濱 正悟インタビュー/「恋愛系のお仕事が続いている」人気俳優が明かすニュートラルな恋愛観
様々な作品で存在感を際立たせる俳優・濱 正悟さん。以前、smartの専属モデルを務めていたこともあり、smartにゆかりの深い人物でもあります。現在は『恋せぬふたり』(NHK)のほか『鎌倉殿の13人』(NHK)、『liar』(TBS)など数多くの映画やドラマに出演中。俳優として演技の幅を広げる注目株の俳優の今にクローズアップします。
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この作品を通じて
自分の『普通』を
考え直すきっかけになったら
いいなと思います
――NHKドラマ『恋せぬふたり』で描かれている“アロマンティック・アセクシュアル”という存在については、このドラマを見て知った人も多いと思うのですが、濱さん自身は以前から知っていましたか?
濱 正悟(以下、濱)「知らなかったですね。今、『多様性の時代』と言われているように、自分自身のまわりにも同性愛者であったり、ジェンダーレスな方々もいたりするので、アロマンティック・アセクシュアルという存在は知らなかったですが、作品を通して理解を深めることができた気がしています」
――この作品では、多様性の時代と呼ばれている現代でも、人が抱える生きづらさのようなものが描かれています。その中で濱さんが演じるカズくんは、アロマンティック・アセクシュアルを理解できない(知らない)側の人物として描かれていますが、演じにくさはありませんでしたか?
濱「現場には、アロマンティック・アセクシュアル当事者を含む3人の方が考証という立場で入られています。主演を務める岸井ゆきのさんと高橋一生さんがアロマンティック・アセクシュアルの役で、僕が演じるカズくんは、その二人に対してわけもわからずガツガツいくという役なので、僕が直接、ご指導いただくというわけではなかったんですが、岸井さんや高橋さんがお話されているのを聞いているうちに、どういう距離感がイヤなのかとか、そういったことも頭に入ってきたと思います。もちろん現場での話なので、すべてを理解できたわけではないけど、雰囲気や空気感がわかった上で演じさせていただいたので、自分としてはやりやすかったですね」
――知らずにガツガツ行っちゃうカズくんの目線が私たち、すなわち視聴者の目線なのかなと感じていたりもします。
濱「目線としてはそうなのかもしれないけど、カズくんはかなりぶっ飛んだところもあったりするので、視聴者代表というのとは少し違うのかもしれません。ドラマとして、描かれているテーマは『ラブじゃないコメディ』だったりするので、そのコメディの部分を僕が演じるカズくんが担(にな)っているのではないかと感じています。基本的には物語を動かしていくキャラクターで、さらにいえばコメディ的な動きをするという役回りですかね」
――考証を担当されている方から直接アドバイスされることもあったのですか?
濱「僕自身は、アロマンティック・アセクシュアルに対して知識を持っていない役だったので、僕自身の演技に対してのアドバイスは特にはありませんでした。その一方で高橋さんと岸井さんの役に関してはかなり細かく丁寧に作り込まれていたと思います。アロマンティック・アセクシュアルといっても、『アロマンティックとアセクシュアルのどちらか一方』という方もいらっしゃるし、人と保ちたい距離感も人それぞれなんですよね。やはり、この作品によってアロマンティック・アセクシュアルのイメージが間違って伝わるのはよくないし、そういった方々を傷つけるような内容になるのは避けるべきだと思うので。ただ、この作品に参加している中で、知らないうちに人に価値観を押し付けていたり、心ない言動で傷つけてしまったりすることは起こりうることで、どんなに思い合っても、絶対に傷つけないようにするっていうのは難しいと感じました。だから、この作品を通じてよりよい方向に持っていけるかはわからないですけど、少しでも考える機会になったらいいなと思っています」
なにか共通点を見つけることが
人との関係を深めるきっかけになる
――高橋一生さんとはドラマ『岸辺露伴は動かない』(NHK)以来の共演となりますね。
濱「そうですね。岸辺露伴は『恋せぬふたり』の2、3カ月前に撮影がありました。ただ、あの作品では僕の出演シーンが少なくて高橋さんとお話する機会もあまりなかったんですが、僕のことを覚えてくださっていたんです。『岸辺露伴ぶりですね』という挨拶から今回の撮影が始まりました」
――今回はお話したりする機会はありましたか?
