【山谷花純×吉田鋼太郎 対談】“娘”が問う“父ちゃん”の今後の夢。そして敬愛するアル・パチーノについて
何者でもなかった
下積みの時期こそが芝居をする
理由があった時代(吉田鋼太郎)
山谷 鋼太郎さんにずっと聞きたかったことがあるのですが、“何者でもなかった下積み時代”を経て今の鋼太郎さんがいるわけですが、人として役者として、本当の意味の幸せをを感じているのはどっちの時代なんだろうって。
吉田 自分の中で答えは出ているんだけど、難しい質問だよね。今は、人に認められたいとかお金を稼いでいいところに住んでいい服を着てということが昔に比べてある程度叶っているんだけど、昔はそれらの全てが役者になりたい理由の中に入っていたわけで。願いが叶ったことは嬉しいしありがたいなと思うし、この生活は自分だけでなく妻や子供のためにも手放したくないと思ってる。ただ、楽しかったのは金がなかったときだね。
山谷 それは、まだ手に入らないものが多かったからということですか?
吉田 そうではなく、芝居をする確固たる理由があったから。絶対売れてやるっていう気持ちと、売れるためには誰にも負けないという気持ち。それだけが自分を突き動かしていたし、その時のパワーって今、振り返ってみてもすごいと思う。
山谷 そこには(他の役者に対する)嫉妬みたいな気持ちも含まれているわけですよね。どっちがいいという質問は難しいけれど、私はまだ何者にもなれていないという気持ちが強くて、劣等感や嫉妬が今は私の原動力になるんです。
吉田 花純はデビューが早かったんだよね。
山谷 小6です。デビューした頃はそんな気持ちはなかったんです。仕事という感覚もなかったし、ただ楽しいだけだった。それが今、やっと“仕事”という感覚になっているんです。
吉田 これは何かで読んだんだけど、もうやめようと思っていた時期もあったんでしょ?
山谷 20歳の頃ですね。それこそ鋼太郎さんと出会う1年くらい前なんですけど、このオーディションで落ちたらやめようと思っていた作品が『コードブルー』という映画だったんです。髪の毛を丸坊主にする役だったんですが、その役ができたことから、もう一度再スタートしようと思えて。そのあと鋼太郎さんと出会って、また新しい世界がどんどん広がって今に至っているんです。今はこれからどうなっていくのかなって自分でもワクワクしていて。
吉田 全然これからだよ。
山谷 お芝居以外も興味を持てるものが増えてきているんです。元をたどるとお芝居に行き着くんだけど、こういう風に連載で文章を書いたり、インタビュアーとして対談して、その人の魅力を伝えたりすることもこれから先やっていきたいなと思っていて。
吉田 花純が送ってくれた文章(レビュー連載1回目の『ファイトクラブ』の原稿)は誰が書いたの?
山谷 私です。
吉田 すごくちゃんとしてるじゃない。プロの文章だよ。「まさか花純が書いているんじゃないだろうな」と思いながら読んでたけど。
山谷 ゴーストライターはいません(笑)。もちろん、女優としての確固たるポジションを築くことが第一だけど、誰かや誰かが作った作品を文章で応援していけたらいいなと思って、読書など文章に触れる機会も増やしています。鋼太郎さんも昔と今、それぞれの良さがあって選べないというのを聞いて何か腑に落ちました。“幸せ”ってひとくくりにできないものですよね。
吉田 あの(何者でもなかった)時代に戻りたいかって言われたら戻りたくないけど、80歳で同じ質問をされたとしたら、あの頃に戻りたいって言うかもしれない。若い頃の経験ってやっぱり貴重で何事にも代えがたいものだから。
時代を経て変化していく
役者のあり方とは?
山谷 役者として、演出家として、人間としてどの目線でもいいんですけど、鋼太郎さんから見て、私達の世代を見てて感じることはありますか?
