【AI時代の音楽と恋愛はどうなる?】音楽家・渋谷慶一郎が語る「経験の重ね方」と「自分に気がある人へ行け!」12月19日に2年ぶりのピアノソロ公演を開催
執筆者: 音楽家・記者/小池直也
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――ご自身はどんなデートをされるんですか?
渋谷:まったくAI的なデートはしなくて、とはいえ変わったこととか毎回違う趣向を考えるとかいうほど暇でもないから、基本は食事して話してみたいな感じだけど、話すことがある人は会うと楽しいよね。音楽も偶発的なことをきっかけに着想して、その上に色々な要素を乗せていくから、後で考えたときに自分でもどうやって作ったのか忘れていたりする。だから最初のデートは食事だけして家まで送って、みたいなマニュアルぽいプロセスを踏む気はさらさらないわけ。そういう人がいい人はそれでいいけど、そういう人は僕のところには来ない(笑)。
——渋谷さんの言うところの経験を積むためには、どうしたらいいのでしょう?
渋谷:これはひどいとか言う人がいるんだけど、自分のことを好きな人がいたら、そんなに好きじゃなくても練習だと思って付き合ったらいいと思う。それで後から好きになることもあるわけだから。男女に限らず、経験や練習はピアノでも恋愛でも大事。自分が好きかどうかっていうことをみんなすごく重要視するけど、冷静に見ればそれは単なる初期値でしかないんだよね。好きな人を追いかけるだけだと記憶や経験のレイヤーが増えないから、まずは自分のことを好きな人と付き合う癖をつけるほうがいい。
自分が相手を好きなのと、相手が自分を好きなのって関係性において本当は等価だから。みんな前者をクローズアップしがちだけど、後者のほうが無限の可能性が広がっているわけ。それを繰り返すことで経験が増えて、AI以上のデートや関係性の重ね方ができるようになる、ような気はする。
――自分を好きな人がいない場合は?
渋谷:でもひとりくらいはいるんじゃないかな。いなければマッチングアプリで探すのもアリだと思う。僕はXに「渋谷がTinderにいた」と書かれるのとか面倒だから使ったことないけど(笑)。
というか誰にも好かれない人って自分の特殊性に気づいてないことが多い。この前も30歳過ぎて童貞だという奴に「童貞なんでしょ?」と聞いたら、「それは何が『童貞』の定義にもよりますよね……」とか言い出したから、「それがまさに童貞なんだよ」と諭したけど(笑)。認識に自分と自己ロジックしかいないという人はなかなか難しいと思う。
――「自分を見つめたほうがいい」ということは、鏡を見るという点でファッションも同様だと感じます。
渋谷:僕は仕事柄で撮影されたり、コンサートで人前に出たりするから服はある程度は買うけど、「これを着たらモテる」とかいうのは全く気にしないし、服で左右されるとも思わない。それよりも今どのデザイナーが面白いことをやっているか、どんな影響を放っているかみたいなことのほうに興味がある。
そういう服は高いし難しいこともあるけど、それを突破する蓄積があるから得られる経験にもなる。着てもいないのに、生地の材質がどうのとか「質」に関して何か言う人もいるけど、実際に買って着てみて理解できることが経験としては大事なんじゃないかと思う。
服に限らず対価を払うのはリアルに自分のお金が減ることだから、そこで生じる経験の重さはあるし、逆にタダでしたことはほとんど経験にならない。僕がスタイリストをつけないのも「好きな服を自分で買う」という経験を選んでいるから。歳を取ってくると、派手な柄とか変わった型とか着ていても気にされないから、最近はますます興味のままで買ってる。
――「こういう服を着るべき」ということは考えたりしませんか?
渋谷:特にないかも。これは全部に共通してるけど、「今これが流行ってるからこの服を着る」とかいうマニュアル的で単純な考えの人はモテないと思う。逆に「あえてファストファッションでいい」みたいな態度表明もコンセプチュアルにはわかるんだけど、それで楽しいのかな?とも思う。
あと「白いTシャツにリーバイス501」みたいなスタイルを持っていて、それしか着ない人はシンプルで飾ってなくていい、とか言われるけど、それって「俺は飾らなくていい、変わらなくていい、そのままの俺を見ろ」ということだから、かなりのナルシストなわけ。それに気づかず「あの人、シンプルでいいよね」とか言っている女の子は頭が悪いと思う(笑)。
――「若者の恋愛離れ」という話もよく聞かれるようになりました。これについてはどう思います?
渋谷:例えば今の20~30代だと、それは女性よりも男性のほうに顕著な気がする。特に男性は性欲がないという話もよく聞く。その理由が「失われた30年」の経済的な理由と関係しているという人もいるけど、どうなんだろう?でも、お金がなくても恋愛はできるよね。逆に「お金があるからモテる」なんていうのは、パパ活みたいなもので限界がある。
例えば僕も高校時代、お金がなかったから公園でデートとかしてたわけ。それで代々木公園でいちゃいちゃしていると、当時それを木の上から覗いたり写真撮ったりしてる黒ずくめの男が何人もいたのね。そこで「覗かれてるからあっちに行こう」とか言うのはつまらないから、木を揺らすと枯れ葉にドサっとか落ちてきて、「何だよ!」とか言いながら走って逃げていくわけ(笑)。こういうのは面白いでしょ。
あと、逆に若い子とデートするときは高い鮨に連れて行くとかじゃなくて、その子が頑張れば友達と行けるような美味しいレストランに連れて行ったりする。そうすれば次から自分で行けるでしょ。それで、店の人が気が利かないと「いつもありがとうございます」とか言われたりするんだけど……。
この記事を書いた人
音楽家/記者。1987年生まれのゆとり第1世代、山梨出身。明治大学文学部卒で日本近代文学を専攻していた。自らもサックスプレイヤーであることから、音楽を中心としたカルチャー全般の取材に携わる。最も得意とするのはジャズやヒップホップ、R&Bなどのブラックミュージック。00年代のファッション雑誌を愛読していたこともあり、そこに掲載されうる内容の取材はほぼ対応可能です。
Website:https://smartmag.jp/
お問い合わせ:smartofficial@takarajimasha.co.jp
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