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連載山谷花純の映画連載「All is True」

【山谷花純×のん対談】のんの告白「初共演の時から花純ちゃんの顔が本当に好きだった(笑)」

執筆者: ライター・エディター/佐藤玲美

のん 確かにね。好きなジャンルは、面白ければ何でもいいんだけど、ホラーだけは苦手なの。あと、アクション系は好きだけど、バイオレンスが過ぎるというか、生々しいやつも苦手。マーベル作品も好きかな。「マーベルは映画じゃない」論争もあったけど。強いキャラクターが好きだし、マーベル作品に出てくるキャラクターって、スーパーヒーローじゃなくてイヤなヤツだったり、ダメなヤツだったりするのが好き。あとはコメディとかヒューマンドラマも好き。

山谷 のんちゃん主演の『私をくいとめて』(2020年公開)がすごく面白かったよ!のんちゃんが好きそうな、ぴったりな役だなって思った。

のん ありがとう、嬉しい! 私もあの役はやりたいって思って頑張った。

山谷 私が好きなのは製氷機のシーン。全然、氷入ってないじゃんって思うんだけど、なんか役っぽくっていいなって。あれは2020年公開だから、3年前くらいに撮影したのかな? のんちゃんもこういう“おませな役”をやるんだって思った。

のん 会社員の役柄っていうのが新鮮だった。花純ちゃんは何のジャンルが好きなの?

山谷 私も何でも見るんだけど、ヒューマンドラマが一番好き。ちょっと泣いちゃうようなハートフルな作品。ただ、すごく集中して観たいから、時間と心に余裕があるときに観たくなる。だから、パッと何か観たいなってときは、アクションとかサスペンスとか展開が早いものを観たりしてる。気持ち的に楽に見れるジャンルってあるよね。というわけで今回は、お互いに観て欲しい映画を発表し合いたいと思います!

のん 花純ちゃん、色々観てるからな〜。花純ちゃんが観ていない映画を提案したいんだけど……。『キツツキと雨』(2012年公開)はすごく良かった。

山谷 いいよね、あの作品。

のん やっぱり観てるか(笑)。林業を営んでいる役所広司さん演じる無骨な木こりと、小栗旬さん演じる気の弱い映画監督との出会いと交流を描いた作品なんだけど。私たちは映画の現場にいる人間だから余計感じるんだと思うけど、そのロケ地の田舎の人が「なんだ、こいつら」って撮影中の様子を不審な目で見ている感じとか、すごくリアルで。そこから映画の現場にどんどん魅了されていく姿が、ある意味青春ぽくって。映画を撮っている現場が輝いているものに見えてくるのがすごく気持ちよくて、「映画を撮るってこういうところが素晴らしいんだよね」とか「こういうところが変なんだよね」っていうのがギュッと凝縮された作品。

山谷 私もこの作品を観たときはもう女優のお仕事をしていたんだけど、まだ始めたての頃だったから、今、観たらもっとグッと入り込めそうな気がする。あれ、ゾンビ映画を撮ろうとしてたんだよね(笑)。

のん 不機嫌なのにゾンビにされて、なんかちょっとだけ気分が乗ってくる感じとか、すごく面白い。

山谷 もう一度ちゃんと観たいな。私がおすすめするのは洋画で『THE GUILTY ギルティ』(2018年公開)という作品。誘拐モノのサスペンスなんだけど、通報電話を受けた人が耳にピンマイクを当ててその耳と声だけで事件を解明していく物語。シチュエーションは変わらないんだけど、そのセリフのやり取りだけで情景が浮かんでくるっていうのがすごくて、どんどん観客が引き込まれていく会話劇なんだよね。きっと一人ひとり思い浮かべる情景も違うと思うから、見た人同士で話をしたくなる作品。80分くらいの作品だから、途中で集中力が途切れることなく耳に全神経を集めて観られる作品なので、イヤホンでスマホやタブレットで見るのもおすすめかな。

のん なるほどね。観てみたい。ヒューマンドラマでもう一つ『チョコレートドーナツ』はおすすめ。観たことあるかな?