濱「最初の頃はセットでの撮影がメインで、リハーサルも入念に行いながら進んでいったので、僕自身もあまり余裕がなくて、あまりお話する機会はなかったんですが、後半になるにつれて高橋さんのほうから話しかけていただく機会も増えてきました。気を遣っていただいたのかもしれないですけど(笑)。岸井さんと3人のシーンの待ち時間とかも、世間話も含めて、いろいろとお話させていただきました。『肉と魚、どっちが好きですか?』みたいな他愛(たわい)のない話とか(笑)」
――それはロケ弁の話ですか?(笑)
濱「5話でご飯を食べに行くシーンがあって、お刺身を食べたんですけど、そこでそんな会話になったんだと思います(笑)」
――主人公のお2人は、自分たちならではの関係性を築いていくわけですが、その部分には共感できましたか?
濱「そうですね。僕自身は共感できました。最終回まで、様々なことが起きていろんな人が関わっていく中で2人がどうなっていくかが描かれているので、きっとSNS上も含めて、様々な場面で様々な意見が交わされるのだろうなと思います。ですけど、僕としてはこの2人の思っていることや、やっていることに対してすごく共感するし、この2人の出した答えや生き方を見て、僕は自分自身の気持ちにゆとりがもらえた気がしました」
――それはどういう意味でですか?
濱「一般的な価値観ではなく、私はこうしたいという自分の意志を貫く気持ちやそれを見守ってくれる人たちがいるということこそが、自分の居場所があるということで、それはすごくいいことなんだなと感じたんですよね」
――2人の気持ちだけでなく見守ってくれる人の存在も大切だと?
濱「そうですね。そういう存在がいればいいとは思います。どうしてもいない場合もあるし、誰からも共感してもらえない場面って、絶対にあるとは思いますけど、1人でもいいから誰かそっと背中を押してくれる存在がいるということが、“居場所ができる”ということに通ずるのかなと思います」
――多様性のある現代を生きる濱さんですが、ご自身の恋愛観についても伺いたいです。
濱「特にこだわりはないです。学生時代は何回デートしたら、みたいなマニュアルがありましたけどね。この作品の中でも出てくるんですが、『普通』って気軽に使うけど人と同じ『普通』はなくて。人間って臆病だから、知らないことは受け付けられなかったり、『普通』という一般的なカテゴリーに当てはめようとしてしまう。だから恋愛に関しても最初は『普通』を自分の当たり前にしていたけど、いろんな人と関わっていろんな失敗を経たり、いろんな作品に出会っていろんな考え方に触れてきたことで、そういうこだわりみたいなものがなくなってきた気がします。それは恋愛に限らずで、今までこだわっていたことって自己満足みたいなもので、そういうものがないほうが自由に楽になれるんじゃないか、と思うようになりました」
――それは俳優という職業でいろんな人物を演じてきて気がついたことなんでしょうか?
濱「そうですね。役を演じることに関しても、現場に入る前に自分でイメージを固めすぎてしまうと、どうもあまりよろしくない、みたいなことは何回かあって、あまり決めつけすぎず自由にやってみたほうが良かったりするんですよね。僕は今の仕事が好きで、そこが僕の核になっているんですけど、仕事以外の事に関しても自己満足のようなこだわりはないほうがいいなと感じています」
――こだわりがないと、どういうタイミングで恋愛に移行していくのでしょうか?