吉田 今は俺らと違って、俳優のあり方が真逆と言ってもいい時代なんだよね。昔は人の目や迷惑を顧みず、役者の道を突き進んでいるヤツがカッコいいと言われた時代。世間的にも「あいつは役者バカだから仕方ないよな」と許容されていた部分があって。それは役者に限らず芸術家全般に言えることで、世間の目も優しかった気がするんだよね。それが今は、役者だろうが、人としてダメなことは完全に追及される時代だよね。もちろんやんちゃをしているほうがいい芝居をするとは全く思ってないし、自分の経験と想像力の範囲でいい芝居もできると思うんだけど。その範疇(はんちゅう)ではない想像力を超える部分に行くと、自分はどういう気持ちになるんだろうということを試してみることもありなんじゃないかなと思うんだよね。もちろん、試せる範囲でね。若手の俳優さんはみんな上手だし、いい役者ばかりなんだけど、時代が変わったことで、若手の俳優たちがどう考えているのか俺も逆に聞いてみたい。
山谷 個人的な気持ちだと、私たちの世代は、やんちゃをすることに対してかっこいいと思わない人のほうが多いかもしれないですね。私たちよりひとつ上の世代の30代の人たちは、鋼太郎さんのような先輩方を見て、同じように生きてみたいけれど、真似できる時代ではないという思いの間にいる人たちなのかなと思うんです。私たち20代は、10代から役者をやっている子が多い世代で、急に20代から役者を始める人のほうが少ない印象で。10代から大人と一緒に仕事をしてきて、(大人達が)何かをして糾弾される姿を見てきているから、自分はそうなりたくないと考える人が多い気がする。コンプライアンス的にも怒られることも減ってきていて、失敗する前に立ち止まるっていう冷静な自分がいるんですよね。
吉田 悪いことをしていいと思っているわけでは決してないけれど、時代の流れを感じるし、だからこそ、これからの世代に自分の経験を伝えていく意義があるのかなと思うね。
シェイクスピア作品『リア王』で
親子の役を演じてみたい(山谷花純)
山谷 鋼太郎さんのこれからの夢ってなんですか?
吉田 2歳になる娘がいて今、娘中心の生活なので。よくある話だけど、娘がお酒を飲める歳になったら一緒に酒が飲みたいとかね。その頃は俺は80代。なんなら娘が30代で結婚する姿を見てみたいって思うと、90代になっちゃう(笑)。だからそれまで生きて見届けたいっていう夢というか目標だよね。
山谷 それこそ私も、鋼太郎さんとご一緒したときに「花純が50歳になるのは何年後だ?」って聞かれて、「24年後です」ってお答えした覚えがあるんですけど(笑)。また、鋼太郎さんとお芝居したいです。映像(ドラマ)では鋼太郎さんと親子の役ができたので、次は舞台で親子役をやってみたい。最近、山崎努さんの『俳優ノート』という本を読んだのですが、それは舞台『リア王』の稽古期間のエピソードが書かれているんです。それを見て鋼太郎さんがリアで私が娘のコーデリアの役で共演できたら面白いなと思って、いつか叶ったらいいなと思っています。
吉田 リアの役はだいぶ前だけど2回ほど演じたかな。花純のコーデリアは合っていると思うから、ぜひ一緒にやりたいね。とてもいい企画だね。
山谷 その夢を叶えるために(私が)やっておくべきことはありますか?