山谷 同性愛に対して差別と偏見があった70年代の実話なんだよね。

のん 演技が本当にすごくて引き込まれちゃう。本当の家族に見えるよね。花純ちゃんに、花純ちゃんが観てないのを提案したい! 『毎日が夏休み』(1994年公開)はどう? 佐野史郎さんと佐伯日菜子さんが親子役で出演しているの。崩壊した家族が始めた“なんでも屋稼業(かぎょう)”で自分たちの絆を見直していく物語がのほほんとしていて、肩の力を抜いて楽しめる作品。あとはね、筒井真理子さんが出演している『よこがお』(2020年公開)。ある事件をきっかけに無実の加害者になってしまった女性の絶望と希望を描いたヒューマンドラマで、脚本力があるってこういうことなんだなって思ったし、筒井真理子さんの演技もすごかった。

山谷 その2本は観てないから観たい! (自分のスマホを見て)あ、『よこがお』は映画アプリのFilmarks(フィルマークス)で観たい作品に登録してた。筒井真理子さんは今年の4月に公開された『N号棟』というホラー作品でご一緒したよ。

のん (共演してたのは)知ってる。でもホラーだから、観れなくて(笑)。

山谷 筒井真理子さんは本当に素敵な女性。現場でも引っ張っていってくれる感じがかっこよかった。のんちゃんの作品でいうと、『海月姫(くらげひめ)』(2014年公開)も好きだな。

のん 2014年公開だから結構前の作品だよね。今振り返ると「もっとこうすればよかった」と考えることもあるけど、すごく嬉しい。

山谷 あのガニ股な感じとか、ズボラな感じを可愛く見せるのってのんちゃんならではだなって思ったよ。

のん 猫背は活かせたんだけどね(笑)。漫画原作のフォルムを表現できたらいいなって頑張ったの。

山谷 のんちゃんの作品は色々観ているけど、中だと『私をくいとめて』が一番好きかな。食品サンプルを作っているときも好きだし、脳内との会話もすごく面白かった。綿矢りささん原作で、本も読んでみたいなって思ったよ。

のん 原作にプラスして大九(明子)監督が加えたセリフもすごく面白いんだよね。花純ちゃんの作品で私が好きなのは『フェイクプラスティックプラネット』(2019年公開)。自分と瓜(うり)二つの人間が25年前にいたっていう設定とか脚本とか、話の展開も面白いんだけど、一人二役をしている花純ちゃんの演技が素晴らしかった。役者力があるというか。

山谷 あれは、自主映画なんだけど、今まではやったことがなくて。だからその世界に飛び込んでみようという気持ちでチャレンジした作品。結果、あの作品で賞を獲らせてもらったりとかして、私自身も思い入れがあるんだよね。それにしても、のんちゃんがこれを選んだのが意外だった!  

のん 意外だった? 丸刈りで末期がんの女性を演じた『劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命』(2018年公開)も大好きだったんだけどね。『フェイクプラスティックプラネット』は、シャワーを浴びているシーンとか友達にいろいろ言ってしまうところとか、感情の起伏が激しくて複雑な環境の中、感情が溢れ出しているのがすごくリアルで。人って、普通に考えたら色んな面があって、一つの人格なんだけど、本当に同じ人なのかなっていう側面も見えてきたりすることがあるんだよね。ただ、それを役として演じる場合は、このシーンとこのシーンの人が、同じ人に見えるように演じないといけないじゃない? 花純ちゃんの演技は、一つの人格として繋がって見えていて、それが役者力だなって思った。そういうのって台本を読み込んでいないと、繋げられないと思うんだよね。「この場面ではこういう人だった」というベースがあった上で、感情を乗せることが大切で。

山谷 それに、映画の場合は順撮りではなくバラバラに撮っていくから、感情を乗せるのって大変だったりするんだよね。パズルのピースを当てはめていって、一つの人格を作っていくような作業。『天間荘の三姉妹』で主役のたまえを演じたのんちゃんは、出演するシーンも多いじゃない? だから、そのパズルのピースを当てはめていく作業も多いから、どうしてるんだろうって思ってたよ。

のん それって場面ごとに計算しながらやっていくっていうより無意識にしていることで、台本を読み込んでいれば導き出せるものだと思うんだよね。そう思っているからこそ、「本を読むことが好きなんだろうな」とか、本を読み込んできたんだろうなって感じられる役者さんの演技に惹かれるんだと思う。花純ちゃんはTwitterで「2日間一歩も外に出ず、台本や資料を読んでいました」とかつぶやいていて、やっぱりめちゃくちゃ(役と)真剣に向き合う人なんだなと思ったことがあるよ。

山谷 まあ、そうつぶやきつつも、のんちゃんのYouTubeとかもチェックして、息抜きはしてたけどね(笑)。のんちゃんの“(作品の)繋がりフェチ”とかを聞いていると、やっぱり(役者としては)お互い変わっているなって感じる(笑)。

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のんちゃんって天然じゃなくて
ものすごく
計算している人だと思う

