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[Alexandros]川上洋平が初エッセイ本『余拍』で紡いだ想いと描かれなかった「余白」の感情【インタビュー】

SNSや戦争について。普段歌詞に
載せない想いを本で伝えたかった

――そしてエッセイの後半では今の川上さんを取り巻く事柄を一つずつクローズアップされていました。身近に感じていることを文章にすることによって、新たな発見はありましたか?

「SNSに関しては整理ができたなという気持ちはあります。SNS自体に対して批判的な意見はなくて、僕もインスタのアカウントはあるけど、僕ではなくスタッフさんが発信していることが多いんです。僕自身、書きたい思いがあるとしたら、それを一言二言で消費させたくないという思いがあって。出すなら曲に載せたりとか、歌詞として出したいという気持ちがある。本もまたしかりで。だから出すとしたら、もう少し長い文章で伝えられるブログがいいなって改めて思いました。やはり一言では伝わらないものもあったりするんですよね。だから、あまりその世界(SNS)には足を踏み入れないようにしています」

――戦争に関する思いも語られていたのが印象的でした。

「それは僕の中でも大きくて。社会情勢や戦争に関して、僕は音楽で主張をしたくない人なんです。それを書く人がいるのは全然問題ないと思うのですが、やっぱり僕が届ける音楽ではそういったものから離れた違う世界に連れていきたいと思っているので、世俗(せぞく)的すぎるところからは離れておきたいという気持ちがある。ただ、自分自身の思いとして持っているものはあったので、それをこの本で綴ることができたのはよかったなと思います。結構戦争が身近に感じられる場所にいたこともあったので」

――幼少期に過ごしたシリアですね。

「だから僕から見ると、日本ってやはりそういうことから離れている国だと思う。僕はシリアで実際に感じたことがあるからこそ、ここで書いておきたいなと思いました」

――川上さんが過ごしていた時代のシリアはどんな状況だったんですか?

「ちょうど湾岸戦争が終わった後でした。シリアはそんなにダメージは受けていないものの、やはり爪痕(つめあと)は残っていましたね。やはりそのピリピリとした空気感は子供ながらに感じていました。あとは、独裁国家なので、そこは日本とは全く違うんですよね。大統領という人がどれだけの力を持っているのかが子供でもわかる。家には大統領の写真が飾ってあって、大統領への愛を形で示しているんです。僕は子供心に、みんな大統領が好きなんだなと思っていたのですが、僕がシリアから日本に戻ったときに『アラブの春』が起こった。それを知って、実はそうでもなかったんだなって。僕はそういう経験をしたからこそ、国の外側から見ているだけでなく、中に入ってみないとわからないことがたくさんあると思うんです。テレビの報道だけではわからないたくさんの思いがある。実際に自分に置き換えて考えてみたら、全く違う見え方になると思うんです。そういう僕が思っていることを、全部ではないけど伝えることで皆さんの心に引っかかりを作れたらいいなと」

――改めて考えるきっかけになったらいいということですね。

「“戦争反対”は当たり前なんだけど、その前になぜ戦争が起こったのか、なんでその人は戦いに行って自爆したのか、そこをまず知ることが大切だと思います」

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僕はやっぱり普通の人間
だから努力を積み重ねていく

――本を読んだバンドのメンバーからの感想は?

「みんな面白かったって言ってくれました。メンバーの一人はインスタに2夜連続で投稿してくれたりして(笑)。すごく嬉しかったです」

――本の中ではミュージシャンの先輩方からのコメントも寄せられています。

「皆さんステキなコメントを書いてくださって、本当に嬉しかったです。ただ、スガ(シカオ)さんだけ『焼き肉、頼み過ぎだぞ』というクレームがありましたけど(笑)。スガさんは、僕と同じくサラリーマンをやっていた時期があるんです。昔、僕が電車に乗っているときにリクナビネクストの広告をやられていて『僕もバンドマンに転職しました』みたいなコピーがすごくかっこよくて。それで僕も脱サラ転職組のバンドマンになろうって思ったことがあったんです。それで、改めてデビューしてスガさんとお話する機会があったときにはそのことも伝えて。それから仲良くしていただいているのですが、やはりスガさんも脱サラバンドマンの独特の空気感がある気がしていて。お話していると会社の上司と話しているような気持ちになるというか(笑)。そういうやり取りも楽しいんです。それに実はGLAYの皆さんも会社員経験があったりするんですよね。そういった共通項もあって、安心して好きだなって言える先輩たちなんです」

――本のカバー撮影は地元・神奈川県の葉山で行われたそうですが、印象に残っていることは?

