【『VALORANT』の“仕掛け人”インタビュー】ライアットゲームズ藤本社長に聞く“Z世代が熱狂するワケ”と“eスポーツの現況”
eスポーツ業界のフロントマンや業界の活性化を担う存在にインタビューを行う連載『eスポーツの輪〜e-sports donuts』の第4回は、世界中で圧倒的人気を誇るタクティカルFPS『VALORANT(ヴァロラント)』を開発・運営する「ライアットゲームズ(Riot Games, Inc.米国)」の日本法人である合同会社ライアットゲームズの社長/CEOを務める藤本恭史さん。eスポーツシーンに対する熱い思いや、6月に日本で初めて開催されるVALORANTの国際大会「2023 VALORANT Champions Tour MASTERS TOKYO」について聞いた。
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シンプルなのに奥が深い。
核心に触れて感動する世界がここにある。
――2020年6月にリリースされたVALORANT。3年間で著しい成長を遂げていますが、当初からヒットの予感や手応えはありましたか?
藤本恭史(以下、藤本) 「このゲームは日本国内で受け入れられるのか」とリリース時は社内で不安視する声もありました。それはVALORANTが5対5による対戦型ゲームで、FPS(ファーストパーソン・シューティング)と呼ばれるジャンルのなかでも極めて珍しい、タクティカルシューターというジャンルだからです。FPSというジャンル自体、日本人があまり得意としないゲームに分類されていましたし、5人それぞれが役割を決めて、どういう手順でどう攻めていくかなど、戦略・戦術を練ってプレイしていく性質上、難解さにとまどう方もいるだろうと予測していました。実際、リリース後に多くのストリーマー、インフルエンサーがプレイしてくれましたが、やはり難しいという評価をされて離れてしまうケースもありましたね。
――では、なぜ人気ゲームタイトルになったのでしょうか?
藤本 いくつかの要因が重なったことで起きた現象だと思います。その理由のひとつには、他のスポーツ競技で味わえるシリアスさやドキドキ感、それでいて仲間と協力して相手を倒せばOKというわかりやすいゲーム性が大きく関係しているように感じています。先ほど「日本人があまり得意としないジャンルで、難しいという評価から離れてしまうケースもあった」とお伝えしましたが、それでもFPSは人気ジャンルのひとつとしてVALORANTのリリース前から多く存在していました。その中で「これってちょっと難しいけどみんなでやると面白いゲーム」だと感じ取ってくれたFPS出身のストリーマーや元プロプレイヤー、配信者がプレイすることで一気に広まっていったんです。
――VALORANTが他タイトルと異なっているポイントとは?
藤本 一度やられてしまうと復活ができない、というのが特徴のひとつにあります。難しいうえにうまくないとすぐにやられてしまう。さらに、他プレイヤーのプレイ終了までずっと待たなければいけないとなるとやっぱり悔しいですよね。そういったところから「エイム精度を上げるためにはどうしたらいいのか」や、「移動しながら的を射抜くテクニックは?」など、技量を高めたいプレイヤーが増えていきました。VALORANTによって、今までとは違うFPSの新しい楽しみ方を知ってくれたことが人気の追い風となり、それがeスポーツシーン全体の活性化にもつながっているのだと思います。
――VALORANTは若い世代からの関心を強く得ている印象です。
藤本 ありがとうございます。ゲーム内容のみならずプロモーション用コンテンツなども含めて、いかにスタイリッシュに見せるかをかなり意識しています。その効果もあって、プレイヤーは世界的にみても感度の高い若い世代が中心です。特に日本国内ではプレイヤーも視聴者層もZ世代が非常に大きな割合を占めています。
――Z世代からの支持がプラスに影響している点はどういったところでしょうか?
