M-1グランプリ2024は“トム・ブラウンハイ”で高揚感を味わいたい
執筆者: 編集者・ライター/佐々木 笑
トム・ブラウンのネタは“4D”
彼らの漫才を観ていると、ランナーズハイならぬ、トム・ブラウンハイに入ることがある。
もう、彼らが何を言っているのか、自分が何で笑っているのか、そもそも何を観ているのかわからなくなる。けれど、とにかく彼らの一挙手一投足がおもしろくて、時空が歪んだような空間の中で笑うことしかできないゾーンに入る。これが合法だなんて信じがたい……。
自分の笑い声や会場のウケに二人の声がかき消されないよう、必死に聞き逃すまいと耳が忙しくなるが、たぶんセリフの1個や2個聞き逃しても問題なく笑えるし、全セリフ聞き取れたとしても意味は分からない。もちろん、とてもいい意味で言っている。
漫才の詳しいことは分からないが、魂でやっているということだけはものすごく伝わる。
そんなトム・ブラウンのネタは、いまだに都内の劇場でワンコインで観ることができる。
「本当にこんなところに劇場があるのか?」と、たどり着くまで不安になるような、いわゆる“地下ライブ”。メディアに露出して人気を得た今でも、“あの頃”と変わらない足取りで、聞いたこともないような劇場に入っていく二人をたまたま見かけると、なんだか嬉しくてたまらない。
ネタのシステムこそ知られているが、その中身は誰にも予想することができない。それに、どんなに同じネタを繰り返し観たって誰もコピーできないし、二人が演っているところを観たくなる。この二人でなければ意味がない。この二人が演ってこそ、成立する。
私は、初めてお笑いを観に行く人には、なるべくトム・ブラウンが出演しているライブをおすすめしている。生のお笑いを「観る」のではなく「体感」してもらいたいからだ。おそらくみちおでなければ首の骨が折れているであろう布川の激しいツッコミ、布川の躍動とともになびく髪、みちおから吹き飛ぶ大粒の汗、爆笑で揺れる客席……ここまで書いていて、これは本当に漫才の説明なのか?とも思うが、トム・ブラウンの漫才は、4Dなのだ。
つまり何が言いたいかというと
普段お笑いを観ない女友達が、たまたまテレビでトム・ブラウンを観て「あの人たち、なんか奇妙で怖い」と悪気も他意もないストレートな感想を言っていた。
人となりを知っている私は「いやいや!」と訂正しようとしたが、よく考えたら、奇妙なことも怖いことも彼らにとってマイナスではないし、むしろその狂気性が魅力でもある。テレビでチラッと観た人がそう感じるのは普通だろう。
布川がリーダー気質や正義感を持ったうえで変人であること、みちおがとてもピュアで繊細な怪物なこと、コンビ揃って運動部出身特有の律儀さがあることを知っているのは一部のファンであり、こちらがマイノリティであることに気がついた。
それに、「奇妙」も「怖い」も確かに否定できないし、否定したいわけでもない。でもなんだろう、この心のモヤモヤは……と考えた結果、私はその印象に加えて、「おもしろい」というところまで知ってもらいたいのだと強く思った。
知れば知るほど愛おしくなるコンビであることは間違いないが、そこを知ってほしいわけじゃない。全部取っ払って、何も考えずに、トム・ブラウンの漫才をただ観て、ただ笑ってほしい。つまり何が言いたいかというと、「トム・ブラウンってめちゃくちゃおもしろいんだよ!」ということを伝えたい。
2017~18年頃、まだ短髪だった布川に「髪を伸ばしたら?」とアドバイスしたオードリー若林が今年初めてM-1の審査員になったことの因果だったり、ヤーレンズとのケイダッシュ仲間胸アツ展開だったりと、トム・ブラウンだけに焦点を当てても見どころがありすぎる本大会。
M-1に対して過度な神格化は避けたいが、アツく夢中になるのはとても良いことだと思っている。イベントなんて、楽しんだもん勝ちだろう。
でも、時にいきすぎて他者を傷つけるような感想を残したり、論争が起きたりすることもある。そんな中でトム・ブラウンの漫才を観ると、“おもしろいもので笑うだけでいい”という原点に戻してもらえる。
高校時代の柔道部の先輩後輩として出会った彼らから、私たちはまだまだ青春をお裾分けしてもらっている。眩しいほど豪華なM-1の舞台に、再び、あの頃の部室の匂いをそのまま持っていってほしい。ああ、早くトム・ブラウンのネタが観たい!
Profile/トム・ブラウン
布川ひろき(ぬのかわ・ひろき/1984年1月生まれ、北海道出身)と、みちお(1984年12生まれ、北海道出身)からなるお笑いコンビ。ケイダッシュステージ所属。『M-1グランプリ2018』以降、6年ぶり2回目の決勝進出。
Information/番組情報
「M-1グランプリ2024」
12月22日(日)放送 午後6時30分 ~10時10分
ABCテレビ・テレビ朝日系列全国ネット生放送
「M-1グランプリ2024 敗者復活戦」
12月22日(日)午後3時00分~6時30分
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文=佐々木 笑
この記事を書いた人
主な仕事は芸人さんの取材や、書籍・コラムの編集など。本名通りお笑いが大好き。365日芸人さんの活躍を追っています。アイコンは麒麟川島さんに描いていただいた宝物です!
Website:https://smartmag.jp/
お問い合わせ:smartofficial@takarajimasha.co.jp
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