【“くらやえみ”の絵が呼び起こす懐かしい記憶】村上隆率いるカイカイキキ所属アーティストが描く平凡の中の非日常とは?!
執筆者: smart編集部
ノスタルジックな情景が、見る人の心の記憶を呼び起こさせるような印象的な作風の作家・くらやえみ。5月に開催された個展のリポートを通して、彼女の作品に迫る。
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日常と非日常とを
絵の中で組み合わせる作品世界
東京・元麻布のカイカイキキギャラリーで、くらやえみの個展「散歩道」が5月に開催された(現在は会期終了)。今回の展示では新作を含むペインティング13点、ドローイング25点が展示された。少女をモチーフとした作品を、ずっと発表し続けているくらやは、まだ美大生だった2018年にHidari Zingaroで個展「Inside Outside」を開催、翌年にはカイカイキキギャラリーでの初個展を開催した。その後も2021年のソウルでの初の海外個展、その翌年には上海での個展開催などコンスタントに活動を続けている。
美少女がモチーフとなったアート作品自体は珍しいものではない。この連載でもたびたび紹介しているMr.やobなども個性的な表現で、国内外で人気を博している。しかし一口に美少女モチーフと言っても、実はそれぞれが全然違う世界を構築している。Mr.の場合は、80年代の郊外アウトサイド文化のひとつ、ヤンキーマインドにカタチ作られたスーパーファミコン16ビットのゲームテイストな世界観。obは、常に自身を投影して内面と対話する眼(め)の大きな美少女の棲(す)むファンタジーな世界観といった具合だ。
では、くらやはどうか。くらやの特徴はまずマンガのキャラに近いその美少女のタッチだろう。マンガとアートとの境界線を越えたパイオニアは村上隆だ。村上は宮崎駿に憧れアニメーターを目指したが挫折したというのは本人もよく語っている話で、くらやもまたアニメーターにもなりたかった少女であった。現代アーチストの多くはこのようにマンガやアニメから当たり前のように影響を多大に受けていて、ひと昔前の画壇のようなこれらのカルチャーを芸術ではないランクの低いものと見る感性はなくフラットになっている。
さて、もっとくらやの作品に注目してみる。そこには前述したマンガテイストで描かれた美少女に対し、場所が特定できるほど緻密に描かれた背景とのギャップがある。そのことについてくらやは、今回の個展に合わせて発売された作品集『Partly Cloudy』の中で次のように語っている。「私は、絵に描かれる女の子は、自分の内面から現れてくる存在だと思っています。一方の風景は、自分の外側にある世界と向き合うための装置としてとらえています。写真を見ながら風景を描くときは、この世界のなかに私自身と描かれた人物の居場所を探るようにして描画をします。それはまるで私の内面とアトリエの外の世界との距離を測りながら描くような感覚です。そうしたやり方は、今も制作のベースになっています」。
確かに、くらやはそうやって自分自身と外の世界とのボーダーのギャップを制作の糧(かて)にして向き合っているのかと思う。くらやに影響を与えたアニメーターに『化物語(ばけものものがたり)』や『神のみぞ知るセカイ』の渡辺明夫がいる。なるほど、『化物語』の中で平凡な街の風景とふっと現れた八九寺真宵(はちくじまよい)とのコントラストにハッとしたことがあったが、そんな平凡な中の非日常を楽しめる瞬間こそが、くらやの導く作品世界の神髄なのかもしれない。
Photography_KOZO TAKAYAMA, Ikki Ogata(portrait)
Text_HISANORI NUKADA
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