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“このミス”大賞作家・新川帆立を悩ませる「女性目線のかっこいい男、男性目線のかっこいい男」の違い

 第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し作家デビュー。10月にはデビュー作『元彼の遺言状』の続編『倒産続きの彼女』が発売され話題を呼んでいます。ミステリー界に新風を巻き起こした新人作家・新川帆立さんの魅力に迫るインタビューを発売中のsmart12月号で掲載していますが、こちらではノーカット完全版を2回に分けてお届け。本誌では紹介しきれなかった新川さんの今の気持ちが詰まっています!

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新川帆立インタビュー

衣装はすべて本人私物

日常で出会った興味深い言葉は
メモを取ってストックしています

――『元彼の遺言状』では“ブラックホールのような目”といった、独特の表現が印象的でした。それは海外生活が長いからこその表現なのでしょうか?
「英語はそこまでは得意ではなくて(笑)。それに私は日本語の語彙力がなくて、語彙力増強計画を遂行中で(笑)。具体的には今、『オール讀物』を毎月読んでいます。他にも、知らない単語があると辞書を引いてメモしたり。日本語を外国語のように学び直している感じですね。間違った使い方をしていたり、知らない単語もあるので、日本語ができるという前提を忘れて学び直しているという意識です」

――新川さんの小説には印象的な登場人物のセリフが多くあります。「セロハンテープと理屈は何にでもつく」という麗子の名言がありましたが、あの言葉はご自身から生まれたものですか?
「あれは、私が大学時代にお世話になった法律の先生がおっしゃっていた言葉です」

――作品外でも新川さんは、『努力とは自分の持っている資源を集中投下すること。体力・頭脳・時間をすべて小説に投入してそれでだめだったら仕方ないかな、という感じ』という言葉を残されていますが、この努力論とはどのように生まれたのでしょうか?
「自分の思考パターンから出た言葉ではあるんですが、小説に関して言えば、誰より面白いとか誰より上手といったように人と比べることって全然意味がないことで。自分の中で、弁護士より小説の仕事がしたいって思うならそっちを選べばいいし、自分の中で比べるものだと思います。その上で自分のやりたいことに集中して、自分のすべてを投下することが大切で。そうせずにいろんなことにちょっとずつ手を出すと、どれもが中途半端になってしまう。だからこそ一つに集中してみる。その結果できなかったとしてもそれは別によくて。やってみないと、できないってことすらわからなかったわけですからね。努力論で私が好きな言葉があって、尊敬するガチャピン先輩が『努力とは未来を見据えて今を生きること』と言っていてそれにも感銘を受けています。ガチャピンの言葉のように将来のことを考えながら今を一つずつ積み重ねていくことが大切だなと思います」

――前向きな考え方ですね。
「私はネガティブじゃない。周囲の人に対しても、嫌な気持ちとかは抱かないほうでもあるし。人に対してすごいな、うらやましいなとは思うけど、嫉妬や妬みは一切感じません。だから今回作家としてデビューして、人からマイナスの感情を向けられて初めて、人ってこういうマイナスな感情も持っているんだなと実感しました」

――そういったセリフや言葉のストックは他にも多数あるものですか?
「面白いなと感じたり、いいなと感じた言葉はメモするようにしています。喫茶店でも隣の子が言った言葉でいいフレーズだなと思ったらすぐにメモ。『彼氏からこんなメールが来て』なんて友達の愚痴を聞きながら見せてもらったメールが、あまりにも素っ気なさがあふれた文章だったので、それもメモしたこともあります(笑)。ストックは増えていますが、あまりぱっとすぐに使えることもないので、貯めているという感じですかね」

男性と女性の考え方は
違うからこそ
男性キャラを
深堀りするのが面白い

――新川さんの作品にはミスターパーフェクト的なイケメンは出てこないですよね。
「そうですね、ちょいちょい残念な男性が多いですね。ただ、講談社の『小説現代』という雑誌で連載が始まるんですが、そこでイケメンを書いています。ちょっとラブコメっぽい内容なんですが、男性を書くのが本当に難しくて。私の好みで書いちゃうと男性の編集者から『男から見ると、こんな男性はイヤです。器が小さく見える』と言われてしまって(笑)。女性目線だと、器なんて小さいくらいが可愛いじゃないかと思いますけどね。男性同士としてはリスペクトできない部分があるらしくて、本当に難しかったです。女子同士だとわかりやすいんですが。でも逆もあって、男性が書く女性ってリスペクトできなかったりするじゃないですか。だからこそ、私も男性をもっと書けるようになりたいけど、これから一歩ずつって感じですかね」

――男性である旦那さんに相談したりもするんですか?
「夫にもよく聞きます。夫は“男にはその人なりの流儀があるといい”と言っていました。例えば、休みの日は趣味のバイクで一人旅をしているっていう設定にしたら、そいつはちょっとリスペクトできる、みたいな。女性としてはそんなのどうでもいいよと思うけど、その人なりのこだわりとか男気とか、何か一本筋の通った物があると男性からも一目置かれるそうです、夫曰く(笑)。それが社会的なステータスとかではなく、とにかく釣りが上手いとか、その人なりの流儀があると、こいつはいいやつじゃんって思うそうです」