濱「どうなんですかね。でも、この作品もそうなんですが、やはり共通のものっていうのが一緒にいる理由になるのかな。高橋さんと咲子さんはアロマンティック・アセクシュアルという、共通点を見つけたからこそ、1話から2人の関係が盛り上がったんだと思うんですよね。共通点というところでいうと、僕はカレー屋巡りが好きでいろいろなお店に行くんですが、現場で役者さんやスタッフさんともカレーの話で盛り上がって急に距離が縮まったりするんですよね。だから、好きなブランドが一緒とか、小さなことでもいいんだけど、そういうところから関係性って始まっていく気がするんですよね。恋愛だけでなく、友達もそうだと思うんですけどね」
――ただ、カレーは欧風派、インド派、ご飯派、ナン派など、いろいろ系統が分かれるから、共通点としては難しい気もします(笑)。
濱「確かに。盛り上がったのに、あ、ナン派ですか、みたいなので、急に口数が少なくなることもたまにありますね(笑)」
自己満足のような
こだわりを捨てて
ひとつひとつの事柄に向き合っていきたい
――そして、先程話に上(あが)った『岸辺露伴は動かない』もしかり、大河ドラマの出演など、最近はNHKのお仕事が多い印象があります。
濱「素敵なご縁をいただいてありがたいですね……。自分のプライベートでも、そういうご縁を感じる出来事が多くて、現場終わりで街をぶらぶら歩いていたら2年くらい前に共演した方とばったり会ったり、電車に乗ったら1週間前くらいにご一緒した方と会ったりとか、ちょっと“引き寄せ体質”になっているのかもしれないです。今、その運を使いすぎてしまうと、今後怖いなって思ったりもしますけどね(笑)」
――他にもABEMA TVのドラマ『30までにとうるさくて』にもご出演中です。こちらも恋愛や人生に年齢制限があるというちょっと癖がある恋愛ドラマですよね。
濱「そうですね。恋愛ドラマではあるんですが、地上波では放送できないような内容まで踏み込んでいるので、演じていて面白いですね。実はこの作品の監督さんも、以前ご一緒したことがある方なんです。それと、去年の秋ぐらいに入っていた映画も恋愛がテーマの作品で、今、恋愛系のお仕事が続いている時期でもあるんです」
――恋愛観もそれによって変わったりする時期でもあったり?
濱「自分がいい意味でニュートラルなので、どれかに『これだ』と決め打ちするのではなく『これもありだし、あれもありかな』と考えています。ただ、いろんな作品に関わることでいろんな価値観を知る機会があるのはすごくいいことだなと思っています。仕事としても楽しいし、自分の好奇心を満たす上でも嬉しいですね」
――ただ、そういった『30歳までに結婚』とか年齢が題材になるっていうのは、世間全般的には、そういった考えが根強く残っていてニュートラルになれていないという証(あかし)でもありますよね。
濱「社会全般となると、難しい話ではありますよね。世代でも違うでしょうし。ただ、年齢のせいか、僕のまわりでも結婚する人がすごく多くてご祝儀貧乏になりつつあります(笑)。第一次結婚ブームの真っ只中です」
――ご自身の結婚願望は?
濱「現状ないですね。今は仕事が楽しいです。仕事自体が自分探しでもあるんですよね。どの役をやっていても自分との共通点というのは必ず1個は見つかるんですが、だからこそ、役を演じているとどこまでが役でどこからが自分自身がわからなくなったりすることもあるんです。役を演じる上では、どの幅にもいけるのはいいことだけど、自分の軸がぶれるのは芯がない気もしていて。今はその狭間(はざま)にいる感じですかね。だから、もっと仕事をすることが、自分という軸を作ることなのかなと思ったりもします」
――共通点という部分で『恋せぬふたり』のカズくんとの共通点とは?
