村上隆がゾンビを召喚! 韓国を代表する美術館で話題になった個展を振り返る
執筆者: smart編集部
韓国・釜山で開催された村上隆さんの個展。ゾンビをテーマとした話題の展示をレポートします。
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村上隆がゾンビを召喚、
その意味するところは何か
現代アートの展示で韓国を代表する美術館、釜山市立美術館で「Takashi Murakami: Murakami Zombie」展が2023年3月12日まで開催された。これは日本を中心として活動中の世界的アーティストである李禹煥の「李禹煥とその仲間たち」の4回目となる企画プログラムで、シリーズ4人目の作家として村上隆がインバイトされた。李禹煥は戦後のアート“もの派”を牽引する大御所アーティストであり、氏の代表作のひとつ、割れたガラスと石などの、ニュートラル素材と自然素材とを組み合わせた作品は見たことがある人も多いのではないか。韓国での開催について、実は韓国でも村上隆は大人気だ。特にBTSのメンバーがバッグにアクセントとしてフラワーのアクセサリーを付けていたことで、現代アートとは縁遠いK-POPファンの間からも「かわいい!」として話題になっていた。
さて、今回の村上隆のテーマである「ゾンビ」は大変に注目すべきアイコニックなものだ。まず村上作品に流れている「カワイイ」「グロテスク」「物の哀れ」を考えてみると、そこには現代を生きる人間の感じる心理が大きく凝縮されていることに気づくだろう。特に東日本大震災、パンデミック、そしてウクライナ戦争と続く、ディザスターやパンデミック、核戦争によるアポカリプスの恐怖といった人類を襲う生命の危機へのシグナルは大きい。この不安定な世界にもしかしたら人は生きながらゾンビとなっているのではないか、今ある現実は果たして明日もリアルとして存在するのだろうかという『マトリックス』的世界も投げかけているようにも見える。
ゾンビが跋扈(ばっこ)する「もののけの世界」はずっと村上隆が描いてきた場所だ。村上が影響を受けた水木しげるは妖怪画の第一人者だし、リスペクトしてやまない宮崎駿もまた『となりのトトロ』『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』と多くのもののけの登場するアニメ作品を世に出している。さらにゾンビといえばジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』が有名だが、これもただのグロテスク映画ではなく、文明社会を痛烈に風刺した社会派ムービーとしてカルトな評価を得ているといった具合に、ゾンビを題材とした作品は哲学的で奥深い。
この展覧会は、村上隆の回顧展といった側面もあり、一般公開されたことのない初期作品から絵画、大型彫刻、設置、映像といった最新作に至るまで約160点を紹介している。またデジタル処理のキャラクターである「アバターNFT」から、ARを体験できる「村上ゾンビAR」まで、村上が作る最新のキャラクターまで揃っていて、村上隆の30年間の軌跡をフォローアップできる。今、この不安定な時代に村上隆がゾンビを召喚してメッセージを送ってきたことの意義は大きい。
©Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. Courtesy of the artist and Perrotin
Photography_ Studio Jeongbiso, Dongseok Park, RK(IG:@rkrkrk)
Text_HISANORI NUKADA
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