――smart読者もスニーカーに詳しい男子が一番かっこいいと思っているフシがあります(笑)。
「ちなみに、うちの夫はsmart読者です(笑)。私が作品の中で、その主人公が合理的な男性だからワンタッチネクタイを着けていて、それを『ダサ、これ』って笑うっていう展開を入れていたら、ワンタッチネクタイなんかを着けている男はリスペクトできないって一蹴されてしまいまして。女子的にはイケメンがワンタッチネクタイをしていたら可愛いなって思うじゃないですか。今度、ネクタイプレゼントしよう、みたいな気持ちになるのになと思ったんですが、ダメみたいです。男性だけじゃなく、すごくお金持ちの人の気持ちがわからないとか、自分と同じ立場じゃない人の気持ちがわからないっていうのと同じだと思うんですが、よく考えて書かないとハズしてしまうなと思っています。夫と話していると発見が多いので面白いですよ。だから今は女性の主人公が中心ですが、いずれは男性の主人公も書けるようになれればいいなと思っています」

――旦那さまの存在も小説に生かされているのですね。
「そうですね。夫は私みたいに切った張ったでバサバサ切り捨てていくタイプではなく、文系で情緒的な考え方をする人です。だから夫と私では、各キャラクターのセリフに対する言葉の受け取り方が全然違う。だから男性のキャラクターだと夫のような反応をしないと不自然になるのかなと感じています。細かいところではあるんですが、そういうところが難しいなと。その難しさも楽しくはあるんですが」

――『求められるものと書きたいものは矛盾しない』という言葉もありましたが、求められるものと書きたいものが重なる部分はどこだと分析していますか?
「わかりやすくて読みやすいリアリティのあるものを私も書きたいし、マーケットも求めるものだと思います。なので、私の中では全然矛盾はありません。今、求められているものとしてはお仕事系の小説の依頼が多い気がしています。私自身も書くのが嫌な分野ではないし、求められるのであれば書こうと思っていますしね。抽象的に、構造がきれいなものを書きたいとか、キャラクターが人間らしいものを書きたいとか、職人的な発想を持ちながら、かつ作りたいものというのがあるので、その中身は何でもいいと思っています。私は小説という創作物としてクオリティが高いものを書きたいなと思っているので、このテーマしか書かないとか、そういうこだわりがあるわけではない。なので、そこは出版社さんや読者さんの要望次第で書いていきたいなっていう気持ちがありますね」

新川帆立インタビュー

衣装はすべて本人私物

好きなことを叶えるには
叶えられる環境を作ることが大切

――小説家という夢を叶えた新川さん。好きなことを叶えるために必要なことは何だと思いますか?
「好きなことをやるためにどうしたらいいかというところは現実的に考えて、外堀から埋めていって好きなことができる状況を自分で作ること。例えば小説なら、こういう題材が好きでこれを書きたいという目標を持つだけでなく、小説家として本を世に出すためにはどうすればいいのかという部分もちゃんと考えることが大切です」

――「好きなことをする」っていうとリスキーなイメージがありますが、新川さんの話を聞くとそういうことではないということがわかります。
「そうですね。目的と手段は分けたほうがいいということですね。目的は好きなことでいいと思うんですが、その好きなことを実現するためには、まずは叶えられるし叶うんだってことをとりあえず信じたほうがいい。その上で、その夢を叶えるためにはどうすればいいのかという手段は現実的かつ具体的に考える、その通りに行動することが大切。でも、まずは自分を信じていないと具体的な努力もできないと思うんですよね。夢を叶えるためにリスクを取る必要はないと思います。リスクを取らなくても夢は叶いますから。今は副業が認められる企業もたくさんあるし、いきなり転職しないで土日だけやってみて様子を見てという方法もあると思うので。だからこそ、どうやったら好きなことができるための状況を作れるのか、自分なりにしっかり考えて道筋を作ることが大切だと思います」。

(了)

Profile/新川帆立
しんかわ・ほたて●小説家。1991年2月生まれ。アメリカ合衆国テキサス州ダラス出身、宮崎県育ち。東京大学法学部卒業で元弁護士。プロ雀士としても活動経験あり。2020年、第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し『元彼の遺言状』(小社刊)で作家デビュー。現在、『元彼の遺言状』の続編となる『倒産続きの彼女』(小社刊)が好評発売中。

本人コメント付き!
新川帆立の作品紹介

倒産続きの彼女

最新刊はデビュー作の続編となる
リーガル・ミステリー!

『倒産続きの彼女』
(ソフトカバー)¥1,540/小社刊
倒産の危機に瀕した会社を救うべく、「務めた会社がすべて倒産している」という女性について調査を命じられた女性弁護士・美馬玉子。嫌々ながらも、高飛車だが敏腕の先輩弁護士・剣持麗子とコンビを組み真相に迫っていく。調査が進む中、関係者の死体が発見され、結末は思わぬ展開へ。

新川帆立コメント
「主人公は女性ですが、男社会である弁護士事務所を舞台に書いた物語なのでsmart読者にも共感していただけるポイントがあるはず!過酷な競争社会を生きる方々がこの本と向き合うことで、ホッと一息つける時間を過ごしていただけたら嬉しいです!」

元彼の遺言状

大賞受賞作&40万部突破の
大ヒット記録を更新中!

『元彼の遺言状』
(ソフトカバー)¥1,540、(文庫)¥750/ともに小社刊
「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」という奇妙な遺言状を残し製薬会社の御曹司である元彼が亡くなった。弁護士の剣持麗子は犯人候補に名乗りを挙げた元彼の友人の代理人として奔走する中で、事件の核心に迫っていく。重苦しい世の中の空気を吹き飛ばす、新時代のミステリー。

 

Photography_SATOSHI OMURA
Hair & Make-up_RIKA SAGAWA
Interview & Text_REMI SATO
Edit_YOHEI KUMAGAI

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