「観客の人生を狂わせるつもりで吹く」ジャズトランぺッター・類家心平の矜持|“感想”でしかない世の中だからこそのライブの尊さ星野源&PUNPEEとの楽曲も振り返る
執筆者: 音楽家・記者/小池直也
独特の音色で国内外から注目され、星野源「さらしもの feat.PUNPEE」などにも参加するジャズトランぺット奏者の類家心平(るいけ・しんぺい)。彼が率いるバンド・RS5pbがニューアルバム 『TOTEM』をリリースした。荒々しさと荘厳さ、混沌や幻想といった異なる要素が独特のリリシズムによって繋がれた作品である。ジャズには「オシャレでカッコいいけど難解」というイメージが付きまとう。しかし彼をそこに誘ったのは、意外にもファッション誌だった。このインタビューを、Z世代にいるかもしれない“第二の類家”へ届けたい。
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情報密度の濃い音にある説得力
――改めて、類家さんがジャズと出会った時のことを教えてください。
類家心平(以下、類家):高校生の時に読んだ雑誌「POPEYE」にトランペット奏者のチェット・ベイカーが載っていたんです。その写真がカッコよかった。それで彼が憧れたというマイルス・デイヴィスの『Cookin’ with the Miles Davis Quintet』(1957年)を最初に買いましたね。膨大なアーカイブから何を聴くか迷いましたが、セールで安かったのとジャケットのデザインがよかったんです。
解説を読んだら、そのアルバムが「マラソンセッション」と呼ばれるシリーズ4作中の1枚ということを知り、全部集めてひたすら聴きました。演奏スタイルは少人数の編成によるコンボジャズ。小学校からトランペットを演奏していたのですが、ジャズアレンジの吹奏楽曲やビッグバンドとは全然違う世界でしたね。有名なルイ・アームストロングのハッピーで華やかな感じではなく、もの悲しさや哀愁といったブルース的な表現に「こんな世界があるんだ」と驚きました。
――「ブルー」と言えば、特に今の「ジャズ=おしゃれ」というイメージの確立にブルーノート・レコードの作品群が大きく貢献していると思います。デザイン、写真、録音と全方向にクオリティが高いことで有名ですね。
類家:レーベル名がスタイルやコンセプトを表す代名詞になったことに、心からリスペクトです。アーティストのやりたいことを尊重しながらレーベルの色を作り、さらに時代と共に革新的なスタンスでリリースを重ねる。意志を貫いたからこそ、おしゃれでカッコいいというイメージを確立できたんじゃないかな。
まさにジャケ買いしても損しないレーベルの代表格。トリミングや余白の使い方とか文字だけのタイポグラフィーのやつも今のジャケットのお手本になってるものばかりです。そのなかで好きなのは、世代ど真ん中だったイギリスのヒップホップグループ・US3のアルバム『Hand on the Torch』、大胆な余白がカッコいいマイルスの『Miles Davis, Vol.1』や『Miles Davis, Vol.2』とか。
後はリー・モーガンの『The Sidewinder』や『Rumproller』もよく聴きました。ベタですが、ソニー・クラークの『Cool Struttin’』こそ「洗練された」という視覚的なイメージを獲得したジャケットな気がします。
――それにしても、ファッション誌が入口だったのは意外です。
類家:当時はインターネットもないから雑誌が情報源でした。読んでいたのは『smart』や『POPEYE』、『MEN’S NON-NO』、『Boon』とか。当時はアメカジが主流で、ヴィンテージのデニムとかが流行ってて。青森県の八戸市が地元なのですが、三沢で米軍基地から流れてきた「リーバイス 501xx」や軍物ジャケットの古着を買ったりしてました。
今だと都会の街並みは動画で見れるし、同じものがネットで手軽に買えるけど、東京に対する憧れは強かったですね。ただ地元も若い人が少なくなって、店もなくなりつつあるとか。
――自身の演奏スタイルについて、どのように分析されていますか?
類家:僕はサブトーン(ハスキーな音色)を多用します。これはヨーロッパのプレイヤーに割と頻繁に使う人がいたり、サックス奏者ではもっとメジャーな奏法ではあるのですが、そういう情報に影響を受けて始めた訳ではありませんでした。
きっかけは小さいジャズクラブで演奏していたこと。至近距離でトランペットを吹かれると、結構うるさいんですよ。でも狭い場所で演奏しなきゃいけないから、小さい音なんだけどハードに吹いた時のようなエモーショナルさが伝わる吹き方はないかなと。そこで有効だと思ったのがサブトーンでした。それで試しているうちにできるようになりました。
当初は特別だという意識はなかったんですが「意外と特殊な奏法なのかも」と。それで自分の持ち味として深めていきたいと思いましたね。最近も「これはトランペットという楽器の可能性として面白いな」と改めて実感しているところです。
――類家さんにとって「いい音」のイメージとは?
類家:自分が感動する人の特徴は音に含まれている情報量が多いこと。だから自分も音色の密度をいかに濃くできるかを意識しています。譜面にしたら同じフレージングでも、その人にしか再現できない域にまでクオリティが達していないと説得力は出ません。大事なのは分析できない部分なんですよ。
この記事を書いた人
音楽家/記者。1987年生まれのゆとり第1世代、山梨出身。明治大学文学部卒で日本近代文学を専攻していた。自らもサックスプレイヤーであることから、音楽を中心としたカルチャー全般の取材に携わる。最も得意とするのはジャズやヒップホップ、R&Bなどのブラックミュージック。00年代のファッション雑誌を愛読していたこともあり、そこに掲載されうる内容の取材はほぼ対応可能です。
Website:https://smartmag.jp/
お問い合わせ:smartofficial@takarajimasha.co.jp
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