「男はなぜ『刃牙』に憧れるのか?」 紗倉まな×鳥トマトが解き明かす、理解不能な“父性”と厄介な“母性”のトリセツオーバードーズする"整えたい欲"——推し活を駆動させる力

執筆者: 音楽家・記者/小池直也

男はなぜ『刃牙』が好きなのか?

漫画『東京最低最悪最高!』などを手掛けた漫画家・鳥トマト

――反対に父性についてはいかがですか?

紗倉:母性は理解できるなと思うんですけど、父性は全然わからなくて。

鳥:男性の気持ちを熟知している印象だったので、それは意外でした。

紗倉:恋愛対象として気になるのは、いつも母性があるように見える男性ばかりなんです。父性が強い男性を書けないのは、私の中で理解しきれていない性質だからだと思います。

鳥:父性は「俺は俺、お前はお前」みたいな感じがします。映画『スター・ウォーズ』は父を殺す話ですが、アナキン・スカイウォーカーは父として成立しています。

紗倉:ああ、獅子(ライオン)の子落としみたいな話ですか?

鳥:そうですね。父性って「俺の背中についてこい」的で、目指すべき正解に至れなければ、自分の息子でも切り捨てる。子どもだからという理由で免許皆伝をしないイメージ。

紗倉:つまずいたり転んだりして、ゴールにたどり着けなかった時点で切り捨てるのが父性。転んだのを見てケアして一緒に走るのが母性みたいな。

鳥:たぶん、そうじゃないですか。

新著『あの子のかわり』を発売した紗倉まな&漫画『東京最低最悪最高!』などを手掛けた漫画家・鳥トマト

紗倉:それで言うと、私は父に父性でかなり切り捨てられたなと思います。だから共感できない、したくないと思っていたのかもしれません…。あと高専時代、男子が多くてホモソーシャルな環境だったんですけど。みんな漫画『グラップラー刃牙』に憧れるのが謎で。

教室の後ろに全巻並べてあって、隣には上戸彩さんのグラビアポスター。わかるなあ、と思えたのはマジで上戸さんのポスターだけでした(笑)。

鳥:『刃牙』はまさにですね。少年漫画の父親はいきなり失踪して、そのポジションに息子が到達したときに帰ってきがちじゃないですか。それからやっと戦えるという。

それが父性なんだよな……。 答えがあるし、わかりやすい。でも母性はどこにあるかもわからないし、自分からも湧いてき得るし、人からも受け得る。

紗倉:それでも私はやっぱり母性のほうが共感できる分、手懐けるのが厄介でした。だからこそ振り返るし、追求したくなる。30数年かかりましたが、父親の言動もようやく理解できた気がします。

どちらに愛を感じるかは人によって違うと思うんですけど、そうなると個人の性癖も関係してきますよね。鳥さんの漫画からもたまに性癖を感じるのですが、それがよい……。

鳥:アート自体が性癖の発露みたいな感じですからね。それを何とか商業ラインに乗せるのがアーティストの使命。でも母性と同じく用法用量を守らないとオーバードーズするので注意が必要です(笑)。

この記事を書いた人

音楽家/記者。1987年生まれのゆとり第1世代、山梨出身。明治大学文学部卒で日本近代文学を専攻していた。自らもサックスプレイヤーであることから、音楽を中心としたカルチャー全般の取材に携わる。最も得意とするのはジャズやヒップホップ、R&Bなどのブラックミュージック。00年代のファッション雑誌を愛読していたこともあり、そこに掲載されうる内容の取材はほぼ対応可能です。

X:@naoyakoike

Website:https://smartmag.jp/

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