「絶対面白くなる」恋愛リアリティ番組の常識を覆したNetflix『あいの里』プロデューサーに聞いた、“35歳以上”の恋愛番組に込めた想い
執筆者: ライター/石野志帆
Netflix『あいの里』プロデューサー 西山仁紫さん
――35歳~60歳の個性豊かなメンバーが集まりましたが、参加者選考では何を一番重視したのでしょうか。
西山 一番は「とにかく恋をしたい」という強い意志があるかどうかです。これが一番でしたが、出てくれた住民の方々は本当に「これがラストチャンスだ」という崖っぷちの想いで参加してくれました。「恋をしたい」「愛を探したい」という気持ちが、思った以上に本当にみんな強くて、結果的にカップルがたくさん生まれたのは想像以上のことでした。
――台本のない生活で起こるのは想定外のことばかりだったと思いますが、そのなかでも意外性が強かったことはありますか。
西山 予想が外れたのは、思った以上に楽しすぎる空間になってしまったことです(苦笑)。人間って、何かに没頭しすぎちゃうと恋愛しないんですよ。楽しすぎる空間ができたことで、結果的にみんな恋愛に集中できない時期がありました。『あいのり』でもそうだったんですが、貧乏旅行で苦しい毎日をお互いに助け合うことで、鎧が取れて人間の素の部分が出るんです。だから今回もある程度ギリギリの生活費にして、携帯は禁止、テレビもレジャーも全くなし、ということで始まったんですけど、思った以上にみんなが楽しんじゃって。
Netflixリアリティシリーズ「あいの里」独占配信中
西山 縄飛びをしたりゴルフをしたり、缶蹴りや鬼ごっこをしたり、子供のころに戻ったように毎日毎日そんなことばっかりやっていたんですよ(笑)。あとは、野菜を育てるのに土を耕したり、特に男性住民はリフォームしたりするのが楽しくてしょうがなかったらしくて。
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――食卓にはいつも美味しそうなものが並んでいましたよね。
西山 料理がうまい人が多かったです。僕らとしては、最初小麦をいっぱい置いといて、みんなで“すいとん”を作って分け合って食べる……みたいなことを想定していたんですけど、まさかあれでピザを作るとは(笑)。あと、ねぎ坊主の天ぷらとかね。豊かな暮らしになっちゃったのは想定外でしたが、そうした中でも、みんな「ラストチャンス」っていう思いが強かったから、やっぱり恋は生まれましたね。
離婚、死別、いじめ……
誰もが経験し得ることだからこそ
光を当てたかった
――『あいの里』住人のこれまでの人生を振り返る再現シーンがアニメーションだったのは斬新に感じました。
西山 最初から「再現はこの番組の見どころになります」とは言っていました。それぞれいろんな人生を経てきているわけだし、オーディションでもそうした辛く苦しかった思いをいっぱい聞いてきましたから。そんな中でNetflixさんから「再現はアニメでどうですか」という話がありました。そこで、“ロトスコープ”という手法でアニメを作っている岩井澤健治さんにお願いすることにしたんです。“ロトスコープ”は、最初全部実写で撮って、後からそれをトレースする手法です。ディレクターが番組制作の最中の面談で『あいの里』の住人から聞き出したストーリーでナレーションを作り、撮影が終わってから住民の方に来てもらって、本人で実写を撮ったんです。その映像を1カット1カット鉛筆でトレースしてつくっていきました。
――アニメの再現は、実写で見るよりもなぜかリアルさが増している気がします。
西山 おっしゃる通りで、アニメは実写よりも想像力の余白を残すから、視聴者に委ねられます。基本的に僕は『あいのり』も『あいの里』も“恋愛リアリティーショー”をやっているつもりが全然なくて、“ドキュメントバラエティー”をやっているつもりなので、できるだけリアルなものがいいと思っています。
――『あいの里』参加住民の方は番組内での明るさとは裏腹に、これまで辛く厳しい人生経験を経てきた方が多くいました。そのような方々が多かったのは何故ですか。
西山 いろいろな過去に光を当てたい、という気持ちがありました。離婚だけじゃなくて死別された人もいましたが、それって誰もがこれから経験し得ることですよね。だからそういった意味では身近なものだと思うし、こうした人生の後半って全ての人が興味あると思うんです。なのに、ドラマでは観られるけど、リアルなドキュメンタリーでそうしたものがしっかり観られるものってなかなかないと思うんですよ。だからその部分を僕はしっかり描きたかった。
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――人生の後半に突入した人の恋愛から得られるものがあると考えたんですね。
西山 若い子の恋愛っていうのはすごく直球で、お互い見つめ合うだけの恋愛だったりするじゃないですか。でも大人になってからはお互い見つめ合うんじゃなくて、同じ方向を見ようとしますよね。その同じ方向の先に、スーパーの3割引きシールがあったりとか、いろんな方向があって。でも、そういった1人1人のサンプルの映像を見ることによって、考えさせられる番組ができるなと思っていました。なので、多様性のある恋愛や愛のあり方は最初からできるだけ意識しました。
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この記事を書いた人
TV局ディレクターや心理カウンセラーを経て、心を動かす発見を伝えるライター。趣味はリアリティーショー鑑賞や食べ歩き。海外在住経験から、はじめて食べる異国料理を口にすることが喜び。ソロ活好きが高じて、居合わせた人たちの雑談から社会のトレンドをキャッチしている。
Website:https://smartmag.jp/
お問い合わせ:smartofficial@takarajimasha.co.jp
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