「私の人生、朝ドラ向きだと思いません?」松本梨香の“面白がる”波乱万丈の人生に迫る自身の半生を語るエッセイ『ラフ&ピース』を上梓
執筆者: 編集者・ライター/志田英邦
お客さんやキャラクターに励まされて、前に進む
――松本さんは舞台女優としても、声優としても、歌手としても活動されています。喉がお強いことは本書『ラフ&ピース』でも書かれていましたが、身体づくりや体力はどのように維持されているのでしょう。
松本 仕事があるから、活舌(かつぜつ)が良くなるんですよね。歌も毎週、毎週歌わせてもらっているから声も出る。お客さんの前で歌うと、どんどん声が出るし、どんどん歌が上手くなっているってことですよね。そもそも私の父は大衆演劇の座長だったときに、毎日毎日休みなしで舞台に立っていたんですよ。舞台が生きる場所だったし、ちょっと具合が悪いなと思っても舞台に立つと元気になるみたいな。たぶん、ステージの上に立つと、痛みも悩みも全部忘れていたんだろうなと思うんです。たぶん、私も同じで。ステージに立つことで元気がもらえる。表現することや、客席に座っているみなさん、歌っている歌、演じている役柄、いろんなものから元気がもらえるんです。
――舞台の上で元気になっちゃうってすごいことですね。
松本 私はアニメーションでも洋画でも、元気な役柄を演じることが多いんですよ。だから、オンエアされたものや、完成した作品を観ると、すごく元気な私がそこに収められているわけです。それで私が演じているキャラクターもすごく元気。それを見ると、もう私も頑張らなきゃなって思うんです。やっぱり、キャラクターは私の子供みたいに見えるから、生みの親が元気がないといけないなって励まされるんですよね。
――役柄に励まされる。
松本 そういえば、以前ね、だいぶ前だけど、忙しくてすごく疲れているときがあったんです。精神的にも追い詰められていて。それで電車に乗って移動していたら、電車の中に『週刊少年ジャンプ』の広告があって、そこに『NINKU -忍空』の風助(主人公・アニメ版では松本梨香が演じる)が大きく描かれていたんですよ。風助の横には、ヒロユキ(ペンギン)がいてね。あれ、こんなところに風助がいる! って思ったら、風助が「頑張るんだぞ!」って言ってきたんです。自分が演じているキャラクターに話しかけられたんですよ。そういうことがあるとね、自分は一人じゃないなって思いますね。ああ、このエピソード、本に入れておけばよかった!
――まだまだ、松本さんの人生には、『ラフ&ピース』に収められなかったエピソードがたくさんありそうですね。
松本 自分の話をたくさんすると、みんなも納得してくれるというか。嘘を言いたくないから、お話を変えたり、着飾ったりもしていない。本当にあった話だけをしているんです。失敗の話もするし、ダジャレも言う。やっぱりこれだけ長く仕事をしていると、ベテランとか、大御所とか言われるようになってしまいがちなんですけど、そういうのはいらなくて。短い時間でも、なるべく普通に話をしたいと思うんです。自分としてはそういう壁があったら取り払っちゃうし、ダジャレを言っちゃうし。それでみんなと仲良くなれれば良いなと思っているんです。
――自分をさらけ出すことで、人との距離を近づける。それが松本流のコミュニケーション術。
松本 昔、パパが言っていたんですよ。頭の良い人ほど、馬鹿にもなれるんだよと。だから、知識を振りかざすのではなくて、馬鹿になって人の懐(ふところ)に飛び込む。自分はずっとそうやってきたんです。
――どのエピソードも面白いですけど、どのエピソードの松本さんも一生懸命ですよね。たぶん、そのときは一生懸命だからこそ、あとから笑えるんでしょうね。
松本 それが人生ですよね。辛いときや苦しいときがあっても、いつも思いっきりやっているから、あとから見ると笑えたりする。時間が経てば、面白く思える。「面白がれる人生が最高」。ああ、このひとこと、本に入れておけばよかった!
――二回目の「本に入れておけばよかった」(笑)。続編『ラフ&ピース2』に期待しています(笑)! でも、どんどん新しい役に出逢われているわけで、まだまだ松本さんの元気は尽きなさそうですね。
松本 元気は出し惜しみしちゃダメですよね。やれるんだったら、やれるだけやりたいと思っているんです。ライスワークとライフワークってあるじゃないですか。食うための仕事と、生きるための仕事。人を元気にしたり、笑顔したりするのは自分のライフワークだと思っているんです。みんなを元気にしたり、笑顔にしたりするのは自分の使命だと思っているんですよね。お金とかじゃない。自分のやりたいことなんです。息をするようにエンタメをやって、生きるようにエンタメをやりたい。そういう父のもとで育ってきたから、自分にとっては当たり前のことなんですよ。もし、自分が生まれ変わっても、きっと同じことをやっているような気がします。
――『ラフ&ピース』の後半では、松本さんがこれからやりたいことも明かされています。
松本 そう、ずっと恥ずかしくて、自分の身の丈に合わないような気がして、言えなかったんですけど、これからはどんどん言っていこうと思っています。やりたいことというより、やらなきゃいけないことですね。最期に亡くなった母や父に「よくやったな」と言われたいので。「まだまだこんなもんじゃないでしょ」って自分に言い聞かせてます。ジャンヌダルクみたいにね、道がなくても、道を作っていきたいんですよ。
――これからも松本さんの新しいエピソードが生まれそうですね!
松本 どう面白いでしょ? 朝ドラ向きだと思いません? ぜひ私の人生を朝の連続テレビ小説にしてもらいたいです(笑)!
(了)
Profile/松本梨香(まつもと・りか)
1968年11月30日生まれ。神奈川県横浜市出身。大衆演劇の座長を父に持ち、ミュージカルや2.5次元など、さまざまな舞台に立つ。1988年、テレビアニメ『おそ松くん』の松野チョロ松役で声優デビュー。『絶対無敵ライジンオー』で主役を演じ、以降、数多くのアニメ主人公を務める。『ポケットモンスター』では主役のサトシ役を演じ、自身が歌う主題歌はダブルミリオンを記録。世界的に知られるようになる。外国映画の吹き替えではサンドラ・ブロック(『スピード』『デンジャラス・ビューティー』シリーズなど)やミラ・ジョヴォヴィッチ(『ジャンヌ・ダルク』『フィフス・エレメント』など)、ドリュー・バリモア(『チャーリーズエンジェル』『50回目のファースト・キス』など)、テレビシリーズ『ビバリーヒルズ高校白書(青春白書)』のケリー役などを演じ、実力派声優としての地位を確立する。シンガーとしても数々の番組主題歌、挿入歌を担当。その歌声は国内にとどまらず、多くの海外ファンまでも魅了している。そのほか、舞台やテレビ、CM、ラジオにも数多く出演し、稀代のエンターテイナーと評される。
松本梨香X(旧Twitter):@rica_matsumoto3
松本梨香ネットリンク:https://lit.link/ricamatsumoto
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