45歳地下芸人の帝王、マヂカルラブリーの師匠…名だたる人気芸人が崇めるおじさん芸人、モダンタイムスとしみつ2万字独占インタビュー
執筆者: 編集者・ライター/佐々木 笑
「地下芸人の帝王」「マヂカルラブリーの師匠」という肩書きを持つ、現在フリーで活躍しているお笑いコンビ、モダンタイムス。今回はその伝説のコンビのツッコミであるとしみつに2万字独占インタビューを行った(経緯は本文冒頭で説明)。
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芸歴24年、プライドが高く意地っ張りな45歳のおじさん芸人。「自分は嫌われ者だ」と言うけれど、芸人仲間からは愛されていて、いつも周りには人がいる。“としみつ”とは一体何者なのか。“モダンタイムス”とは一体なんなのか。そして、果たしてこの記事を最後まで読んでくれる人はいるのか……。
嫌われ続けた学生時代。今も昔も“お山の大将”
──本日はとしみつさん(以下:としさん)2万字インタビュー、よろしくお願いします。
俺の……いや、すごいですね、ありがとうございます。ファッション誌のwebサイトですよね? 大丈夫ですか?
──「としさんのコラムを掲載してくれないか」とsmart編集部に売り込んでいたら、編集の方が「そもそもモダンタイムスとは?としみつとは??」となったのがこの取材の経緯です。
コラムの掲載先を探してもらってますけど、なかなか見つからないですもんね。
──このインタビュー記事のPV数次第で、もしかしたら可能性があるかもしれません。せっかくなので、世に出ている中でとしさんのことを一番深く知ることができる記事にしたいなと。まずは簡単にプロフィールを教えていただけますか?
はい。45歳の芸人、本名は佐々木としみつっていうんですけど、「佐々木さん」って呼ばれてたバイト先を思い出すのと、親父が嫌いというのがあって、芸名は“としみつ”でやってます。本当はLINEの登録名も苗字を消したいんですけど、操作がわからなくてフルネームのままです。
──バイト先では、何か嫌な思い出が?
コロナ禍前まで、羽田空港の売店にお弁当を配るバイトを何十年もしてたんです。早朝一番乗りで作業してると、たまに、地方営業に向かう売れてる芸人に会うんですよ。三四郎の相田(周二)くんとかが「としさん!」って声をかけてくれたりして。
──それは複雑な心境ですよね。
嫌でしたね。朝の5時台から汚いジャンパー着て台車押してる姿なんて、誰にも見られたくないですから。
──生まれは青森県弘前市ですよね。ネットで弘前出身の方の特徴を調べてみたんですが、「陽気、意地っ張り、お酒が強い」と出てきました。
意地っ張りはそうですねぇ。プライドが高いっていうのもあるし、頭が固いんだと思います。 だから芸人を辞めないんでしょうし。酒好きも多いです。シソンヌのじろうさん、元ゾフィーのサイトウとかが弘前出身の同年代なんですけど、そのあたりも全員、根本は陽気ではないと思います。芸人やってるような奴は全員暗いです。相方のかわさん(川崎誠)も、根本は暗いんですよ。
──としさんも?
暗いですね。人見知りでもありますし。
──としさんってどんな子どもだったんですか?
めちゃくちゃいじめられてたし嫌われてたのに、学校は毎日行ってました。だからみんな、「なんでコイツ学校来んの?」ぐらいに思ってたと思います(笑)。行きたくはなかったけど、だんだん、俺が行くことによって空気が悪くなるのを楽しんでましたねぇ。
──それはいつ頃のお話……?
小中高、ずっとそうでしたよ。最後は絶対嫌われてましたから。全員に。
──なぜなんでしょう……?
本当に“嫌な奴”だったんでしょうね。いじめられてるのに、それを完全に馬鹿にした目で見てたんですよ。それって、いじめてる側も気づくじゃないですか。それで、何コイツってなっちゃって。
母ちゃんもたぶん気づいてたと思うけど、「なんかコイツの周りに友達いるな」ぐらいに思ってたと思います。小学校から同級生のかわさんもですけど、同じ境遇の奴らといつも一緒にいたんで、一人ぼっちっていうわけではなくて。いじめられてるグループのお山の大将でした。それが今と変わらないような気はしますね。
──“地下芸人の帝王”?
