「男はなぜ『刃牙』に憧れるのか?」 紗倉まな×鳥トマトが解き明かす、理解不能な“父性”と厄介な“母性”のトリセツオーバードーズする"整えたい欲"——推し活を駆動させる力

執筆者: 音楽家・記者/小池直也

AIが示す作品と作家の非分離性

新著『あの子のかわり』を発売した紗倉まな

――今は映像&音声時代とされ、AIによって文章は民主化されたとも言われます。そんな過渡期にあって、おふたりは文章の価値をどう考えていますか?

鳥:漫画はキャラクターがいるから、セリフから自分が飛び出すことはないけど、文章は人の内面を書くのでダイレクトに自分の考えが出る。だから生き様大会みたいな感じで文章を書いてます。作品って作者の生き様が出るじゃないですか。だから本人の人生が面白くないと、致命的に面白くならないんですよ。

紗倉:私はいつも自分の姿なしに、ただの本として読んでもらいたいんですよ。でも鳥さんがそう仰ってくださると、一概に悪いことではないのかもと希望に感じます。

鳥:やっぱり、面白くしようとテクニカルに描いたものは、読者に見抜かれる。自分の欠損を埋めようと描いた作品のほうが共感してもらえることが多いです。

紗倉:共感してもらいたい、という気持ちは別に強く持っていないのですが、自分の空虚な思いや面白いと思ったことを書いたほうが、意外と「わかります」と言ってもらえたりする。そう考えると誰かの共感って、作品にその人自身の人生を見い出したときに起こるものなのかも。

ただ売れる作品を見ると、展開が豊富にあって。人は死ぬし、泣き叫ぶし……。でも私がそれを書くとしっくりこないんですよ。それを書くことは自分に許されない、みたいな。

鳥:いきなり主人公が夫を殺すとか、犬がガブッと噛みつきまくるとか。でも読者に「模範解答はこれです」とか「こう思ってください」というエンタメが圧倒的に多数ななか、「問いを持ったまま生きてもいい」という救いが紗倉さんの小説にあると思いました。

裏を返せば、紗倉さんみたいな小説を書ける人は他に誰もいない。逆に紗倉さんもまた自分以外のものを書くことができない。謎の縛りですよね。でも、それを得ることで文学力は高まっていく。

紗倉:その縛りによって得られるものがある、書けるものがある、ということなんですかね。

鳥:その作品がどうやって作られたのかを読者は見ています。この文章が生まれるだけの、人生があったことへの感動なのかもしれません。筒井康隆さんの『創作の極意と掟』に「文には色気が宿るべし」というようなことが書いてありますが、やっぱり人が出るんですよ。

――AIに頼れば頼るほど、作家性がない文章が増えていく。普遍的かつ現代的なテーマですね。

鳥:生成AIとの圧倒的な違いはそこですよね。ニュースなら全然いいと思うけど、実在する人間性が宿った文章と精度が高いだけの文章は違う。AIで書いたものに感動する部分はあるかもしれないけど、感動した先に誰がいるのかわからない。

紗倉:文章に救われたい人からすれば、「無を食わされた」気分になりますね。AIでしたって言われた瞬間に、盛大な肩透かしにあったような、そこに血が通っていなかったような虚無感を味わってしまう。好きな作家はやっぱり調べてしまうし、その作品が好きだというのは、作者に対する興味でもあるってことですよね。そこは切り離せないなと今日は確認できました。

「男はなぜ『刃牙』に憧れるのか?」 紗倉まな×鳥トマトが解き明かす、理解不能な“父性”と厄介な“母性”のトリセツ

鳥:だから紗倉さんが「私の言いたいことは絶対にこれ」という強い思想が見つかったら、必ず書いたほうがいいですよ。

紗倉:正直、悩んでるんです。作品で自分自身の主張はどこまですべき、留めるべきなのか。自分の存在を主張することが逆に作品にとってノイズとならないかって。

鳥:死ぬまで見つからないかもしれないし、やっていくしかない。僕も今のところ自分の核が見つかっていません。見つかったと思ったら違ったんですよ。だから今しょんぼりしてます(笑)。自分にとって「俺の核はどこだ?」と掘りまくるのが小説や漫画を作る試み。

それに紗倉さんの全登場人物を守ろうとしながら瓦解していく物語からは、思想ではないけど努力と葛藤が伝わってくるんですよ。それを伝えることが小説の役目では。作家は誰しも自分の思想をまぜまぜしているような気がします。

紗倉:作家の核となる書きたいこと、思想みたいなものは変わらずあって、どのような形で表出するかだけの違いなのかもしれませんね。鳥さんの作品にも一貫する核がある。その核を見つけたくなっていく。それが読み手の楽しみのひとつでもあるんでしょうね。

鳥:だから紗倉さんの次の本もずっと楽しみにしてます。

紗倉:ありがとうございます。

新著『あの子のかわり』を発売した紗倉まな&漫画『東京最低最悪最高!』などを手掛けた漫画家・鳥トマト

Profile/紗倉まな
1993年、千葉県生まれ。作家・A V女優。国立高専在学中の2012年にソフト・オン・デマンド(SOD star)からAVデビュー。著書に小説『最低。』(瀬々敬久監督により映画化&東京国際映画祭コンペティション部門ノミネート)『凹凸』『春、死なん』(第42回野間文芸新人賞候補)『ごっこ』『うつせみ』(第47回野間文芸新人賞候補)、エッセイも多数。最新刊は今年の2月に発売された小説『あの子のかわり』。
Instagram:@sakuramanateee
X:@sakuramanaTeee

Profile/鳥トマト
マンガ家。たまに小説家。現在「ヤングアニマルZERO」で漫画『二月に殺して桜に埋める』、「月刊まんがライフオリジナル」で漫画『私たちには風呂がある!』、「週刊SPA!」で小説『まだおじさんじゃない』を連載中。その他の著書に『東京最低最悪最高!』『アッコちゃんは世界一』『幻滅カメラ』など。
Instagram:@tori.the.tomato
X:@tori_the_tomato

▪️書籍情報

紗倉まな『あの子のかわり』
発売中
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309032498/

「男はなぜ『刃牙』に憧れるのか?」 紗倉まな×鳥トマトが解き明かす、理解不能な“父性”と厄介な“母性”のトリセツ

あの子のかわり

あの子のかわり

紗倉 まな
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撮影=西村満
インタビュー&文=小池直也

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この記事を書いた人

音楽家/記者。1987年生まれのゆとり第1世代、山梨出身。明治大学文学部卒で日本近代文学を専攻していた。自らもサックスプレイヤーであることから、音楽を中心としたカルチャー全般の取材に携わる。最も得意とするのはジャズやヒップホップ、R&Bなどのブラックミュージック。00年代のファッション雑誌を愛読していたこともあり、そこに掲載されうる内容の取材はほぼ対応可能です。

X:@naoyakoike

Website:https://smartmag.jp/

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