成長するには「自分の目指す“天井”の高さを決めろ」。“シンガポールから世界へ”「AnyMind Group」CEO・十河宏輔氏インタビュー
執筆者: エディター・ライター/相馬香織
人口、経済ともに急成長を続けるアジア市場。そんなアジアにおいて、ブランド・メディア企業やクリエイターなどの個人向けに、EC(D2C)、マーケティング、生産管理、物流などの領域で独自プラットフォームを開発・提供するテクノロジーカンパニー「AnyMind Group」。シンガポールから事業をスタートし、現在は東南アジアや日本を中心に13カ国・地域に展開している。今回は、AnyMindの共同創業者でCEOの十河宏輔(そごう・こうすけ)氏にインタビュー。日本と東南アジアの若者の違いや起業への思いを伺った。
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――十河さんの大学卒業後の経歴を教えてください。
十河宏輔(以下、十河):大学卒業後に就職したのは、当時サイバーエージェントのグループ会社だったマイクロアドという会社でした。入社して最初の1年は東京本社で営業として働いていました。2年目からは、子会社の立ち上げに関わり、2年目の後半からは海外事業部でベトナム拠点の立ち上げを担当しました。
――具体的にはどのような事業でのベトナム拠点の立ち上げだったのですか?
十河:インターネット広告事業の中でも、アドテク(アドテクノロジー)領域事業の海外における立ち上げを行っていました。最初のベトナム拠点の立ち上げの後は、東南アジアのシンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピンの拠点の立ち上げを行いましたね。
――海外で現地法人を立ち上げるのはとても大変なことだと思いますが、その時に大変だったことはありますか?
十河:そうですね、会社の設立においては日本と法律やルールが異なるので、各国のルールに沿う必要があり、そういった意味では難易度が高いと思います。会社を立ち上げた後のことで言うと、やはり海外と日本とでは文化や仕事に対する認識などが異なる部分があるので、人材の採用・育成・リテンション(保持・維持)がとても大事な部分だと思っています。しっかりと人を育てて、既存のメンバーを大切にしていく。それはどの国においても、力を入れていましたし、現在も日々苦労しながらもしっかりと取り組んでいます。
――海外拠点の立ち上げというやりがいのあるお仕事をされていた中で、起業をしようと思ったきっかけはなんだったんですか?
十河:もともと起業家になりたいという思いがずっとありました。父方、母方どちらの祖父も事業をやっていた影響もあってか、小さいころから「いつか自分も社長になりたい」という思いを抱いていたんです。東南アジアでの拠点の立ち上げをしていくうちに、雇われ社長ではありますが、現地法人の社長を任されるようになり、「やっぱり社長業って楽しいな」と改めて感じたんです。ただ、雇われ社長ではなく、自分で事業を立ち上げて、自分が本当にワクワクするような事業やプロダクトをしっかりと開発して世の中に届けていきたいという思いがあったので、それをやるならやはり起業するしかないよなと思い、AnyMindを立ち上げることにしました。
――その最初の拠点がシンガポールだったわけですが、シンガポールを選んだ理由は?
十河:事業を展開していくなら、最初からグローバルにビジネスを展開していきたいと考えていたんですよね。その時から、東南アジアを主力市場と捉えていて、どこにヘッドクォーターの機能を置いたらいいだろうと考えると、情報へのアクセスや地理的なアクセスにおいてシンガポールが最適ではないかと思ったんです。
――東南アジアを主力市場と捉えていた理由はありますか?
十河:僕たちが展開しているデジタルマーケティングの事業において、東南アジアの市場は圧倒的に伸びていたからですね。市場が伸びているだけでなく、平均年齢も若いので、どんどんデジタル化が進んでいくことがある程度わかっていました。その中で、僕が起業した当時の2016年は、まだ市場において革新的なテクノロジーがなかったため、東南アジアでいち早くプロダクトや事業を提供することによって、先行者利益をしっかりと取ることができるのではないかと思い、東南アジアに注力することを決めました。
――先見の明がすごいですね。現在の日本と東南アジアでの市場の違いはどう感じていますか?
十河:ベトナムのハノイやホーチミン、インドネシアのジャカルタなど、実際に東南アジアに行って街の風景を見るだけでもわかると思うんですが、新しいビルがどんどん建っていて、明らかに経済発展をしているのが見てとれます。著しい経済発展を果たすそれらの国々においても、僕たちの行っているマーケティング市場やeコマース市場は、インターネット領域におけるデジタルドメインの中でもとくに伸びている部分なので、市場全体の成長率の高さをひしひしと感じています。
かといって日本の市場がダメということはまったくなくて、日本はマーケット自体が非常に大きいと思っていて、まだまだ伸びている市場です。インフルエンサーマーケティングの市場も伸びていますし、EC事業もまだまだ伸びしろがある。僕たちが日本で本格的に事業を展開しはじめて3年半ほど経ちますが、まだまだこれから伸びていくなと感じています。
――お仕事で若者と触れ合う機会も多いと思いますが、東南アジアと日本の若者の違いはありますか?
十河:先ほど経済成長や市場の成長のお話をさせていただきましたが、若者も成長力の高い人が多い印象です。東南アジアの若い人たちは、未来は明るいと思っているのでポジティブな人が多いです。社会や経済が成長しているので、自分たちの生活もこれから豊かになると思っているんです。そのため、成長に対するハングリーさを強く感じます。
――「いつかは自分も起業したい」と思う若者も多いんでしょうか?