のん 花純ちゃんって、現場でもいつもみんなと一緒にいるわけじゃなくて、一人でいることもあるんだけど、みんなと話すときはすごくフランクで。あるときは私と話してくれたり。そのバランス感覚がすごくかっこいいなって思って。

山谷 のんちゃんも、みんなとも楽しく話すけど、どこか私と似た感覚で人との距離を保っているのかなって感じてた。フランクに話すけど、間にフィルターを一枚挟んで接しているというか。同じスタンスの人がいるなって思ったから、興味を持って話してみたいって思うんじゃないかな。『天間荘の三姉妹』の撮影はちょうど1年前。1年後とか短いスパンで、こんな風に再会できることって、この世界ではなかなかないことなんだよね。出会ってから長い時間が経って、何度か同じ作品で共演して、今回こうやって会えてっていう、タイミングを感じてきたからこそ、のんちゃんとはまたいつか一緒に作品で共演したいし、友人としても一緒に歳を重ねていきたいなって思う人なんだよね。

のん めちゃくちゃ嬉しい♡

編集部 お互いにどういうタイプの女優さんだと感じていますか?

山谷 のんちゃんはナチュラルな演技で天性の女優さんって言われることが多いと思うんだけど、私は違うと思うの。撮影に向けて頭の中で演技を組み立てて計算をして準備をしている。でもそれをあまり表に出さないで、ナチュラルに見せることができる人だなって思ってる。だから周りの人がナチュラルっていうのは正解なんだけど、実はすごく難易度が高いことをしているっていう。

のん やっぱり自分が携わった作品は成功しなくちゃいけなくて、そのためには自分が演じた役を見た人に信じてもらわないといけないと思っていて。だから、演じるときに役の中でどれだけ五感を動かせるかということを、いつも現場では実践してる。そのためにはしっかり台本を読んで、どういう人なんだろうっていうのを考えて書き出したりして、周りの人との関係性も結びつけるようにしているんだよね。

山谷 勉強して、準備万端で挑んでいる感じが近くで見ているとよくわかる。『天間荘』でも、あまり見られたくないかもしれないけど、監督に質問している姿を何度も見ていて。セリフの言葉の組み立て方などを相手が受け取りやすいように提示したりしていて、そういう歩み寄り方って、事前に準備をしていないとできないことだし、自分の論理がないとできないことだと思うから、天然とか天性ではなく、頭のいい人だと思う。

のん でも、それは花純ちゃんも同じでしょ?台本を読み込んでどういう人かっていう繋がりまで考えて演じている。私は現場に立って、どれだけ五感が動くのかっていう部分に集中するのが一番難しいんだよね。どれが正解、っていうのがないから難しいんだけど。だからこそ花純ちゃんは、その現場での瞬発力というか、役への集中力もすごいって思った。だって『天間荘』のラストのイルカショーを鑑賞しているシーンは、実際にイルカがいないのに素敵な涙を流していてさ。

山谷 そうなんだよね。あのときはショーと観客席を別に撮影したから、イルカはいなかったんだよね(笑)。

のん めちゃくちゃいいカットだっだし、感動した。ちゃんと、優那はイルカとたまえを見てたよ。あれはどうやるの?

山谷 あのときはね、のんちゃんに出会ってから重ねた時間を全部、気持ちに乗せたの。どっちかっていうと、自分のプライベートで感じたものとかを、私は変換して砕いて役に混ぜてエッセンスとして使ってる。「痛いな」とか「悲しいな」とか「楽しいな」とか、似ている感情を探して使ってるの。

のん 私も使うよ。

山谷 使うよね? となると、辿(たど)っていくと私たちに違いはあまりないのかもしれない(笑)。今までこんな風に話したことがなかったから、本当に楽しかった!

のん あっという間だったね! まだまだいっぱい話したい!

対談を終えた二人の感想&
フリートーク

編集部 対談を終えられて、いかがでしたか? 山谷さんは連載のホスト役として、初の進行役も務められました。

山谷 対談になっているのかわからないけど(笑)。質問とかいろいろ書き出してきたんだけど、そのメモを見る余裕も全然なくて、あっという間でした。

のん いやいや、こんなに対談になっていることないと思う(笑)。ちゃんと対談だったよ。

編集部 今までお二人が演技について語り合うこともなかったんですね?

山谷 役者同士って、あまり現場ではお芝居のことを話さないよね?