メディアがよく俺らのことをそう言ってくれるんですけど、絶対褒め言葉じゃねえだろうなと思います(笑)。
地下芸人とは?
──お笑い好きの間では認知されていますが、“地下芸人”という言葉を初めて聞く人もいるかと思います。そもそも、地下芸人の定義ってなんでしょう?
需要と供給が合ってないのが地下芸人だと思います。こっちはものすごい供給したがってるし、その準備もできていてやる気満々なんですけど、とにかく需要がないから空回りしてる。
──やる気がない地下芸人はいない?
その人たちはもう、ただただ“芸人”という名が欲しいだけの人かもしれない。地下芸人って全員、一応売れようとはしてるんですよ。俺らの近くにいる地下芸人……例えば“しゃばぞう”とかも、めちゃくちゃ新ネタ作って、めちゃくちゃ単独打ってるんですよ。
──わかりやすいところでいうと、最近、地下芸人から脱却した方って?
チャンス大城さん、みなみかわさんとかもそうだし、永野さんは前に一発当てていらっしゃるけど、もともとはそうですよ。ライブシーンで全くハマることがなかった人でもハネることがあるんですよね。で、僕らの前を進んでる人が永野さんです。
──永野さんの背中を追っているイメージでしょうか?
いや、ちょっともうだいぶ先行っちゃってるぐらいです。平場からネタから、僕らがやるべきことを全部やってる人が永野さんな気がするんですよね。しかも今、世間が永野さんを求めてるのを感じますよね。だから、全部やられてるなと思いながら背中を追いかけてる感じです。
──とは言いつつ、最近ではバラエティ番組で特集が組まれたり、冠ラジオがあったりするモダンタイムスって、そもそも地下芸人なんでしょうか?
地下芸人というワードを使ってテレビに出てる人、ですね(笑)。とりあえず今のフックという感じです。それこそちょっと前までは“マヂカルラブリーの師匠”でやってて、肩書きをちょいちょい変えている感じです。
──今の肩書きはしっくりきますか?
いや、長くは続かないだろうなとは思ってます。マヂラブ案件とかで「地下芸人といえば」みたいな感じで呼んでいただける今のうちに、何かいろんなものを仕掛けておかないと、何もなく終わっちゃうなって。
──ちなみにライバルって誰なんでしょう?
今日、たぶんその質問あるなと思って考えてきたんです。ライバルっていうとおこがましいのかもしれないけど、横並びでいうと“虹の黄昏(※)”がたぶん一緒ぐらいなのかなと思います。キャスティングする側が「どっち使おうかな」って思うくらいなのかなって。
※虹の黄昏……2005年結成、フリーのお笑いコンビ。一部お笑いファンの間で、長期に渡り根強い人気がある
でも、地下芸人ってたぶんもう俺らと虹ぐらいでだいぶ旨味を吸い終わってます。世間の人も、もう次のフェーズに行ってるというか。
──次のフェーズ?
別ジャンルの人たちですね。それが学生芸人になりそうだなと。たぶん、今その旨味を吸ってるのがナユタとかあのへんだと思うんですけど。
──要は移り変わりですか。
そうですね。たぶん、今年の夏ぐらいにはガラッと変わるんじゃないかと思います。第七世代って言葉を今誰も言ってないように、地下芸人なんて誰も言わなくなるんじゃないかなって。そもそもお笑い界はそれの繰り返しですから。
次のフェーズは“真のクズ?” モダンタイムスは毒親?
──では、モダンタイムスが次に狙っている肩書きはなんですか?
「本当のクズ」とかになるんじゃないですかね……。たぶん、売れるには引っかかるフックが3つ必要だと思うんですよね。例えば、みなみかわさんだったら「奥さん」「松竹」「システマ」とか、3つあればさすがに世間の人に覚えてもらえる気がします。
で、僕らには現状「地下芸人」「マヂカルラブリーの師匠」があるから、あと一個できれば……と思ってるところです。それが「クズ」だったりするのかなと。さすがにもう「ブサイク」で売れる時代ではないとも思うんで……。
──「クズ」の寿命ってどうなんでしょう?