濱「好奇心が旺盛なことですね。『なんで?』が多いこと。それって芝居をやっている人にとってはすごく大切なことでもあると思うんですが、カズくんに関しては、それプラス直情型という性格も加わっているんですけどね」
――作品を通じて何かを伝えるというのは、役者冥利(みょうり)に尽きるのではないかと思います。
濱「芝居を始めた頃は、作品を通して何かを伝えることより自分が演じることでいっぱいいっぱいでした。今は作品もしかり、自分の役を通して何を伝えられるかというところまで考えがつながってきているので、そういう意味ではたくさんの作品に携わることができて嬉しいなと思います」
――他の媒体のインタビューで「人と暮らせない」というお話をされているのを見ました。
濱「暮らせないというより、今は暮らしたくないという感じですかね(笑)。仕事の観点から考えると一人の時間がとても重要。一緒に暮らして別の部屋にいたとしても、他の部屋から音が聞こえてくると、それを拾っちゃうタイプだから集中できない気がする。今は単純に一人のほうがいいなというのと、ある程度、距離感が保てていたほうが新鮮さや会ったときの感動もあると思うので、今は一人がいいかなと思っています」
――2022年も既に2月に入りましたが、今年の抱負を教えてください。
濱「時間が過ぎるのが早いですね。あっという間です。そんな中でも一つ一つ目の前にあることを一生懸命頑張る、ということでしかないと思うんですが。あとは、さっきも話に出ましたが自己満足のようなこだわりをなくしていけたらいいなと思っています。高望みはしないけど、向上心は持っていたいし、後悔はしないけど反省をして前に進む、みたいな感じですかね。以前は、『月9に出る』とかわかりやすい目標を掲げていた時期もあったんですが、最近はそういうのではないかなと思うようになりました。また、芝居以外の部分でもBS日テレで『屋台メシ部、はじめました』という番組が始まったり、お芝居以外のお仕事をやらせていただく機会も増えてきたので、そういうお仕事も自分なりにいいものにできるように頑張りたいです」
(了)
Profile/濱 正悟
はま・しょうご●1994年8月22日生まれ、東京都出身。スーパー戦隊シリーズ「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」、ドラマ「TOKYO MER~走る緊急救命室~」、映画「酔うと化け物になる父がつらい」、「ナポレオンと私」などに出演。現在ドラマ「liar」(毎週火曜 MBS24:59~/TBS24:58~)に出演中のほか、料理紀行番組「屋台メシ部、はじめました」(毎週日曜 BS日テレ24:00~)も放送中。
濱正悟公式Instagram
濱正悟公式Twitter
『恋せぬふたり』
NHKにて好評放送中!
あらすじ
“恋愛”を前提としたコミュニケーションになじめず日々暮らしている咲子(岸井ゆきの) 。ある日、会社の後輩が企画した「恋する〇〇キャンペーン」商品を見にスーパーへ訪れた際、店員の高橋(高橋一生)から「恋しない人間もいる」と言われ、ハッとする。咲子は結婚を急(せ)かす母親のいる居づらい実家を出て親友とのルームシェアを計画するが、その親友が元カレとヨリを戻したことでドタキャン。心が折れそうになった咲子は、ネットで「アロマンティック・アセクシュアル」という言葉と出会い……。
放送情報
2022年1月10日放送スタート<全8回 >。NHK総合にて毎週月曜よる10時45分
スタッフほか
【出演】岸井ゆきの、高橋一生/濱正悟、小島藤子、菊池亜希子、北香那、アベラヒデノブ、西田尚美、小市慢太郎
【作】吉田恵里香 【音楽】 阿部海太郎 【主題歌】 CHAI 「まるごと」
【アロマンティック・アセクシュアル考証】中村健 三宅大二郎 今徳はる香
【制作統括】尾崎裕和 【プロデューサー】 大橋守 上田明子 【演出】 野口雄大 押田友太 土井祥平
公式 SNS・公式HP
恋せぬふたり公式HP
写真_大村聡志
スタイリング_徳永貴士
ヘアメイク_佐々木麻里子
インタビュー&文_佐藤玲美
編集_熊谷洋平
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