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M-1敗者復活戦で拝める“巧みな漫才師”2選。人事を尽くした熟練者・ヤーレンズ&手練れた若手エリート・ストレッチーズ

執筆者: 編集者・ライター/佐々木 笑

待ちに待ったM-1グランプリ2022まで、残すところ1日。決勝もさることながら、寒空の下でアツい戦いを見せてくれる敗者復活戦からも目が離せない。そこで、“面白い”が飽和する敗者復活戦の中で特に注目しているコンビを、僭越(せんえつ)ながら2組紹介させていただきたい。

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smartが注目するM-1グランプリ2022敗者復活戦に臨むヤ―レンズ(写真上)とストレッチーズ。

「次はヤーレンズが来る」は、
もう聞き飽きた

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2011年結成。大阪と東京のどちらでも苦汁(くじゅう)を味わってきたヤーレンズが見せるのは、ライブシーンで培(つちか)いまくった圧倒的に“うまい”漫才。今年のM-1予選が行われている時期、最も多く聞いた噂は「ヤーレンズが仕上がっている」だった。

ライブシーンではとっくにお墨付きの彼らは、7回叩いてようやく準々決勝の壁を打ち破り、初の敗者復活戦に挑むかたちとなった。長きに渡り足踏みし、土俵はもうカチカチ。そしてやっと風向きが変わった今年。決勝の舞台まで、本当にあともう少しだ。

都内の非よしもとの劇場は今、ケイダッシュステージ所属のヤーレンズに支えられていると言っても過言ではない。トム・ブラウン、モグライダー、ランジャタイ、錦鯉……同じ劇場に立っていた仲間が次々と売れ、ライブ本数がどうしても少なくなった現状にあって、その穴を埋めているのがヤーレンズだ。かつてはライブ出演本数が年間365本を超える年もあったという。ふらっと劇場に立ち寄れば、必ずと言っていいほどヤーレンズの名前を見る。そして、その舞台すべてで必ず笑いをかっさらっている。

安心と安定のヤーレンズが普段の舞台で見せる漫才は、長尺なことが多い。以前取材した際、ボケの楢原真樹が「僕らはほっといたら30分以上やってしまう」と言っていた。そんな二人にとって4分という尺はあまりに短いだろうが、M-1用に仕上げた漫才は一級品。踏んだ場数の分だけ獲得したスキルを凝縮し、そこから丁寧に引き算された至極の4分間は、お茶の間に漫才の厚みと笑いを届けることだろう。「小さじいっぱい分でも笑ってほしい」という思いで新調された楢原の脚長衣装とベッカムヘアにも注目だ。

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長年応援してきたファンの心理として「売れたら寂しい」という気持ちは少なからず付きものだが、不思議と、ヤーレンズに関してはそう思うファンはいないような気がする。ファン、芸人仲間、関わる人全員が、早く世に出てほしいと思うコンビだ。どんなに人気が出ても、変わらず劇場に立ち続けてくれるだろうという安心感があるからこそ、純粋な気持ちで応援できるのかもしれない。今後さらに、地下劇場のチケットを取りづらくしてほしい。

準決勝敗退後の日付け変わって深夜0:45。ツッコミの出井隼之介は「翌朝5:30起き遠方仕事の為、M-1落胆おじさん2人がホテルのツインルームにチェックイン。ここが地獄か。。」と、楢原のホテル着姿の写真とともにツイートしていた。こんなに面白い人たちが地獄にいなければいけない理由が見当たらない。

正直、M-1が待っているというより、M-1を待たせ過ぎているという表現のほうが適切ではないだろうか。「次はヤーレンズが来る」は、もう聞き飽きた。この“次”への通過点である敗者復活戦で、どうか天国への切符を掴み取ってほしい。

漲る若手パワーと手練れ感。
両極をあわせ持つ逸材、
ストレッチーズに酔いしれる

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そしてもう一組。昨今の劇場を賑(にぎ)やかすコンビ・ストレッチーズ。

長年劇場の流れを体感しているヤーレンズは、今のライブシーンで旬な芸人としてストレッチーズの名前を挙げていた。その言葉通り、彼らがひとたび舞台に上がれば、客席全体が目に見えない勢いに釣られ、自然と熱を帯び、笑顔になる。

コントインしない堂々のしゃべくり漫才にもかかわらず、舞台を大きく使用する見応えのあるパフォーマンス。抑揚(よくよう)が細かく調節されており耳馴染みの良い声質、他にはない台本、間、表情……どれもが小気味よく手練(てだれ)ていて、漫才を一本見終わった後の爽快感と満足感がたまらない。

一方で、その熟練された漫才に関係なく、人間そのものから小細工なしのエネルギッシュなパワーを感じる。手練た心地良さと、若手のパワー。掛け持ち不可能だと思っていた両極を携えた彼らの魅力は計り知れない。この絶妙なバランスは、たゆまぬ努力の賜物(たまもの)なのだろう。知れば知るほど酔いしれる。

