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「観客の人生を狂わせるつもりで吹く」ジャズトランぺッター・類家心平の矜持|“感想”でしかない世の中だからこそのライブの尊さ星野源&PUNPEEとの楽曲も振り返る

執筆者: 音楽家・記者/小池直也

星野源やSUGIZOとの思い出

類家心平

――ジャズには難しいというイメージもあります。類家さんはどのように会得しましたか?

類家:僕はジャズが発展したスタイルを時代順に<スウィング→ビーバップ→モード>という段階で勉強していきました。今は何事も学んだり、何かやりたいという時にお手本がありますよね。日本にいながらアフリカの演奏を観れたりもするじゃないですか。だから習熟のスピードは速いし、深いところまで行きやすいと思いますよ。でも僕がジャズを始めた当時はそういうものはなく、有名な音源を聴いて「これ、どうやってるんだ?」と手探りでした。

ただ想像する余白は多かったと思います。今だと完成形から達人、天才的な人まで全部見えてしまう。でも闇雲(やみくも)にやるうちに生まれるバグこそが面白いので、それは良くも悪くもだな……という気はしてます。個性的な人も多いですが、すごく上手だけど薄いものが量産されかねない世の中かもしれません。

――ご自分もそのようなバグを?

類家:先ほどのサブトーンの話もそうですが、「あれ?」と周囲を見ると「自分ってバグしかない人間なのかも」と改めて思いますよ(笑)。ただ今はジャズも教育的なカリキュラムで習う科目なので、正解/不正解と採点される時代です。だから不得意なことがあった時に「この部分であなたはマイナスです」と言われるわけです。

でも落胆するよりも別のアプローチでそれを補えるような表現ができないかな、と考えることが大切。音楽や芸術は表現なので、最終的に大事なのは自分がどういう表現をするか。だから得意なことを研ぎ澄ました先に自分の表現があるんじゃないかな。それが先ほどのバグに繋がるのだと思います。

伝統的なジャズは大好きですが、語法的でフリースタイルの巧みさを競うビーバップは正直、自分にとって複雑すぎました。それよりも今鳴っている音に反応するような演奏が得意だし、単純に好きだなと色々なことを活動を続けながら気付いたんです。

――その発見について、ターニングポイントになった経験があれば知りたいです。

類家:2007年に菊地成孔ダブ・セクステットに参加したこと。そのバンドでは伝統に囚われず、自由にジャズを解釈していたので「こういう表現があるのか」という発見がありました。それが自分的にもしっくりきたんですね。フォーマットが固まっている音楽より、それを崩したり、既に崩れた状態のほうがその場の音に反応できるなと。

それからアバンギャルドな表現や前衛的なアーティストとのセッションに呼ばれることも増えました。やっぱり好きだったり、得意なものを演奏している時のほうが説得力が出るんですよ。その方が観る人や聴いている人にとっても気持ちがいいんじゃないかな。

――自分の得意なものを発見するために必要なことは何でしょう?

類家:最初は「何でもやってみる」という姿勢が大事な気がします。僕も仕事を選ばずにオファーが来たものは何でも引き受けていました。そこで自分の表現をだんだんと見つけて、さらにフィードバックを繰り返し、最終的にどのジャンルでもオリジナリティを発揮できるようになった感じ。

そうするとフォーマットが決まっている音楽の現場でも間を縫って自由に吹く、というアプローチが改めて可能になるんですよ。だから失敗ができるうちに何でもやってみるといいと思いますね。特にポップスのサポートは自分でなくても全然成立する領域なので、参加することで何か変わる部分が少しでもあればいいなと思って臨んでいます。

――星野源「さらしもの(feat. PUNPEE)」のトランペットソロも類家さんでしたね。

類家:そうですね。米国人キーボーディストのコリー・ヘンリー「NaaNaaNaa」をサンプリングしたビートで、あえてクォーター(1/4)ぐらいチューニングを下げた音なんです。だから管楽器的なピッチ感じゃないんですね。そこで1度音程を普通に修正して録音してから、レコーディングしたトランペットの音ごと低くし直したんですよ。星野さんとは挨拶程度しか話せませんでしたが、深夜に顔を出してくれましたね。ずっと写真を撮っていた(笑)。

――類家さんはLUNA SEAのギタリスト・SUGIZOさんのバンド「SHAG」にも参加されています。こちらに関してはいかがですか?

類家:彼はインストゥルメンタルで自由にセッションする要素が強い「ジャムバンド」のシーンを広げたいんですよ。マニアックなジャンルなのですが、そこにSUGIZOというメジャーの人が取り組むことがありがたい、というか力強い。あとはミュージックラバーなだけでなく、ボランティアなどの社会的な活動にも積極的なんですよ。ミュージシャンとしてどう生きるか、それを真剣に体現している方。同じ音楽をやる人間として尊敬しています。

この記事を書いた人

音楽家/記者。1987年生まれのゆとり第1世代、山梨出身。明治大学文学部卒で日本近代文学を専攻していた。自らもサックスプレイヤーであることから、音楽を中心としたカルチャー全般の取材に携わる。最も得意とするのはジャズやヒップホップ、R&Bなどのブラックミュージック。00年代のファッション雑誌を愛読していたこともあり、そこに掲載されうる内容の取材はほぼ対応可能です。

X:@naoyakoike

Website:https://smartmag.jp/

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