“生粋の江戸っ子”柄本佑が考える東京の象徴は「神田まつや」【Amazon Originalドラマ『モダンラブ・東京』インタビュー前編】
ニューヨーク・タイムズ紙に掲載されたコラムをもとに、愛にまつわる物語を描いたAmazon Originalドラマ『モダンラブ』。その東京版となる『モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~』が10月21日から配信される。一話完結型のオムニバス形式の作品の第2話に登場するのが、今をときめく俳優・柄本佑さん。様々な話題作に立て続けに出演し、その存在感を際立たせている存在でもある柄本さんが、東京の美しい景色を背景に紡がれていく『モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~』の作品の魅力を語り尽くします。柄本佑という類まれなる個性に焦点を当てたロングインタビューだからこそ語られる言葉は必読。柄本さんのインタビューは前編、後編の2回に分けてお届けします。まずは前編から。
「ランジェリー姿にも挑戦」日比美思の初写真集タイトルが『朝食ってビュッフェですか』である意外なワケ
東京という美しい都市を舞台に
描かれたドラマで
振り返る東京の魅力
――2019年、ニューヨークを舞台に制作された『モダンラブ』はアメリカで大きな話題になりました。今年の5月にはインド版が配信され、その次の世界の美しい都市として舞台に選ばれたのが東京です。東京生まれ東京育ちの柄本さんですが、東京という街にどんな想いを持っていらっしゃるのでしょうか?
柄本 佑(以下、柄本)「生まれたのは静岡なのですが、生後5日で東京に来ているので、ほぼ東京生まれ東京育ちです。その中でも育った下北沢という街には思い入れがありますね。なので、今のように人が集まりすぎてしまうとちょっと、大変だなという思いもあったり(笑)。演劇の街と言われていますけど、僕にとっては生活拠点だった場所なので、演劇とはあまり関連がなかったりします。そのほかだと、淡路町にあるまつや(神田まつや本店)というお蕎麦屋さん。僕ら家族は大晦日に年越しそばを食べるために毎年3時間ぐらい並んでいるんです。僕が中学生の頃は、毎年その近くのやぶそば(かんだやぶそば)に行っていたんですが、一度(火事があって)改装期間で年越しそばが食べられないってなったときに、その裏にあったまつやに行くことにしたんです。それから、ずっとまつやさんなのですが、そこの蕎麦を食べながらお酒を飲む時間があまりにも贅沢(ぜいたく)で。だからまつやに行く時間は僕の中でだいぶ特別な時間なんですね。あの周辺の町並みも好きで、散策するのも楽しいですし」
――古き良き町並みが楽しめますよね。
柄本「あとはね、クリスマスは毎年夫婦でかっぱ橋のほうへお墓参りに行くんです。クリスマスってもう冬休みなので、あの周辺はあまり人がいないんですよね。だから、そのまま浅草まで散歩して、淡路町でまつやに寄ってお蕎麦を食べて……という時間も好きで。だから、東京で思い入れのある場所といったらまつやさんなのかな」
――今回のドラマ『モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~』ではEpisode2『私が既婚者と寝て学んだこと』にご出演されている柄本さんですが、作中では江東区木場にある洲崎(すさき)神社や新田橋など、東京の隠れた名所が散りばめられていました。撮影中で印象に残っている景色について伺いたいです。
柄本「僕は東京で船(水上バス)に乗るのが実は初めてだったんです。やはり感動したのが日本橋を始めとする石造りのアーチ状の橋。普段、橋を渡っているだけでは見えない部分ですよね。非常に精巧(せいこう)に作られていて、昔の技術でどうやって作られたんだろうって。ピラミッドを見てどうやって作ったんだろうって思うのと同じ感覚。しかも、当たり前だけどあれって崩れないでしょ?(笑)。下から見たのが初めてだったので改めて感動しました」
――橋についてのコラムを書く圭介役の柄本さん自身も橋に魅了されていたわけですね。
柄本「そうなんですよね。以前、高良健吾くんに薦められて読んだ本があって、本の題名は忘れてしまったのですが、その本に書かれていたのが『結果ではなく過程』なんだと。橋を下から見て感じたことは、今、橋が架かっているという結果よりも過程が興味深い。いかにしてこれができあがったのかという過程の部分にロマンがある。もちろん実存している今の橋も素晴らしいんですけど、いかにしてそこに至ったのかという過程がね……って俺、圭介みたいなこと言ってますね(笑)」
――(役の)圭介の(作品では描かれなかった)コラムの内容を話していただいているのかと思いました(笑)。『モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~』はオムニバス形式の一話完結の物語ですが、柄本さんが出演されたEp.2は情緒のある東京の風景が描かれていたのも魅力だなと思いました。
柄本「この撮影が行われたのは隅田川なのですが、先日、別の作品でもあの近くで撮影をしてきたんですが、やっぱり特別な感じがしますよね。川幅も広くて大きくて、なんか贅沢な感じがしていいなと思います。吹き抜けていく風も心地よくてとてもステキでしたね」
『モダンラブ・東京』で演じた
圭介との意外な共通項
――この作品の中で、柄本さんはフォトグラファー兼フリーライターの圭介という役を演じられています。榮倉奈々さん演じる佐藤加奈の離婚した夫という設定ですが、圭介は、どんな人物だと思いますか?
