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連載eスポーツの輪〜e-sports donuts

ゲーマーから“社長”に。FENNEL代表・仏が求道する総合エンターテイメント【連載:eスポーツの輪~e-sports donuts】

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ゲーム人口はプレイヤー数、視聴者数ともに年々うなぎのぼり。世界のeスポーツ上位10チーム(または組織)にいたっては、その価値評価額が平均で約450億円と、今後ますますの成長が期待されまくっている国際的市場、それがeスポーツの今の立ち位置です。しかしその中にまだ日本チームの名はなく、「これじゃあいかん!!」と(まぁほんとにそう言ったかは知りませんが)とにかく、好きなものに心底夢中になれる負けず嫌いな日本の“ヲタク”たちのなかには、業界の盛り上げ役がちゃんといます。

というわけでsmart webでは、eスポーツ業界のフロントマンや業界の活性化を担う存在にインタビューを行う連載『eスポーツの輪~e-sports donuts』をスタート。eスポーツの次代の担い手に話を聞き、テレフォンショッキング方式で輪をつないでもらうことでその実態に触れていくことを目的とします。ゲームをやらない人も、読めばきっと興味を持てるはず。初回はeスポーツチーム「FENNEL(フェンネル)」 代表、仏(ほとけ)からスタート!

「カッコいいことやってるじゃん」
そう思ってもらえたら嬉しい

――まずはチームについてお聞きします。ずばり、フェンネルとは

 一言でいうならフェンネルは「ブランド」です。国内eスポーツチームはサッカーや野球と同じように、プロ選手が所属している“スポーツチーム”として見られることがほとんどです。でもフェンネルはゲームを通じてあらゆるエンターテイメントとつながるコミュニティであり、ブランドでありたいと考えています。

たとえばゲームに直接関わる選手やストリーマー(動画配信や編集をする人。または実況・解説者)以外にも、アーティストやアスリート、音楽ならラッパーやビートメイカーとか、とにかく「ゲームが好き」を共通項に、さまざまな人が籍を置ける存在を理想としています。海外にはすでにTSM FTX(ティーエスエム)や100 Thieves(ハンドレッドシーブス)、FaZe Clan(フェイズ・クラン)など、元プロゲーマーらが立ち上げたeスポーツチームがブランド化によって大きな業績を上げている例があるので参考にもしています。

――仏さん自身もゲーム配信者からのスタートですよね

 はい。もともと『荒野行動』というゲームの配信をやっていました。大学3年生の頃、仕事や就活について意識し始めたタイミングで、フェンネルの共同経営者である遠藤(将也)さんと荒野行動を通じて知り合いました。遠藤さんは当時から不動産事業を行っていましたが「IT領域へのビジネス展開に興味がある」と僕に話してくれていて。「じゃあ一緒にやりましょうか」くらいの、本当に軽いノリで会社を設立することになりました(笑)。

最初は二人とも業界のことを深く知らず、とりあえず荒野行動をやっていたので荒野行動で最も影響力のあるチームを目指そうとしましたが、スタートアップやベンチャーキャピタル界隈の人たちと話していくうちに、eスポーツチームが目指すべきものが次第に明確になっていきました。

――そういえば以前、フェンネルはDIESEL(ディーゼル)とコラボレーションをしています。ファッションのアプローチもブランド化のひとつですか

 そうですね。アパレルを始める最初のきっかけは、知り合いからアパレルの必要性を熱弁されたところから始まりましたが、自分としてもどうせやるならチームのマーチャンダイズだけではなくて、ファッションブランドとしてしっかり作ったほうが絶対にかっこいいと思ったんです。それに、ここまで本気で洋服を作っているチームをほかに見たことがなかったので、挑戦してみたかったという気持ちがありました。

といっても本格的にファッションにハマったのは、いまフェンネルで展開しているアパレル事業のディレクターに出会ってからなのでここ数年のことです。リサーチ癖があるので調べまくって、自分が惹(ひ)かれる表現をしているブランドや、表現したいスタイルがだんだん理解できるようになりました。それまでにも自分自身ファッションへの興味自体はあったんですが、入り口がわからない状態で無難な服装をしてきたから一気に爆発したんだと思います(笑)。

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自社ブランド「FNNL」のほか、ヴィンテージアイテムを再構築した一点もの「ONE-OFFライン」や、アーティストとのコラボレーションシリーズなど多数展開

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――フェンネルの事業形態について、もう少し詳しく教えてください。

 フェンネルは大きく分けて「チーム運営事業」「アパレル事業」「大会運営事業」と、3つの部署が主体です。チーム運営事業ではフェンネルに加入する人物との契約やプレイヤーの獲得、管理を行っていて、アパレル事業では自社ブランド「FNNL」の運営以外にコラボレーションの企画立案なども行っています。

そして大会運営事業ですが、ここは他チームと大きな違いがあります。フェンネルは最低でも週に2〜3回、自社による大会を開催しています。これは世界的に見ても高頻度で、eスポーツチーム自らが大会を開催することはあっても、開催から運営までに必要な機能をすべて備えている例はそう多くありません。

たとえ社内に企画を考えることができるプロデューサー的ポジションの人間がいたところで、大会全体のディレクションや進行まではできないんです。だから、外部発注を基本としているeスポーツの大会はコスト面の負担が大きい、と思っている会社は多いのかもしれませんね。

――そこまで大会運営に注力する理由は何なのでしょう?