次のクズが現れるので、寿命に関しては他のフックと一緒ですよね。
──今で言うと、岡野陽一さんあたりが世間に知られているクズキャラでしょうか?
それを最近ちょうど(マヂカルラブリー)野田(クリスタル)と喋ってたんですよ。川崎誠はキャラとかじゃなくて真のクズだ、みたいなことを。
去年12月、川崎誠が舞台から落ちて骨を折ったんですけど、病院に行かなかったんですよ。で、野田に「ほら見ろ! 骨くっついたぞ!」って見せてて。後日そのことを二人で話してたとき、野田が「今のクズって、怪我したら病院行くしな……」って言ってたんですよね。
──なんか……クズ以外の別の言い方もありそうですよね。
そうそう、それが見つかればいいんですよね。ただただ「金がないから病院行かねえ!」みたいなことって、やっぱりすげえよなと。
──……命の重さの考え方が違うといいますか。
そうですよ。だって、糖尿病って診断されてるからインスリン打てよって言うと「じゃあその3万円くれよ」って言ってきますからね。
テレビのロケで、モダンタイムスだけだと絵的にキツいからってことで、忙しいなか同伴で来てくれた野田への第一声も「金よこせ」でしたし。やっぱすげえなコイツ、って。
──それは、かわさんなりのふざけた挨拶?
いや、本気です。俺が本当に引いたのは、この前、後輩の“もじゃ”っていう女芸人が誕生日だったんですよ。でも誕生日なのにお金が0円ってことで、かわさんが「お祝いしてやるよ!」って言って、ランジャタイの国崎(和也)を呼んで、超高級焼肉に行って、「食べろ食べろ!」って言って、一銭も払わないで帰ったらしいんですよ。それができるのすげえなって。
俺なんかはやっぱりプライドがあるから、国崎と遊ぶときは、高いところには行けないけど、缶ビールを買って外飲みしたり、ごめんねって言いながら安いとこに行って、その代わり俺が全部出すんですよ。でも、川崎誠は違うんです。
──「モダンタイムスはどんなにお金がなくても後輩に奢る」というのを聞いたことがあります。モダンといえば(居酒屋が高いから)外飲み、みたいな。
それは俺のマインドです。かわさんはどうせ金ないんで基本僕が全部出します。僕が主催だからっていうのもありますから。あ、でも、かわさんは金持ってる奴から取りたいんです。「その金、死に金だろ!」って。
──死に金……。
「余したってしょうがねえだろ、俺に回せ」って言える人なんですよ。それが言えるのって本当にクズ……いや、クズっていう言葉以外になんかねえかな。クズじゃないですよね? やっぱ、普通じゃないですもんね。
──でも、かわさんって好かれてますよね?
好かれてるんじゃないですかね。結局、野田も国崎も「おもしろいな」になるのかもしれないです。野田もこのあいだ「本当クズっすねあの人。真のクズ。笑っちゃいますよね」って言ってましたし。
──びっくりするようなエピソードばかりですが、それでも愛されている理由は“おもしろい”から?
それと、“恩”なのかもしれないです。野田に関しては、アイツが16歳の頃から一緒にいるから。今もすごい若手の子たちが俺らの周りに結構いて、そいつらの面倒を見てるんですよね。元ハガキ職人だった奴が、芸人になりましたって言って俺らのところに来て、今はそいつが俺らの身の回りのことをやってくれたりしてて。“ドクターチェリーペッパー”っていう奴なんですけど。要はそういう奴が、のちの野田だとか国崎になったという。
──なんか、どんなに毒親でも、親のことは嫌いになれないみたいな。
ああ、言われてみればそうかもしれない(笑)。毒親なんだろうな(笑)。
この記事を書いた人
主な仕事は芸人さんの取材や、書籍・コラムの編集など。本名通りお笑いが大好き。ライブは年間約200本、365日芸人さんの活躍を追っています。
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お問い合わせ:smartofficial@takarajimasha.co.jp
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