柄本「元々、どの作品においても役柄の分析はしないので、衣装合わせで衣装を見たときに、廣木(隆一監督)さんの中にある圭介像みたいなものが見えてきた感じでした。圭介は割とラフでニュートラルな人で、あまり人に圧を与えない雰囲気。だから過去に結婚していた加奈さんも、今でも居心地の良さを感じてくれていて。懐の深さがあるというか、細かいことを気にしないおおらかな人物なのかなっていうのは感じましたね。それが衣装やニット帽のような小物から感じ取ったことです。あとは、撮影をしていきながら、あまりきつい印象を与えずに話す人なのかなとか」
――カメラマンという役柄でファインダーを覗く姿もステキでした。
柄本「僕が通っていた専門学校で、映像と写真という2つのコースを選択していたんです。2年制だったのですが、1年のときに映像と写真の両方を勉強して2年に上がるときにどちらを専攻するか決めるんです。そのときに写真にハマっていた時期があって、自分の家でモノクロのフイルムを現像していたりしたんです。当時は森山大道やアラーキー(荒木経惟)に傾倒していまして。森山大道さんの著書『路上スナップのススメ』(光文社刊)の中で、『例えば商店街なら、行きを撮影するのはもちろん帰りも撮影すべし』っていうのがあって、僕はその言葉通りに行きも帰りも同じ道をパシャパシャ撮っていました(笑)。要するに行きと帰りで目線が変わるので、景色も違って見えるということなんですけどね。他にも『現像なんてせずにとにかく撮れ』っていう言葉を実践していたので、今も現像していないフイルムがめちゃくちゃたくさんあります(笑)」
――再び、柄本さんと話しているのではなく圭介さんのエピソードを聞いているような気持ちになっていますが(笑)。
柄本「あれ、またもや。いや、そういう過程があって、今回の圭介役という結果につながったというお話です(笑)」
――セックスレスが原因で別れた夫婦の物語でしたが、最近、社会問題としてよく聞くこのワードについてはどのように感じていたのでしょうか? ただ、圭介自身はセックスレスが離婚の原因とはわかっていなかったのかなと感じましたが。
柄本「圭介を演じている中では、セックスレスに関しては何も意識することはなかったですね。逆に言うと、圭介がセックスレスを2人の中で重要な問題だと考えることがなかったからこそ、それが離婚の原因になっているというのもあるので。僕個人としては、セックスレスに関してはいろんな家庭があるんだろうなと思うくらいで別段、深く掘り下げて考えたことはないです」
廣木隆一監督と榮倉奈々との
信頼関係が生んだリアル
――元夫婦役を演じた榮倉奈々さんとは、これまで何度か共演されていますが、今回の役に関して二人でお話をされたことはありましたか?
柄本「どの作品においても役を演じる上での会話をあまりしないほうなので、特に話したことはなかったですが、久しぶりに榮倉さんに会って感じたのは、存在自体が大きい人だなということ。背も高いんだけど、そういうことではなく存在が。撮影中に僕らが手を繋ぐシーンがあって、それを見ていた廣木さんが『君たちが並ぶと、なんかスゴイな』って言ってましたね。ふたりとも背が高いので(笑)」
――作品を拝見して絵になる夫婦だと思いました。
柄本「(榮倉さんは)おおらかな方なんです。もちろん現場でやられていることは芝居なので、(作品を)見ればわかることなんですが、それ以上にご本人の背景にあるおおらかさが存在感になっていて、そういったものが榮倉さんの魅力なのかなと思います。だから今回、随分久しぶりに共演させていただいたのですが、本人が(演技などで)操作していない部分の大きさを感じました」
インタビュー後編(10月21日(金)公開予定)に続く
『モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~』
10月21日より、Prime Videoにて世界同時配信
ニューヨーク・タイムズ紙に掲載されたコラムを基に、愛にまつわる物語を描いたAmazon Original『モダンラブ』。2019年にアメリカで制作され世界中で大きな話題を呼んだ同作が、舞台を東京に移し『モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~』として新たな物語を紡ぐ。映画界の第一線で活躍する監督たちと豪華俳優陣が集結したオムニバス形式の7つの物語では、忘れかけていた大人の恋心、息子や母親への愛、国境を越えて芽生える愛など、さまざまな“愛”のカタチが描かれるオムニバスドラマ。
Profile/柄本 佑
えもと・たすく●俳優。東京都出身。2001年、映画『美しい夏キリシマ』で主演デビュー。2019年、映画『きみの鳥はうたえる』(三宅唱監督)、『素敵なダイナマイトスキャンダル』(冨永昌敬監督)、『ポルトの恋人たち-時の記憶-』(舩橋淳)他でキネマ旬報ベスト・テン主演男優賞、毎日映画コンクール男優主演賞などを受賞。2020年に『アルキメデスの大戦』(山崎貴監督)で日本アカデミー賞助演男優賞を受賞。近年の出演作にドラマ「心の傷を癒やすと言うこと」(‘20/NHK)、「知らなくていいこと」(‘20/NTV)、「天国と地獄」(‘21/TBS)、「ドクターホワイト」(‘22/CX)、「空白を満たしなさい」(‘22/NHK)、「初恋の悪魔」(‘22/NTV)、映画『火口のふたり』(‘19/荒井晴彦監督)、『痛くない死に方』(‘21/高橋伴明監督)、『先生、私の隣に座って頂けませんか?』(‘21/堀江貴大監督)、『真夜中乙女目戦争』(‘22/二宮健監督)、『殺すな』(‘22/井上昭監督)、『ハケンアニメ!』(‘22/吉野耕平監督)、『カラダ探し』(‘22/羽住英一郎監督)など。公開待機作に『シン・仮面ライダー』(‘23/庵野秀明監督)がある。また自身の監督作品『ippo』(短編集)が1月7日より東京・ユーロスペース他で公開予定。
柄本 佑公式Twitter
柄本 佑公式HP
衣装=サスクワァッチファブリックス
問い合わせ先 https://sasquatchfabrix.com
写真=細見裕美[go relax E more]
スタイリスト=林 道雄
ヘアメイク=星野加奈子
インタビュー・文=佐藤玲美
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