「いろいろパターンの服を持っていったのですが、ロケ地に行ってその場に立ったときに白っぽいほうがいいかなと思ってスタイリストさんと話しながら衣装を決めていきました。表紙の写真はスタッフさんとみんなで選んだのですが、最初から、今のカバー写真か、中のページに入っているカメラを持っている写真かどちらかで決まっていたような気がします」

――生い立ちから今の川上さんまでギュッと詰まった1冊になっていますが、この本に書かなかった秘密を一つ教えて下さい。

「ドラマに出演させていただいたときの話なのですが。役者と音楽の仕事ってちょっと違うなと感じたことがあって。自分がドラマに出演するまでは音楽のステージと同じように役者さんが中心にいて、それをまわりにいるスタッフの皆さんが支えるようなイメージだったんです。だけど実際に現場に入ってみると、皆さんそれぞれ役割分担があるだけで、役者さんも『照明部』とかと同じ『俳優部』という一つの役割なんですね。つまり中心にあるのは作品なんです。それがロックバンドとは違うなってすごく感じたんです。ドラマの主演の女優さんも僕のように外側から見たらキラキラしたスターなんですが、現場では演技をする役割の人として立ち回っていたのがすごくステキでした。沢山の人と作品を完成させるという同じ目標を持って作り上げていく過程の中で、自分の個性や魅力を発揮するのってすごく難しいことだなって思ったんですね。それに比べて、音楽の世界では、自分たちのやりたい音楽をやりたいように届けることができる。それってすごいことだなって思ったし、改めてその環境をありがたいなと思うようになりましたね」

――今回の本を書いたことで、今後の自分にどんな影響があると思いますか?

「僕はやっぱり普通の人間というところから始まっているんだなって改めて思い出しました。だからこそ、こうなりたいという思いを自分で加えていく人間なんだなと。生まれながらのロックスターではないから、願望や努力を積み重ねてそれを本物にしていくような人生の歩み方をしないといけないんだな、というのを今までもわかってはいましたが、改めて実感しましたね」

――努力をしてきたからこそ、それが今の自信にもつながっているということですよね。

「今は、まだ一拍の前の余拍中(笑)。だからまだまだこれからです」

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番外編
To smart読者たちへ 
From Yoohei Kawakami

ここからは、smart読者のためのスペシャルな番外編をお送りします。インタビュー本編からこぼれ落ちた、smart読者に贈るメッセージから、エッセイ本の制作秘話までお届けしちゃいます!

10代、20代のファッションが好きなsmart男子たちへ

「最近の10代の子たちはみんなおしゃれ。めいっぱいおしゃれしてかっこつけるってことを臆することなく自然にやっている人が多いなって思うので、そこが僕らの10代とはちょっと違うのかなって思うし、すごくいいなと思っていて。僕自身も『この服って自分にはちょっと派手かな』とか思わず、着てしまいたいと思う方なので、なんでも着こなしちゃうマインドは大切にして欲しいと思います。何かにチャレンジする気持ちって服が連れてきてくれるものだったりもするので。

日常で着る服も、(自分を表現するための)衣装だと思って、服選びを楽しんだり、自分なりの着こなしを楽しんで欲しいと思います。自分が学生でも、サラリーマンでも、その他の職業でも、ファッションを楽しむ気持ちは忘れずに、毎日のコーディネイトを楽しみましょう」

本に描かれてた「マルジェラのバッグ」って?

5章で「知らない神様のために壷を買うなら、自分のためにマルジェラのバッグでも買えばいい」という言葉が綴られているのをsmartは見逃しませんでした! 実は、マルジェラのバッグに思い入れがあるのでは? と探ってみると……。

「実は、僕、マルジェラのバッグは持っていないんです。ちょうど語呂がよかっただけで。ちょうどその章を書いているときに、スタッフさんがステラ・マッカートニーのバッグを持っているのを見かけて。あ、いいなと思ってステラにしようと思ったんだけど、男性はあまりステラ・マッカートニーには馴染みがないかなって。それで、男女共通で支持されている(マルタン)マルジェラが丁度いいなって」

ちょうどいいバランスで言葉選びを楽しむ。そんなセンスも感じながら、エッセイ本を読み解いていくと、さらに深みが増すに違いない。

Profile/川上洋平 
かわかみ・ようへい●6月22日生まれ、神奈川県出身。4人組ロックバンド[Alexandros]でボーカルとギターを担当。ほぼ全曲の作詞・作曲を手がけている。TVドラマやCM、映画など多岐に渡り楽曲提供も行い、幅広い層に支持されている。
川上洋平インスタグラム
[Alexandros]インスタグラム

BOOK INFO
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『余拍』

川上洋平(著)、¥1,650、宝島社(刊)
ロックバンド[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の初のエッセイ。本書は、シリアで過ごした幼少期、帰国後の学生生活、20代後半でデビューし、駆け抜けてきた音楽への思い、そしてこれからの人生について、川上さんがこれまで明かすことのなかったエピソードが描かれている。セルフコーディネイトを含む撮りおろしカットも多数掲載された、ファン必見の一冊。

TOUR INFO
「But wait. Arena? 2022 supported by Panasonic 」

10/15(土) 愛知県 ポートメッセなごや 新第1展示館 OPEN 17:00 / START 18:00
10/16(日) 愛知県 ポートメッセなごや 新第1展示館 OPEN 16:00 / START 17:00
11/16(水) 大阪府 大阪城ホール OPEN 17:30 / START 18:30
11/17(木) 大阪府 大阪城ホール OPEN 17:30 / START 18:30
12/07(水) 東京都 国立代々木競技場第一体育館         OPEN 17:30 / START 18:30
12/08(木) 東京都 国立代々木競技場第一体育館         OPEN 17:30 / START 18:30
詳細は[Alexandros]公式HPまで

写真=大村聡志
スタイリング=長坂啓太郎[Sakas]
ヘアメイク=坂手マキ[vicca]
インタビュー&文=佐藤玲美

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