藤本 日本で初めてVALORANTの国際大会「2023 VALORANT Champions Tour(VCT) MASTERS TOKYO」が開催できることはZ世代の熱量なしでは実現しませんでした。「日本は開催地にふさわしい」と世界が認めてくれた要因のひとつで、高く評価されている点だと感じています。ライアットゲームズ全社的にも、VALORANTにおいてはeスポーツ後進国だった日本がいまや牽引する立場になっています。
――まさに影響力の強さがうかがえるエピソードですね。
藤本 そうですね(笑)。Z世代は我々のような上の世代や企業の立場からすると、もっともとらえどころがなく、リーチしづらい存在と言われていますが、そんな彼らが毎日何時間も試合を観てくれたり、国際大会が日本で開催されると知った嬉しさで涙を流してくれます。イベントに来る子たちのファッションスタイルもおしゃれで、もはやゲームだけではなく、その場にいる人と空気を共有し合う楽しみを最大限に爆発させています。そうしたエモーショナルなつながりや、彼ら自身によって作り上げるカルチャーができあがりつつある、というのが今の日本eスポーツシーン、特にVALORANTを中心にして起こっていることです。今回、私たちが日本での国際大会を実現することで、また新しい一歩が踏み出せるのではないかと思っています。
単視点からワイドな視点まで。
プレイヤーが「生きる」ための場づくり。
――世界のトップチームによるプレイに注目が集まるVALORANTの国際大会「MASTERS TOKYO」。このようなビッグイベントが日本で開催されることは珍しいように感じました。
藤本 そうかもしれません。日本を会場にして世界タイトルクラスの大会が行われるケースは過去ほとんどなかったので。eスポーツ先進国と言われている韓国、中国、アメリカなどで行われる大会の規模感と比較した場合、日本は開催地としての注目度やニーズ面で遅れをとっているのが現状です。また、eスポーツが語られる文脈のスケールにもかなりの差があるように感じています。先進国にとってのeスポーツはオーディエンスの満足度を含めたエンターテイメントとして価値があるもの。対して日本国内では、いまだにゲーム大会の延長や親しみやすいシーン、あるいは開催側のみによる視点で語られていることも多く、意識を変えていかなければなりません。
話題性という点だけでいえば単純に賞金額を大きくしてプロプレイヤーをたくさん集めたら手っとり早いのかもしれません。ですが、私たちはそれが必ずしもファンの心に響いたり、eスポーツの精神を作り上げるものではないと捉えています。
――日本での初開催の裏側にさまざまな思いがあるのですね。
藤本 はい。VALORANTに関しては、先ほどお伝えしたZ世代からの高い関心に加えて、昨年に日本のチーム「ZETA DIVISION(ゼータディビジョン)」が世界第3位まで達したことが大きなきっかけになっています。残念ながらMASTERS TOKYOへの出場は叶いませんでしたが、彼らの功績は高いレベルが競い合う世界の扉をはじめてこじ開けたと言っていいほどです。
また、ZETA DIVISIONが好成績を残したとき、普段eスポーツを目にすることがない方も応援してくれました。そのきっかけになったのはストリーマーやゲーム配信者です。彼らのフォロワーにVALORANTの存在を知ってもらうことができたのはとても大きかったと思います。世界に日本のファンの高い熱量を伝えることができました。
――ちなみに、MASTERS TOKYOには世界のトップチームが選出されますが今年から選出方法に改正がありました。それはなぜでしょうか?
藤本 世界中のチーム同士がより高いレベルで切磋琢磨し合えるようにしたかったからです。海外チームと対戦することでプレイヤーたちの技量は促進され、競技レベルが向上します。また、他スポーツ同様、eスポーツも選手の能力だけがすべてではありません。チーム環境や設備、周りからのバックアップなど、全体のクオリティーを上げて規模感を広げる必要があると私たちは考えています。
――ライアットゲームズはアメリカの本社を中心に、各国にオフィスを置く企業です。大会の開催ひとつにしても、オフィス間でのやりとりが複雑そうな印象です。
藤本 実はそうでもないんです。ライアットゲームズでは外資系企業によくある本国チェックなどはあまり行われていません。それはプレイヤーを最優先に考えて行動する「プレイヤー エクスペリエンス ファースト」という考え方が大前提にあるからです。そのため、みなさまに楽しんでもらえるように加える表現やエッセンスは、ローカルのオフィスそれぞれの判断に委ねられています。日本のプレイヤーのことは日本のオフィスが一番理解するべきで、いい反応が得られたら他のオフィスとも共有していきましょう、といった具合なので少し特殊ですよね(笑)。もちろん、ゲーム性はスポーツの観点と同じように世界中の誰もが公平に楽しんでもらえるようにグローバルスタンダードが徹底されています。ブランディング面でも、プロチームを招集したエキシビジョンマッチなどは自社でしか行えないように規制しています。MASTERS TOKYOも世界的規模のイベントなので本社や各国オフィスとの連携は必要ですが、どうあれ私たちがやるべきことは、プレイヤーが活躍できる場の価値を上げていくことに尽きると思っています。
――eスポーツの大会では「賞金総額〇億円」などを目にするので、夢があるように感じていますが、VALORANTではどうなのでしょうか?
