92歳の名将が巨人・阿部慎之助新監督に贈る必勝法「信念を持って取り組めば必ず世間も変わる」広岡達朗『勝てる監督は何が違うのか』
執筆者: smart編集部
コーチ人事に期待すること
2023年10月6日、原監督の退任会見、そして阿部新監督の就任会見が同時に行われた。この席上で阿部は「とにかく強い巨人軍、愛される巨人軍を必ず作っていく」と意気込みを述べた。
オファーを受けたとき、阿部は「本当に僕でいいのか、重圧を感じていた」という。それでも、重責を担う決意をしたのだ。背番号「
83」の意味を問われた際には、次のように答えている。
「ジャイアンツの伝統を受け継ぐとともに、やはり原監督の『8』と、僕が入団当時の監督だった長嶋茂雄さんの『3』、この2つは大きな背番号だと思って、(原)監督にお願いしたところです」
長嶋から原へ、そして原から阿部へ―。
この発言は、自ら「ジャイアンツの歴史をきちんと受け継ぎたい」という思いの表れであると私は受け止めた。
やがて、組閣も明らかになった。その顔触れを見て、私は「なかなかいいぞ」と思った。私が目を引かれたのは次の3人だ。
二岡智宏……ヘッド兼打撃チーフコーチ
杉内俊哉……投手チーフコーチ
川相昌弘……内野守備コーチ
この3人の野球理論を、私もまた高く評価していた。
二岡には現役時代に守備についてアドバイスをしたことがある。そのときの彼の「何でも吸収しよう」という態度に好感を持った。さらに、その直後から見違えるように上達したことにも驚いた。おそらく、さまざまな試行錯誤を経て、懸命に鍛錬に励んだのだろう。
杉内はかつて、ジャイアンツに移籍してきたときに「巨人はランニング量が足りない」ときっぱりと言い切った。彼が経験してきた福岡ソフトバンクホークスとの違いを端的に言い表したこと。さらに、ジャイアンツ移籍後も黙々と練習に励み、若手投手陣に好影響を与えたこと。杉内もまた努力家であり、理論家である。どんな指導で若くて才能のあるジャイアンツ投手陣を導いていくのか?
エース格に育ちつつある戸郷翔征は2024年に24歳となる。同じく横川凱も24歳、赤星優志は25歳で、山﨑伊織は26歳だ。まだまだ伸び盛りの若き投手陣の伸びしろに期待したい。
そして川相だ。現役時代に守備の名手として鳴らした彼は、コーチになってからも精力的に自ら手本を見せて選手たちに指導している。
近年の内野手はみな人工芝に慣れきってしまい、守備の基本がおろそかになっている。最近の選手はほとんどが片手でキャッチしているが、それでは送球の際にワンテンポ遅れてしまう。「捕ってから投げる」のではなく、理想は「投げるために捕る」のだ。両手で捕球すれば、送球は格段に速くなる。
今こそ原点に立ち返って基本中の基本を徹底的に反復練習すれば、若い選手の多い内野陣は必ず伸びる。川相ならそれができるはずだ。
この3人のコーチに共通しているのは、現役時代にみな練習熱心だったということだ。近年のジャイアンツの選手たちは明らかに肥満気味だった。菅野智之を筆頭に岡本和真、中田翔、中島宏之など、身体のキレが全然感じられない選手ばかりだった。そもそも、2023年限りで退団した大久保博元コーチ自身が締まりのない体型をしていた。これでは選手たちに示しがつかない。
指導者というのは、まさに率先垂範、選手たちと一緒になってランニングできるぐらい節制していなければならないのだ。
中田と中島はともに2024年からは中日ドラゴンズに移籍することになった。いくら打線に課題があるとはいえ、今さらこの2人を獲得するドラゴンズのフロント陣、そして立浪和義監督は何を考えているのだろうか? 場当たり的な対症療法では問題は何も解決しない。
話が逸れてしまったが、2024年のジャイアンツキャンプを見ていても、多くの選手が身体を絞っているのが感じられた。最新の理論でウエイトトレーニングを行い、その上で適切な脂肪を身にまとっているのだろう。前年まで多く見られた寸胴型の選手は姿を消し、確実にみなユニフォーム姿が様になってきている。
これは阿部新監督の「厳しさ」がチーム内に浸透しつつあり、同時に新コーチたちがある程度の練習量をきちんと命じているからではないだろうか?いずれにしても、いい傾向だと思う。
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※本記事は発売中の書籍『勝てる監督は何が違うのか』(宝島社)の一部を抜粋したものです。
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