吉田 腹筋、発声練習、滑舌の練習は続けるべきだと思う。やり続けることで絶対に財産になる。ジムと同じで毎日とは言わないけれど、3日に1回でも1週間に1回でも続けるべきだと思う。
山谷 鋼太郎さんの呪いだと思っているんですけど、トレーニングをしないで3日空くと、鋼太郎さんが夢に出てくるんです(笑)。それを見たら、ヨガマットを出して腹筋をしてます。私は蜷川さんにお会いしたことがないけれど、鋼太郎さんにとっては蜷川さんがそういう存在だったのかなと思います。
吉田 そうだよ。いつまででも(夢に)出てくる。花純に関しては、いい意味で頭で考えるのではなく体が反応する役者のタイプ。花純独特のエネルギッシュさでもあり魅力でもあるので、そこを伸ばしていって欲しい。
山谷 ありがとうございます。普段はなかなか話せない話なのでこういう機会をいただけて嬉しかったです。
山谷花純のあとがき
「花純、おれの事書いてくれるのか?」
連載内容を少し勘違いした父の一言。
あの時の顔が忘れられなくて。
この対談だけ、あとがきを書いても良いかなと思った。
ずっと喧嘩ができる父が欲しかった。
絶対に勝てないから真正面から挑む事が出来る。
芸の世界で初めての居場所を作ってくれた。
嫌いになれたらどんなに楽か。
それでも尊敬と信頼が増すばかり。
悔しい。とても。そして嬉しい。
今回ちっぽけだけど、父へ送る初めての親孝行。
歩み寄ってくれたから渡す事ができた。
その優しさにとことん甘えた。
別れ際。
父の背中がいつもと違って見えた。
いつまでも眺めていたい背中へ
お父ちゃん、またね。
体を大切に。大好き。
ありがとう。
やっと言えた。
山谷花純
PROFILE/吉田鋼太郎(よしだ・こうたろう
1959年生まれ、東京都出身。劇団四季、東京壱組などを経て、劇団AUNを結成。シェイクスピア作品の多くを演じ、演出家・蜷川幸雄作品の常連に。2013年には『半沢直樹』に出演、14年に『花子とアン』で実業家・嘉納伝助役を熱演し、お茶の間での注目を集める。主な出演作はドラマ『MOZU』、『刑事7人』シリーズ、『おっさんずラブ』シリーズ、舞台「ムサシ」「アテネのタイモン」「ヘンリー五世」演出も手がけた「ヘンリー八世」「ジョン王」など。NHKでは大河ドラマ『風林火山』『真田丸』『麒麟がくる』など、出演作多数。
PROFILE/山谷花純(やまや・かすみ)
1996年12月26日生まれ。宮城県出身。みやぎ絆大使。2007年、エイベックス主催のオーディションに合格し、翌年ドラマ『CHANGE』でデビュー。18年、映画『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』で末期がん患者役に丸刈りで臨み注目される。また、主演映画『フェイクプラスティックプラネット』がマドリード国際映画祭2019最優秀外国語映画主演女優賞を受賞した。22年放送のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では比企能員の娘・せつ役を好演し、今後が期待される女優。主な出演作は、映画『告白』『寄生獣』『耳を腐らせるほどの愛』『人間失格 太宰治と3人の女たち』『天間壮の三姉妹』、ドラマ『あまちゃん』『ファーストクラス』『私の正しいお兄ちゃん』『liar』、舞台シェイクスピアシリーズ『ヘンリー八世』『終わりよければすべてよし』など。23年春の朝ドラNHK連続テレビ小説『らんまん』では主人公の万太郎の住む十徳長屋の住人で小料理屋の女中、宇佐美ゆうを演じている。朝ドラは『おひさま』『あまちゃん以来、3度めの出演。
(山谷花純)ジャケット¥52,800、トップス¥17,600、パンツ¥47,300/以上すべてMAX&Co.(Max Mara Japan☎0120-030-535)、シューズ¥40,700/UNTISHOLD(UNTISHOLD CUSTOMER SUPPORT ✉customer@untishold.com)、アイウェアフレーム¥42,900/MOSCOT(MOSCOT Tokyo☎03-6434-1070)、イヤリング¥47,300、リング¥38,500、ネックレス¥66,000/以上すべてFauvirame(Fauvirame COSTOMER SUPPORT✉customer@fauvirame.com)
写真=斎藤大嗣
スタイリング=高橋美咲(山谷花純)
ヘアメイク=杏奈(山谷花純)
文=佐藤玲美
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