結成2014年、年数だけで見れば若手の枠に入るが、学生時代からお笑いを続けている彼らにとって、この道のりは決して短いものではない。慶應義塾大学出身の二人が、親からの反対を押し切って入った世界にいたのは、他ジャンルの才能を持った天才たち。同じ事務所の納言や宮下草薙、毎日のように同じ劇場に立っていたハナコや東京ホテイソン、学生お笑い時代からの仲間・真空ジェシカ。周りの猛者たちに一足先に追い抜かれていた時期、彼らは人知れず苦しい思いをしてきたことだろう。

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しかし、腐ることなく漫才を磨き続け、今年の『ツギクル芸人グランプリ』で優勝し、ついに飛躍した。周りの活躍を見たうえで、福島は「僕らは天才じゃないから、努力して秀才になるしかない」と話していた。はたからみれば既に秀才なのだが、そんな彼らがさらに努力を重ねたら、一体どんな怪物になってしまうのか。着実に上へ上へと駆け上がる彼らは、今追っていて最も楽しいコンビの一組だ。

以前取材した際、「とりあえず準決、できれば決勝、できすぎの優勝」と、(『H2』の木根竜太郎のセリフをオマージュして)目標を語ってくれた。“できすぎのストレッチーズ”になるまでの過程を、止まらぬ躍進に振り落とされることなく見届けたい。

ネタ以外のバラエティ番組を始め、YouTubeやTikTokなど、どこで人気に火がつくかわからない昨今のお笑い事情だが、上述した2組はM-1、そして漫才にこだわり続ける。

ヤーレンズは、漫才を「僕らの需要」と、ストレッチーズは、漫才を「得意ジャンル」と話してくれた。どちらも、自分たちが世に出る方法はM-1しかない、と。

 

M-1の時期は、解散するコンビも多くいる。大好きな芸人が続けてくれていることに深くありがたみを感じながら、生粋の漫才師たちが挑む敗者復活戦を、全力で応援したい。

Profile/ヤーレンズ
ツッコミ担当の出井 隼之介 (でい じゅんのすけ/1987年生まれ、神奈川県出身)とボケ担当の楢原真樹 (ならはら まさき/1986年生まれ、大阪府出身)のコンビ。ケイダッシュステージ所属。

Profile/ストレッチーズ
ツッコミ担当の高木貫太(たかぎ かんた/1991年生まれ、埼玉県出身)とボケ担当の福島敏貴(ふくしま としき/1992年生まれ、埼玉県出身)のコンビ。太田プロダクション所属。

M-1敗者復活戦で拝める“巧みな漫才師”2選。人事を尽くした熟練者・ヤーレンズ&手練れた若手エリート・ストレッチーズ

©M-1グランプリ事務局

M-1敗者復活戦で拝める“巧みな漫才師”2選。人事を尽くした熟練者・ヤーレンズ&手練れた若手エリート・ストレッチーズ

準決勝直後に行われた『M-1グランプリ2022』決勝進出者発表会見

Information/番組情報
「M-1グランプリ2022」
12月18日(日)放送 午後6時34分 ~10時10分
ABCテレビ・テレビ朝日系列全国ネット生放送
出場者:真空ジェシカ、ダイヤモンド、ヨネダ2000、男性ブランコ、さや香、ウエストランド、キュウ、カベポスター、ロングコートダディ+ 敗者復活1組の計10組
※エントリー順

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カベポスター

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ロングコートダディ

「M-1グランプリ2022 敗者復活戦」
12月18日(日)午後2時55分~午後5時25分 ※一部地域除く
出場者:シンクロニシティ、ママタルト、ヤ―レンズ、令和ロマン、ななまがり、ハイツ友の会、THIS IS パン、カゲヤマ、ダンビラムーチョ、ケビンス、ストレッチーズ、オズワルド、ミキ、からし蓮根、かもめんたる、コウテイ、マユリカ、ビスケットブラザー
※エントリー順

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ミキ

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オズワルド

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からし蓮根

「M-1グランプリ2022 アナザーストーリー」
12月26日(月)よる11時15分放送決定!

「来週はM-1グランプリ 超お宝映像で振り返る!M-1衝撃の瞬間SP」
12月11日(日)ひる0時55分~午後1時55分
ABCテレビ・テレビ朝日系列全国ネット生放送

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文=佐々木 笑
写真=小山美里

この記事を書いた人

主な仕事は芸人さんの取材や、書籍・コラムの編集など。本名通りお笑いが大好き。ライブは年間約200本、365日芸人さんの活躍を追っています。

X:@sasaemi17

Website:https://smartmag.jp/

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