十河:そうですね、起業家志望の人たちも多いですし、実際に「起業します」と言って卒業していったメンバーもいました。僕たちが事業展開している国の中でいうと、とくにベトナムやインドは、起業家マインドを持っている人が多い気がします。
――インドはやはり成長が著しい国ですか?
十河:インドは国の勢いが圧倒的に違いますね。成長スピードが速くてハングリー精神があって、間違いなく伸びる市場だと思っているので、僕たちもインドにかなり注力しています。僕たちのようなテック領域の業界においては、グローバルカンパニーのマネージメント陣にインド人が参画(さんかく)しているケースも多いですよね。
――AnyMindにもいらっしゃるんですか?
十河:COOがインド人ですし、マネージメントの30%近くがインド人なんです。
――会社を経営していく上で、大変だったことはありますか?
十河:チームの組成からマネージメントがとくに大変でした。しかも海外拠点ばかりでコロナ禍でもあったので、なかなか自由に行き来することができず、事業も国も分散している分、社内での情報格差が起こりやすい環境になっていました。情報格差があればあるほど、社員同士の相互認識に差が出てしまい、そこから生まれる誤解が人間関係の摩擦に繋がってしまう。実際にそれがきっかけで、組織にネガティブな影響を与えてしまったこともありました。僕たちは今13カ国・地域で事業展開しているので、これがもし1つの国だけでビジネスをしていたらもっと容易にできていただろうなとも思います。
ですが僕たちにとって、すべての拠点がそれぞれ重要なので、社内のコミュニケーションを大切にして、共通認識を持てるような環境づくりに、時間を惜しみなく使っていこうと思っています。
――もし今、人間関係に悩んでいる若者がいたら、どのようなアドバイスができると思いますか?
十河:とにかくコミュニケーションをとってほしいと思います。コミュニケーションから逃げてしまうと、そこから改善していくことは絶対にないと思うんですよね。コミュニケーションを取り続けることで相互認識を高めていけば、間違いなく解決できると思います。
――十河さんは実際に会社を起業されましたが、起業をするうえで大変だったことはありますか?
十河:それはあまりなかったですね(笑)。本来、起業のはじめには事業を見つけたり、仲間を見つけたりしないといけないと思うんですが、僕はすでに海外拠点の立ち上げでそのようなことを経験していたので、起業に対するハードルを感じることはありませんでした。
起業の大変さって、物理的や肉体的なことよりもどちらかというと、心理的な不安のほうが大きいと思うんですよ。でも万が一起業がうまくいかなくても、実はそこまで大きなリスクはなくて、サラリーマンに戻りたいと思ったら戻れるわけです。起業したことがマイナスになることはなくて、万が一サラリーマンに戻る場合でも、むしろ起業した経験やチャレンジした姿勢を評価してくれる会社もたくさんあるのではないかと思っています。なので、起業でうまくいかないかもと不安になるよりもチャレンジ精神を持つことが大切だと思います。
――これから起業を志す10代、20代に伝えたい「起業するうえでの極意」はありますか?
十河:どういう会社を作りたいかによると思うのですが、僕の経験を踏まえると、自分の目指す「天井」の高さ=目標を決めることが大切かなと思います。AnyMindの場合は、「アジア全域でしっかりとインパクトを残せる事業を作っていきたい」とか、「アジアの成長をリードしていく会社になりたい」という思いがあって、それを今も持ち続けています。たとえその目標としている姿が、仮に今とかけ離れていたとしても、その「天井」があれば、それに向かって走り続けていくことができると思います。
――最後にこれからの日本を担う10代、20代の読者へのメッセージをお願いいたします。
十河:東南アジアやインドの人がとてもハングリーなように、かつて戦後の日本も同じようなハングリーさがあったと思うんです。このハングリーさは成長をしていくうえでとても大切なことだと思っています。10代や20代の方たちは、これから無限の可能性を秘めている中で、「世の中をもっと面白くしたい」という気持ちや、「自分の人生をもっと面白くしたい」という希望や欲を持って、その思いに忠実でいてほしいなと思います。そういう思いがあると、自分の人生が今とはまた異なるものになると思います。
Profile/十河宏輔(そごう・こうすけ)
AnyMind Group Co-founder/CEO
1987年香川県出まれ。2016年AnyMind Group(旧AdAsia Holdings Pte. Ltd.)を創業。横断的なデータ活用を軸に、商品開発、生産、EC構築、物流管理、マーケティングまで、ブランドビジネス全体を一気通貫でDXする事業をアジア13カ国・地域、19拠点で展開する同社の成長を牽引している。Forbes JAPAN誌「日本の起業家ランキング2022」TOP10、エンデバー・アントレプレナーへの選出など、国内外で複数の表彰歴を持つ。前職の株式会社マイクロアドでは最年少取締役としてアジア全域におけるビジネス拡大に貢献した。
撮影=大村聡志
インタビュー・文=相馬香織
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この記事を書いた人
映画配給会社を経て、出版社で企画立ち上げ、海外取材などを数々こなし編集長に就任。現在はベトナム・ハノイを拠点に、日本、韓国を飛び回りフリーランスの編集者として活動中。趣味はアクセサリー製作。インスタではベトナム情報をメインに発信中。
Instagram:@_kaori.soma
Website:https://smartmag.jp/
お問い合わせ:smartofficial@takarajimasha.co.jp
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