 フェンネルがブランドを目指していくためにはeスポーツ業界全体を広げていく必要があって、その上で大会は重要な要素になるからです。とてもシンプルな話ですが、選手それぞれが一番になるためにしのぎを削る大会が白熱すればするほど、視聴者は盛り上がります。さらに大会の盛況ぶりを配信によって伝えることでスポンサーを募りやすくもなります。

今は一般企業からもゲームの大会を開きたいという声が増えてきたことで、大会の企画や運営を通じて新たな接点を持つことも、収益を上げることも可能です。チーム成績や配信力が優れていたり、うちよりも大きな影響力を持つチームはありますが、大会運営は他チームと異なるポジションを確立するための意識的な取り組みのひとつでもあるんです。

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FFL GLOBAL CHALLENGE(FFL GC)はフェンネルが企画・運営を行う「Apex Legends」の国際大会

ゲームが強いチームではなく
影響力が強いチームを目指したい

――なるほど。これまでの話を聞いた限りでも、仏さんが目指すチームはシンプルな強さだけを示せればいいわけではないんですね。

 勝つことはもちろん大事ですけど、チームの勝敗とは別ベクトルで影響力を得るためのアクションは必要だと思っています。必ずしも“ゲームが強いチーム=人気チーム”ではないので。日本一のチームになっただけでは人気は出ませんし、日本一になり続けたとしてもそのゲームタイトルが盛り上がっていなければ元も子もありません。

今だったら視聴数が多く、どこのチームも力を入れている『VALORANT(ヴァロラント)』は強さが人気にも影響するゲームタイトルですが、それでも競技シーンは勝つことを目的にしているので、万人に対して面白いものとは言えません。多くの視聴者は配信が面白いから観るのであって、求められているエンターテイメントに応えられなければファンは増えないし、影響力も持てませんよね。

――ちなみに過去にはオフラインでのイベントも開催してきてますが、この取り組みもファン獲得や影響力獲得の視点からですか?

 イベントはフェンネルの世界観をオンラインではなくオフラインで直接ファンに届けることを目的としています。ゲームの世界はオンラインを主としますが、コミュニティを形成していくにあたってオフラインのコミュニケーションがとても重要な役割を持つと思っています。

それに僕自身も過去に経験がありますが、ファンとの交流はモチベーションにつながるんです。なのでイベントではなるべく多くの選手に登壇(とうだん)してもらうように工夫しています。eスポーツのファン獲得要素というのは個々人による配信クオリティが大半を占めるので、あくまでイベント自体はいつも選手たちを応援してくれるファンとの交流を楽しむリアルな空間として考えています。

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アパレルのポップアップスペースやゲームパフォーマンス、撮影会など、イベントでは来場者がいっしょになって楽しめるコンテンツを企画している

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――オフラインが重要という話の流れついでに、新横浜にはチームで集まれる練習場があると聞いています。

 今フェンネルには所属選手が60人近くいて、その中でも特に年齢の若いプレイヤーたちが合宿所のような感じで利用しています。新横浜のゲーミングベースは6つの部屋に分かれていて、チームは最大6部門まで入れます。普段オンラインで活動している選手同士によるオフラインでのコミュニケーションが大切だと思って設置しましたが、まぁゴミは散らかすなど、まれにですが喧嘩はするわ、苦労する面もあります(笑)。

メジャースポーツを経験してプロを目指す選手は幼い頃から礼儀作法を学んでいて強調性を持っている人が多いと思いますが、ゲーマーはそういったことをほとんど経験してこなかった人が多いので、管理が大変で労力はかかります。

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選手たちが練習する6つのゲーミングルームに加えて、くつろぎの場として広いロビーも完備。なんて洒落た空間だ……!!

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――若い集団だからこその問題もあるわけですね(笑)。そういえば、「eスポーツは選手寿命が短い世界」なんて話を耳にしますが実際はどうなんでしょうか?

 年齢を重ねると動体視力や反射神経が鈍くなるからeスポーツは選手寿命が短い、というのは確かに聞く話ですけど、そこはほとんど関係ないと思っています。プロ選手にとって一番大変なことは、高いモチベーションを毎日保たなければいけないことです。特にeスポーツはほかのスポーツ競技と違って練習時間が長く過酷です。

これは僕の仮説になりますが、ゲームにハマりだした若い時期ってうまくなるのが楽しくて1日に何時間でもプレイできるし、成長も実感できます。でもベテランになるにつれて毎日プレイすることは日常化し、成長が実感しにくくなります。そうするとモチベーションが保てなくなってきて、練習の質が下がり、選手としての能力も落ちてきて伸び盛りの若手に抜かれてしまう。

それが、選手寿命が短いと言われる所以(ゆえん)なんじゃないでしょうか。100%のモチベーションが90%になっただけでかなりの人数に抜かされてしまうのが現実です。人間どこかで気を緩めてしまうことだってありますが、選手自身がそこに気をつけなければどのみち生き残れない世界です。

次ページ>>選手、他ジャンルの人がフェンネルと手を組むメリットは?

この記事を書いた人

本田圭佑

本田圭佑

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