「観客の人生を狂わせるつもりで吹く」ジャズトランぺッター・類家心平の矜持|“感想”でしかない世の中だからこそのライブの尊さ星野源&PUNPEEとの楽曲も振り返る
執筆者: 音楽家・記者/小池直也
観客の人生を狂わせるつもりで吹く
――若いミュージシャンとの現場も多いと思いますが、彼らに感じることは?
類家:ジャンルのボーダーがない感じがしますね。全アーカイブがテーブルの上にあるような今の環境のせいか「これをやってはいけない」という感覚がない。あとは世界的にもそうですが、いくつかの楽器を演奏できるマルチな人が多いですね。
例えばジャズミュージシャンだとドラマー・高橋直希くんのソロ音源『腕腕』はよかったです。一緒にセッションすることは何度もあったんですけど、彼がソロであんなアプローチをするなんて知らなかったから、驚きました。ピアニスト・市川空君のアルバム『原石!!!!!!』も素晴らしいんですよ。自分で作ったビートの上で自分のリリックを歌っているので、それを掘り下げるのかと思いきや、古き良きスウィングが好きみたいで。そんなバランス感覚が面白い。
――ご自身のバンド・RS5pbの新作『TOTEM』についても教えてください。
類家:トーテム・ポールでも知られる『TOTEM』という言葉には民族や文化の「象徴」という意味があります。我々のバンドも長いこと続けているので、今の自分たちの「象徴」と付けました。
――アルバムや楽曲のネーミングはどのように着想されるのでしょう?
類家:後付けで匂いや本などから採ります。でも本当にぶっちゃけた話、曲のタイトルは何でもよくて(笑)。ひとつずつ番号を付けていくだけでも全然いい。インストの曲だし歌詞もないので、あまりイメージに囚われないように抽象的な名前をなるべく選びますね。タイトルや歌詞があると先入観が強くなってしまうんです。
――8月2日にはリリースライブ「RS5pb “TOTEM ”Release Live」も控えていますね。
類家:音楽は空気を伝わって、それが耳に入ってきます。さらには音だけじゃなくて音に含まれる別の何かだったり、演者から発せられるものもあるし、逆に観客がパフォーマンスに影響することもある。それくらい空気は色々な情報を伝えるので、それをライブで体感してほしいです。
SNSなどのポストみたいに情報的に聴くことも必要だと思いますが、ライブだとより感覚的な部分で聴けるんじゃないかな。お客さんから「よくわからなかったけど、何か面白かった」と言ってもらえると嬉しいですよ。
――「それってあなたの感想ですよね」という言葉が流行る世の中で、感覚的であることよりもファクトが大事にされがちですが、それについては?
類家:世の中は感想でしかないと思いますよ。ただコロナ禍でのマスク着用、咳をした/しない、喋った/喋らないでお客さんが揉めたりして、主観で生きることが攻撃されかねない世の中になったなと残念に感じたのは事実でした。
でも戦争や世界平和というとアクロバティックな発想かもしれませんが、国籍や職業、宗教などの信じるものが違う別々の人たちが「僕のライブを見に来た」という一点で繋がる空間って非常に尊いと思うんです。だからこそ聴いた人の価値観や人生を変えたり、それこそ狂わせるくらいの演奏をしたい。どの現場でもそう思いながら吹いていますね。
――ちなみにライブの衣装について、こだわりは?
類家:ブルーノートの1500番台のCDジャケットは、汗ぐしゃぐしゃのスーツで演奏する写真が使われていたりします。あれはカッコいいですよね。でも実際スーツを着てたら本当に暑い(笑)。すぐクリーニングに出さなきゃいけないし、革靴よりスニーカーの方が断然動きやすいです。でも「オシャレは我慢」という言葉があるように、自分が着ていて気分が上がることは大事かな。
また音楽を演奏する行為は儀式的な側面も持っていると思うので、シャーマニックに奏でるための衣装という意味合いもあるかもしれません。着る物も含めてアイデンティティや表現だと思うので、音と同義という捉え方もあるのかもしれません。でも動きやすくて涼しくてカッコいいものがあれば最高。
(了)
Profile/類家心平(るいけ・しんぺい)
青森県生八戸市に生まれる。小学校のブラスバンドでトランペットと出会う。高校卒業後海上自衛隊音楽隊でトランペットを担当。退官後に上京し高瀬龍一氏にジャズトランペットを師事。2004年、SONYJAZZからジャムバンドグループ「urb」でデビューする。その後「菊地成孔ダブセクステット」や「DC/PRG」に参加しフジロックフェスティバル等の出演で注目を集める。自身の名義では「RS5pb」でアルバムをリリース、海外のジャズフェスティバルでも高い評価を得る。ピアニスト中嶋錠二とのデュオのアルバムもリリース。アニメと映画版の「坂道のアポロン」ではトランペットの吹き替えを担当する。ギタリスト大友良英率いるバンドONJQではヨーロッパツアーに参加し各地で好評を得る。
X;@SHINPEI_RUIKE
Instagram:@shinpei.ruike
取材協力/No Room For Squares
下北沢の片隅で営業しているジャズバー/ジャズ喫茶。 土日祝にはライブも開催。東京では数少ないリスニングバーとライブバー両方を兼ね備えた店である。営業時間 月火:BAR20:00-26:00、水木金:喫茶14:00-18:00 BAR 20:00-26:00、土日祝:ライブに準じる
X;@NoroomforS
Instagram:@no_room_forsquares
関連する人気記事をチェック!
photographer=西村満
place=下北沢・No Room For Squares
この記事の画像一覧
この記事を書いた人
音楽家/記者。1987年生まれのゆとり第1世代、山梨出身。明治大学文学部卒で日本近代文学を専攻していた。自らもサックスプレイヤーであることから、音楽を中心としたカルチャー全般の取材に携わる。最も得意とするのはジャズやヒップホップ、R&Bなどのブラックミュージック。00年代のファッション雑誌を愛読していたこともあり、そこに掲載されうる内容の取材はほぼ対応可能です。
Website:https://smartmag.jp/
お問い合わせ:smartofficial@takarajimasha.co.jp
この記事をシェアする
この記事のタグ