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モモコグミカンパニーがBiSHを通して得た哲学「自分をまっすぐに見てくれている人が多い環境が、その人にとっての“居場所”」

――その答えというのは何でしたか?

モモコグミカンパニー:小説を読んでいただいた方に感じてほしいんですけど、やっぱり人の目に映ることの意味とか、若い身体とかそういうのもすぐどこかに消えていってしまうし……。そういう自分の消費される先を、アイドルを夢見る女の子たちは必死に探しているんじゃないかな?っていうのが私の答えで。アイドルって、自分の身体を売り物にすることなので。自分の今の身体を無駄にしないとか、今のきれいな顔を無駄にしないとかそういう部分があるのかなって思います。だから、アイドルを目指すことは、自分を大切にする行為の延長みたいなところもあるのかな。ただ、私はこの仕事をしているからこそ思うんですけど、キラキラした部分ばかりを見ている女の子もたくさんいる。

――そうですね。

モモコグミカンパニー:だからみんながあんなにオーディションを受けるんだと思うし、でもそこだけが道じゃないんだなっていう。友美も結局挫折して違う道を選ぶけど、女の子が輝ける場所はたくさんあるんだよっていうのを伝えたかったんです。

――確かに傍(はた)から見たらキラキラして見えるけど、実際は泥臭いことって結構多いじゃないですか。例えば僕は編集者ですけど、編集者ってドラマの題材とかにもなりやすくて、例えば「ファーストクラス」のようにファッション誌の編集部も結構舞台になったりします。実際はキラキラしているっていうより、めちゃくちゃ泥臭い仕事が多いよな、みたいな。その“理想と現実”が違うっていうのは、やっぱりありますよね。

モモコグミカンパニー

自分をまっすぐに
見てくれている人が多い環境が
その人にとっての“居場所”

――続いて、具体的な作品内容についてです。ひろやんが友美に注ぐ真っ直ぐな愛情が印象的に書かれていますけど、 “ひろやんが友美にぶつけるような思い”をモモコさんが実際にファンの方から与えられた経験はやっぱり多いものですか?

モモコグミカンパニー:ひろやんみたいにダイレクトに思いをぶつけられたことはないです。結構ファンレターとかもいただくんですけど、そこまでダイレクトに心境を書く人とかはあんまりいないので。私のファンでいてくださる方がたくさんいる中で、誰が題材・モデルとかは本当にないんですよ。自分もひろやんの立場や、生きるのがつらいという気持ちもすごくわかるから、自分の気持ちも反映させましたし。

――ひろやんが友美にぶつけた愛情って、「自分がファンからこう思われたら嬉しい」みたいな部分も反映されているんですか?

モモコグミカンパニー:いやぁ~、それはないかもしれない(笑)。自分はこう思われたいとか、私はあんまりなくて。でも書いていてすごく思ったのが、アイドルとファン、メイドとお客さん―友美とひろやん-って、全然違うけど似ているところもあって。どっちも基本、自分のことしか考えていない。ひろやんは“自分の理想”をみくるに押し付けていて、みくるもみくるで、ひろやんに何を言われても「そんなこと関係ないし」みたいな感じのスタンスでいる。どっちも相手のことを思いやっている関係性のようでいて、自分のことを受け入れてもらいたいっていう者同士で、自分のことしか考えてないっていうのは、すごくもどかしい部分で。

――なるほど、確かにそうですね。究極、人生を生きるっていうのはそういうことなのかもしれないですよね。人のために役立ちたいと思っても、それは回り回って、自分のためになることをしたいと思うのが人間かなと……。

モモコグミカンパニー:そうですね。例えば好きなアイドルのスキャンダルが出たときとか、本当にその子のことを考えていたら、日常生活が潤ってよかったねって言いたいじゃないですか(笑)。

――本当にそうですよね。本当は素直に祝福できるはず。

モモコグミカンパニー:だけどそこで、自分の想像していたものが、ずたずたにされたって乱心してしまうのは、やっぱり自分のことを一番に考えているっていうことで、そういう部分もどっちもすごくわかるので、もどかしいなぁっていう気持ちがあります。

――そうですね。確かにスキャンダルが出たときに、こうあってほしいって姿が崩れたっていう、こうあってほしいって姿を相手に押し付けていたものが崩れたに過ぎないっていうか。

モモコグミカンパニー:そう、お互いがお互いに夢を見させ合ってるっていうか。アイドルのほうも、ファンに夢を見てるところもあると思うし、なんでも受け入れてくれるでしょ?みたいな。夢を見ているのはファンだけじゃないと思うんですよね。

――確かにそうですね。

モモコグミカンパニー:そういう部分を感じましたね、書いていて。

――あと、友美にとっての翔也だったりとか、ひろやんにとっての友美、圭にとってのリリアとか、「私がいないと彼、彼女は存在できない」と思っている登場人物が多く描かれています。それが表に出るか出ないか別として、そういう思いも人は少なからず持っているよなぁと、読みながら思ったんですよね。

モモコグミカンパニー:最近すごく思うのが、“自分の居場所”っていうのは、組織に所属してるという事実ではなくて、「どれだけ自分のことをまっすぐに見てくれている人が多いか」が、居場所っていう本当の心の安心感につながっているような気がしていて。自分のことをまっすぐに瞳に映してくれる人を、登場人物はみんな探していて、その過程でその思いが憎しみに変わったりもしてしまう。

――僕がめちゃくちゃ好きだったフレーズが「私のことをいつも瞳いっぱいに映してくれるような人でした。たぶん私、その人が瞳に接写する自分の姿に救われていたんです』っていうエピローグにあった言葉で。

モモコグミカンパニー:私も喫茶店でそのエピローグを書いていたときに、「あ、自分はこういうことが言いたかったんだ」って、タイピングした後に思って。ふと友美の口から出てきた言葉だったんですけど、この小説を書いてよかったな、この言葉に出会えてよかったなって、一番思えた瞬間かもしれないですね。

――自分をちゃんと瞳に映してくれる人が周りにいる環境であれば、そこはその人にとっての居場所なんですよね。

モモコグミカンパニー:そうですね、でもその環境って当たり前じゃないんですよね。そこにいるけど、誰にも知られなかったら自分は消えちゃうんじゃないかとか、思ったこともあるし。そういう“心の置きどころ”みたいなものって、人生においてすごく大切だと思うし、アイドルとファンの関係性もそういう部分をはらんでいるような気がしていて。

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