「男はなぜ『刃牙』に憧れるのか?」 紗倉まな×鳥トマトが解き明かす、理解不能な“父性”と厄介な“母性”のトリセツオーバードーズする"整えたい欲"——推し活を駆動させる力

執筆者: 音楽家・記者/小池直也

子なしの毒親が増えている

新著『あの子のかわり』を発売した紗倉まな

――本作の鍵となる要素として「母性」があります。それについて、おふたりの考えていることを教えてください。

鳥:僕の考える「母性」は「愛するものを整えたい」という概念。本作でいえば「犬を綺麗にしてあげたい」、「旦那くんの生活を整えてあげたい」、「メイクアップアーティストとして相手を自分が思う形の美に整えたい」みたいな。

紗倉:とすると、母性って完璧だと思わない状態の何か・誰かによって掻き立てられる庇護欲みたいなものなんでしょうか。逆の立場からすれば「いや、別に自分は整えてもらわなくて平気だけど」という人もいるはずじゃないですか。赤ちゃんじゃない限り。

そこには、自分にとっての相手は、自分が思う完全ではないという押し付けがありますよね。愛とエゴが紙一重であるようで危うさを感じる。完璧なまでに整えようとする精神には、こちら側の要求があるわけで、暴力性が潜んでいることもある。

鳥:それが本作の帯文で金原ひとみ先生が「狂気」と書かれてるところ。由良ちゃんは友達のことを知りすぎたがゆえに、自他境界が曖昧な状態になっていますよね。

――思春期に母親に対して感じる疎ましい感情を抱くのは、それが原因なのかもしれません。

鳥:実は僕も子どもができたら母性が出るかな、と思ってワクワクしてたんです。でも一切、何も生じませんでした。だから普通に生まれ持った気質かなと。

それに母性を持った男性もいると思うんですよ。アニメ映画『ヴァージン・パンク』は、おじさんが児童養護施設の子どもをさらって自分好みの女の子に育てるんです。性的な目的はなく、ただ自分の望むような可愛いドールにしたら満足という。おじさんの歪んだ母性。

新著『あの子のかわり』を発売した紗倉まな&漫画『東京最低最悪最高!』などを手掛けた漫画家・鳥トマト新著『あの子のかわり』を発売した紗倉まな&漫画『東京最低最悪最高!』などを手掛けた漫画家・鳥トマト

紗倉:鳥さんは推し活をどう見ていますか? あれは男女差がなく、推している対象を神聖化したり、先ほど話したように、くすぐられる庇護欲は母性のようにも見えます。

鳥:今、流行っているアイドルのバスツアーの空気が、保護者会なんですよ。ご近所さんへの「うちの子がお邪魔したみたいで、すみませんね」みたいな、おせっかいパワーを感じます。それを他者が推し活として発揮するのは奇妙ではありますね。

紗倉:「うちの子」って、よくいいますよね。そのような推し活を見ると、母性は男性にもあるのではないかと思えますよね……。一方で、自分の子どもみたいな気持ちで推しを見続けて過熱する、毒親が増えているようにも感じます。

鳥:でもオタ同士が連携してハッピーコミュニティになるなら、悪いものでもないような。程度の問題ではないですか?

紗倉:少なくともアンガーマネジメント的な、「母性マネジメント」が必要になってくるような……。「3秒待ってから母性出せ」みたいな(笑)。

鳥:だから『あの子のかわり』の終盤で由良ちゃんと有里奈ちゃんがぶつかるシーンは、健全なんですよ。友達や家族に「庇護欲が出すぎ」って言えなくなったら終わりじゃないですか。

この記事を書いた人

音楽家/記者。1987年生まれのゆとり第1世代、山梨出身。明治大学文学部卒で日本近代文学を専攻していた。自らもサックスプレイヤーであることから、音楽を中心としたカルチャー全般の取材に携わる。最も得意とするのはジャズやヒップホップ、R&Bなどのブラックミュージック。00年代のファッション雑誌を愛読していたこともあり、そこに掲載されうる内容の取材はほぼ対応可能です。

X:@naoyakoike

Website:https://smartmag.jp/

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