江口寿史と、村上隆率いるカイカイキキがタッグを組んだ個展「NO MANNER」を振り返る

江口寿史さんの個展が、麻布のカイカイキキギャラリーで開催された（23年2月7日で終了）。漫画家・イラストレーターとして1980年代から業界を牽引（けんいん）する江口さんと、村上隆率いるカイカイキキがタッグを組んで届けるアート作品とは。

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※この記事は2023年smart3月号に掲載した記事を再編集したもので、記載した情報もその時点のものです。

80年代に、絵師として
そのスタイルを完成させた
まさに「KING OF POP」

麻布のカイカイキキギャラリーで開催された、江口寿史の個展「NO MANNER」。タイトルの「NO MANNER」とは直訳すれば「マナーなんかない、礼儀知らず」という意味になるが、同展に際しての作者からのメッセージとして、江口はさらに「No Trust No Love No Respect No History No Pride No Art」を送り、世間に存在するあらゆる種類の常識を否定している。
実際に江口の作品作りはこの通りの道を辿ってきた。1977年に「週刊少年ジャンプ」で「すすめ!! パイレーツ」で連載デビュー。81年には代表作のひとつなる「ストップ!! ひばりくん!」の連載も始まった。しかしたびたびの原稿落とし＝休載という、週刊連載にはあるまじき行為で顰蹙（ひんしゅく）を買いつつも本人もそれを作品のネタにするなど、実力と人気を担保しながら周囲に認めさせてしまう。そして、一枚絵としての完成された美少女イラストへのチャレンジは、毎週連載のトビラの構成を見れば明らかなように、この時期（初期段階）から表れていた。漫画家だけどイラストレーターとしても超一流、という流れは後にデビューした鳥山明や井上雄彦にも見られるが、江口がこの分野のパイオニアであることは間違いない。その後の江口は漫画家としてのカテゴリーだけには収まらず、ラジオパーソナリティ、漫画誌編集長、アニメキャラデザインなど様々なジャンルで活躍するようになるが、やはりイラストレーターとしての仕事に多くの時間を割き、日本各地の美術館を巡回、作品を発表するようになっていく。　江口の描く女性で驚くべき事実は、描き始めた80年代からテイストがほぼ変わっていないということだ。2020年代になり、KYNEなど若いアーティストたちが海外でも高い評価を受けているが、その源泉と言っていい江口は40年も前からこの画風を完成させていて、まさに「KING OF POP」にふさわしい絵師と呼べる。©Hisashi Eguchi　Courtesy of Kaikai Kiki Gallery　

　カイカイキキギャラリーでは、2022年に台北のアート・バーゼル香港で初めて江口の作品を発表しているが、個展としては本展が初となる。新作ペインティング15点はどれも江口の原画を元に、カイカイキキの工房が現代アートの作法を加えて制作、すべて江口のチェックの下に完成させたものだ。その多重なレイヤーこそが、村上隆の提唱しているスーパーフラットなものであることは間違いない。冒頭に書いた江口のメッセージに、ぜひ「No Border」も加えたい。江口の活動に境界線などはなく、あらゆるジャンルで新しい表現を切り拓いていく絵師、それが江口寿史なのだ。

Photography_SATOSHI OMURA　
Text_HISANORI NUKADA

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