藤本 賞金についてはライアットゲームズとして終始一貫している思いがあり、またVALORANTの賞金額も他タイトルを凌駕するほどではありません。これは、ゲーム業界に限った話ではありませんが、賞金額を上げるためには入場料を高く設定することで補填(ほてん)したり、大会の視聴を有料化することで売り上げを担保するなど、さまざまな手段があります。ですが、それが私たちの本当にやりたいことなのかというとそうではなくて。ましてやeスポーツシーンの中心にいるZ世代の全員が自らで高い収入を得ているわけではないと思います。パブリッシャーとしても、ひとりのオーディエンスとしての観点からも、お金を持っている人しか参加できないようなものになってほしくはないのが本心です。また、仮に賞金が上がっても上位チームのみが潤うような環境は目指すべきエコシステムとして正しいとは思えないので、そういった意味から私たちは少し違う立場を取っているように映るかもしれません。
――課題や改善点も少なくない国内eスポーツ。今後についてはどのようにお考えでしょうか?
藤本 これからの国内eスポーツは日本独自の表現として、海外に肩を並べるステージへ登っていくのだと思います。突き抜けたプレイヤーの存在だけではなく、チーム自体のクオリティー、放送やステージングなど、プロダクションのレベルも向上していくことでしょう。
私たちはその土台役として、チームの価値やリーグ自体の価値を上げていきます。それを多くのオーディエンスに観てもらい、楽しんでもらうことでまたひとつ価値が上がり、プロプレイヤーそれぞれのパーソナルブランディングが形成されていく。そのようにして、eスポーツによって生み出される感動や興奮が伝わっていくかたちが理想です。
――本日はありがとうございました。
The next guest will be announced soon…
観覧方法や最新情報など、オフィシャルサイトで公開中!
2023 TOKYO VALORANT Champions Tour MASTERS TOKYO
●日程:2023年6月11日(日)〜25日(日)
●会場:TIPSTAR DOME CHIBA(6/11〜23日)・幕張メッセ(6/24、25日)
●出場チーム:【Americasチーム】LOUD、NRG、Evil Geniuses 【Pacificチーム】DRX、Paper Rex、T1 【EMEAチーム】Team Liquid、FNATIC、FUT ESPORTS、NAVI 【中国チーム】Attacking Soul Esports、EDward Gaming/全12チーム
●URL:https://valorantesports.com
©2023 Riot Games, Inc. Used With Permission
profile/藤本恭史
ふじもと・やすし●国内IT企業でのフィールドエンジニア職を経て、マイクロソフトに入社。業務執行役員、Windows本部長およびセントラルマーケティング本部長、ペイパルでマーケティング統括などを歴任し、2018年にライアットゲームズに参画。2022年、ライアットゲームズの日本法人社長/CEOに就任。
Riot Games Japan公式Twitter:@RiotGamesJapan
Riot Games公式HP
写真=大村聡志
取材・文=本田圭佑
連載『eスポーツの輪〜e-sports donuts』とは?
ゲーム人口はプレイヤー数、視聴者数ともに年々うなぎのぼり。世界のeスポーツ上位10チーム(または組織)にいたっては、その価値評価額が平均で約450億円と、今後ますますの成長が期待されまくっている国際的市場、それがeスポーツの今の立ち位置です。しかしその中にまだ日本チームの名はなく、「これじゃあいかん!!」と(まぁほんとにそう言ったかは知りませんが)とにかく、好きなものに心底夢中になれる負けず嫌いな日本の“ヲタク”たちのなかには、業界の盛り上げ役がちゃんといます。
というわけでsmart Webでは、eスポーツ業界のフロントマンや業界の活性化を担う存在にインタビューを行う連載『eスポーツの輪〜e-sports donuts』をスタート。eスポーツの次代の担い手に話を聞き、テレフォンショッキング方式で輪をつないでもらうことでその実態に触れていくことを目的とします。ゲームをやらない人も、読めばきっと興味を持てるはず。
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