若い人の多くを虜(とりこ)にするコンテンツであり、いかに高いポテンシャルを秘めている業界なのかを改めて実感できました。

平岩 ありがとうございます。以前、富山県でイベントを開催した際に、自治体の方が「何をやっても若い人が集まらない」とおっしゃっていたんですが、eスポーツの大会を開いたら会場の市民ホールに小学生から大学生くらいまでの子たちがたくさん集まってくれたんです。団体スポーツをやるとなれば人数集めや準備が大変ですが、eスポーツなら選手はオンラインでも参加できますし、デジタルの特性を生かしたフレキシブルな対応が可能で予算的にもアレンジがしやすいというのも魅力のひとつなんだと思います。

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――smartはファッションメディアですが、eスポーツとファッションの親和性についてはどう感じていますか?

平岩 ストリーマー発信のアパレルなどは売れ行きも好調と周囲からよく耳にしています。ボルトルームvaultroom)やクレイジーラクーンCRAZY RACCOON)など、独自のコミュニティーを形成する集団についても新商品が出たら即完売と、人気が凄まじいですね。ファンからすると、推しているゲーム会社や配信者というのはプライオリティが高い存在なんです。彼らがリリースするアパレルやグッズはたとえ高価だとしても購入したい欲求があるので、そういった面からもアパレルとの親和性は高いと思いますし、eスポーツは若い業界なので新しいものを取り入れる柔軟さがあるんです。

あとは単純に、大会で優勝した選手が着ている服というのは格好良く見えるものです。そこは他スポーツのユニフォームと同じ心理だと思いますが、eスポーツの場合は他スポーツと比較してもファッション性が高いです。メッシュ生地にして機能性を高める必要もないし、普段着とそう変わらない服装がユニフォームにもなります。最近は黒をベースに、メインスポンサーのみが表立つような見た目がクールで格好良いデザイン性が増えてきているように感じます。これは僕の推測ですが、おそらくeスポーツの現状としてユニフォームのスポンサー名を入れるビジネスプランよりも、自社で格好良いアパレルを展開したほうが勝負しやすい時代というのも関係しているように思います。

――昔でいうサッカーのゲームシャツやベースボールシャツが、eスポーツチームによるアパレルになりつつなるわけですね。

平岩 そうです。そしてオタクとして生きてきた僕にとって何より喜ばしいことは、今はゲームをプレイすること自体がファッション性を帯びてきています。つまり「ゲームをやる=格好良いこと」だと認識されてきているんです。若い子の間では、ゲームのうまい子がモテるとも聞きます。キャリーといって「強いプレイヤーと一緒にランクマッチに行き、勝利することで経験値をたくさんもらえる」などがあって。要はゲームがうまい子は頼りにされる存在なわけです。僕が若いときはとてもじゃないけど周りにゲームをやっているとは言えなかった。アナウンサー時代も隠していましたし。スターバックスで中高生の子が4人くらい集まってPUBGモバイルをやっていても、もはや日常。シューターと呼ばれるジャンルは僕が若い頃、オタクしかプレイしない存在で日本には一生流行らないとされていたものだったんです。もう、感慨深さすらありますよ……(笑)。

今のゲームはSNS的であり、LINEのようなコミュニケーションツールの要素を大いに含んでいるので、若い子たちからするとやっていないと流行に乗り遅れてしまったり、コミュニティーに属しにくいという性質があるのかもしれません。学校の部活動に近い存在という印象も受けています。昔から180度変わり、今オタクはメジャーの位置にいます。僕としては大歓迎なので、もっと広まってほしいですね。

――最後に、次に登場してほしいeスポーツ界の人物を紹介してください。

平岩 日本最大級のeスポーツイベント“RAGE”総合プロデューサーの大友真吾さんです。国内では初めてさいたまスーパーアリーナをeスポーツイベントで埋めた業界のキーマンであり、4年前にどこの馬の骨ともわからない私を率先して実況者として起用してくださった恩人でもあります。

(了)

profile平岩康佑
ひらいわ・こうすけ●1987年東京生まれ。2009年米ワシントン州の大学で経営学を学び卒業後、朝日放送にアナウンサーとして入社。プロ野球や高校野球、Jリーグ、箱根駅伝などの実況を担当。2017年に高校野球の実況が評価され、ANNアナウンサー賞優秀賞を受賞。そのほか、報道番組や情報バラエティにも出演、ラジオのパーソナリティも務めた。2018年同社を退社後、株式会社オデッセイ(ODYSSEY)設立。日本最大級のeスポーツイベント「RAGE」やCRカップなどで実況を担当。著書に『人生の公式ルートにとらわれない生き方』(KADOKAWA)がある。
平岩康佑公式Twitter
平岩康佑公式YouTubeチャンネル
平岩康佑公式HP

写真=大村聡志
取材・文=本田圭佑

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