のん そうだね。みんな自分なりのやり方があるから、他の人に話すこともないし。「私はこのスタンスです」って披露することもないし。私はこの対談、すごく楽しかった。すごく褒めてもらえるし、気分も良かったよ(笑)。

編集部 ライターが質問するのとは、質問の質も違うなって思いました。女優同士の対談だからこそ、引き出せた話もたくさんあったなって。

のん 確かに。あとは花純ちゃんだからこそ話せた話もあるし、同じ職種なので共通語も多いし、お互いツボもわかっているから話しやすかった。

山谷 のんちゃんが初回のゲストで来てくれて本当に良かった。次は(せっかくLINE交換もしたので)仕事ではなく、ご飯に行きたいね。

のん 誘っていい? 花純ちゃんは猫ちゃんもいるし、その時間も大切かなって思ってなかなか誘えなくて。

山谷 その日はちゃんとお留守番してくれるから大丈夫(笑)。

のん あとはね、花純ちゃんが自分の想いを言語化するときの姿勢がとても誠実で、すごく好き。いいこと言うなってずっと聞いていられる。私は下手くそだから、こんな風に言葉にするんだとか感じたり。懐の深いところとかも感じられるところが好き。

山谷 のんちゃんの想いも色々聞けて、会っていない時間もお互い成長してきたんだなって改めて思いました。もう、今回は告白のし合いみたいになっちゃったけど(笑)、楽しかったのでまた機会があったらゲストで来て欲しいです! ありがとうございました!

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Profile/山谷花純
やまや・かすみ●1996年12月26日生まれ。宮城県出身。みやぎ絆大使。2007年、エイベックス主催のオーディションに合格し、翌年ドラマ『CHANGE』でデビュー。18年、映画『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』で末期がん患者役に丸刈りで臨み注目される。また、主演映画『フェイクプラスティックプラネット』がマドリード国際映画祭2019最優秀外国語映画主演女優賞を受賞した。22年放送のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では比企能員の娘・せつ役を好演し、今後が期待される女優。
主な出演作は、映画『告白』『寄生獣』『耳を腐らせるほどの愛』『人間失格 太宰治と3人の女たち』『天間壮の三姉妹』、ドラマ『あまちゃん』『ファーストクラス』『私の正しいお兄ちゃん』『liar』、舞台シェイクスピアシリーズ『ヘンリー八世』『終わりよければすべてよし』など。
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山谷花純公式ツイッター

(山谷さん衣装)トップス ¥25,300、パンツ ¥30,800、アームウォーマー ¥22,000/以上すべてLEINWÄNDE(ラインヴァンド カスタマーサポート customer@leinwande.com)、ピアス(右耳) ¥9,900、ピアス(左耳)¥6,600/ともにe.m.(e.m. 青山店 ☎03-6712-6797)、ブーツ¥9,790/RANDA(ランダ ☎06-6451-1248)

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Profile/のん
のん●女優・創作あーちすと。 2016年、劇場アニメ『この世界の片隅に』で主人公すずの声を演じ、第40回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞を受賞。17年に自らが代表を務める音楽レーベル「KAIWA(RE)CORD」を発足。22年2月に自身が脚本、監督、主演の映画作品『Ribbon』公開。22年夏には映画『さかなのこ』、22年秋には映画『天間荘の三姉妹』が公開。
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(のんさん衣装)ニットジャケット¥49,500、ニットスカート¥33000/ともにTAN(contact@tanteam.jp)、ブーツ¥93,500/CINOH(MOULD ☎︎03-6805-1449)、イヤーカフ(右耳)¥17,600、イヤーカフ(左耳)¥22,000、薬指リング(右手)¥28,050、人差し指リング(左手)¥28,050、中指リング(左手)¥21,450/以上すべてPLUIE(PLUIE Tokyo ☎︎03-6450-5777)

写真=斎藤大嗣
スタイリング=高橋美咲(山谷さん)、町野泉美(のんさん)
ヘアメイク=杏奈(山谷さん)、菅野史絵(のんさん)
文=佐藤玲美

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この記事を書いた人

東京在住のライター・エディター。『smart』『sweet』『steady.』『InRed』など、ウィメンズ、メンズを問わず様々なファッション誌やファッション関連のwebでライター&編集者として活動中。写真集やスタイルブック、料理本、恋愛心理、インテリア関連、メンタル&ヘルスケアなどの本の編集にも携わる。独身。ネコ好き。得意ジャンルはファッション、ビューティー、インテリア、サブカル、音楽、ペット、料理、お酒、カフェ、旅、暮らし、雑貨など。

Instagram:@remisatoh

Website:https://smartmag.jp/

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