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【AI時代の音楽と恋愛はどうなる?】音楽家・渋谷慶一郎が語る「経験の重ね方」と「自分に気がある人へ行け!」12月19日に2年ぶりのピアノソロ公演を開催

執筆者: 音楽家・記者/小池直也

渋谷慶一郎

アンドロイド・オペラのプロデューサー、作曲家として知られる渋谷慶一郎が、1219日に東京・紀尾井ホールでピアノソロコンサート「Keiichiro Shibuya Playing PianoLiving Room」を開催する。テクノロジーを駆使する印象が強い彼が、どんなアコースティック表現を聴かせるのかが注目となるが、本インタビューのテーマはミュージックでもAIでもなく「恋愛」。このトピックについて大胆に語れる音楽家は、“稀代のモテ男”と評される彼をおいて他にいないだろう。渋谷の考える“AI時代のモテ論とは。

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退屈させたら女の子は浮気する

渋谷慶一郎

――今回は「AI時代のモテ論」というテーマでお話を伺えればと思っています。

渋谷慶一郎(以下、渋谷):この突拍子もない謎の取材にどう答えるか、昨日の夜にパリでシェアサイクルを漕いでるときに気づいたことがあったわけ(笑)。複雑系人工生命を研究している池上高志さんと以前から「複雑系でもAIでもメロディを作るのは簡単だけど、コード(和音)は人間がやったほうが全然いい」という話をよくしていて。メロディというのは時間発展で、コードというのは音の積み重なり、つまり縦の時間だよね。縦の時間とか積み重なりは人間のほうが強い、というのは科学が進化してもなかなか変わらない。で、これはAIの専門家も同じようなことを言っている。

これは人間には身体があるということがすごく大きくて、経験というか記憶というのは当たり前だけど身体に依存している部分が相当あるのね。だからシェアサイクルの自転車自体のコンディションによって漕ぎ方を変える必要があるとか、微細な経験の積み重ねで運動とか生活とかが構成されてるわけでしょ。一方で当たり前だけどAIにはそれがない。音楽でいえばコードをC(ドミソ)、D(レファ#ラ)と記号で表記するのは簡単だけど、実際はどういう音の組み合わせで、それぞれどれくらいの強さで鍵盤を弾くかという無数の選択があるし、それをどうするかという判断は経験とか記憶によってるわけ。

AIで生成した曲に感動しないのもそこで、そういう微細な経験がないからだと思う。今こうやってオンライン通話しているときも僕がお茶を飲んだり、別の誰かとチャットしている可能性があるわけだけど、その複層的な時間感をAIに感じたり作ったりするのは難しい。AIによって可視化されたのは、時間の複層性に自覚的かどうか。だから強引に話を恋愛に戻すとモテない人には経験に基づいた予測不可能性がない。

——それを一般的なデートで考えると?

渋谷:例えば「マニュアルみたいなデートはつまらない」という意見があるよね。というか、その意見自体がマニュアルみたいでつまらないんだけど(笑)、そう言われるのはデートの展開が「会って映画を観て、食事しました」みたいな単線的な時間発展しかない、つまり単純なメロディだけの曲みたいにシンプル過ぎるから脳が退屈になる。時間は複層的、つまりレイヤーでできているわけだから、映画を観ながらキスしたり隠し持ってたお菓子をあげたりしてもいいわけだよね。

最近だとモテない人に比べたら、AIのほうがまだ予測不可能性があるわけで、例えば店に買い物に行ってありきたりなことを言われたり、押し売りみたいなことされるよりAIが提案してくれるAmazonのおすすめのほうが驚きがあったりする。だから経験に基づく偶発性とか意外性がない人は悪い意味で日常的に接しているAI以下なわけだから、モテなくて当たり前ということになるよね。

――なるほど。

渋谷:経験足りないがゆえのモテない系男子というのは世代関係なく増殖してるらしくて、そういう男に飽きた女の子が僕に連絡してくるから、ここで話してるのはメディアとかを通してない一次情報(笑)。僕は大概のことに驚かないし、瞬発的にレスするからだと思うけど、よく秘密を告白されることが多いのね。

曰く「彼氏がいるけど、つまらない」みたいなやつで、それは国籍問わずあるだけど、特に日本は顕著だと思う。これは身をもって統計的に言える。なぜなら僕が仲良くなったひとの8割以上は付き合ってた人がいたから(笑)。だから大事にしてなかったり退屈させたら絶対女の子も浮気はするわけ。だから「彼女は大事にしないといけない」という言葉はなかなか含蓄(がんちく)があると思う。

渋谷慶一郎

――それに関していうと、レディファーストな態度はAI時代でも有効だと思います?

渋谷:僕は「レディファースト」を「ファーストレディ」と間違えたことがあるくらい、レディファーストとは遠い人間だけど(笑)、そうしたくなる気分が起きるかじゃないかな。形式的にやってることはAI以降はダメだから。

レディファーストとはちょっと違うかもしれないけど、これはレコーディングとかでも言えることで。昔、相対性理論と作った『アワーミュージック』は、ボーカルのやくしまるえつこさんの声が普段より女性っぽいと思うんです。あれは録音チェックのときに僕がボーカルブースの扉を毎回開け閉めしてあげていたことが関係あると思う(笑)。

バンドって部活みたいだから、そういうことはないでしょ。だから普段とは違う環境を少し作っただけで、歌に違うニュアンスが生まれるということはある。すごく古典的な映画監督みたいな手法だけど、それで引き出せることは結構あったりもする。

――世のプロデューサーとシンガー、ユニットのメンバー同士のカップルが多いことを考えると、「音楽を一緒に作っているうちに恋をしてしまう」という現象がある気がします。

渋谷:確かにセックスと音楽は似ているから、そうなる必然はあるでしょう。逆に「仕事関係の人には手を出さない」とかいう別段面白くもないことを美学っぽく語る人がいるけど、退屈だなとしか思えない。どこからが恋愛なのかという明確な線引きがあるわけではないから。仕事の延長でそういうことが起きるかもしれないし、その逆もあるかもしれない。僕はその点はフラットで、あらゆる偶発性を受け入れる方が面白いと思ってる。

この記事を書いた人

音楽家/記者。1987年生まれのゆとり第1世代、山梨出身。明治大学文学部卒で日本近代文学を専攻していた。自らもサックスプレイヤーであることから、音楽を中心としたカルチャー全般の取材に携わる。最も得意とするのはジャズやヒップホップ、R&Bなどのブラックミュージック。00年代のファッション雑誌を愛読していたこともあり、そこに掲載されうる内容の取材はほぼ対応可能です。

X:@naoyakoike

Website:https://smartmag.jp/

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