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【SNSで最もバズるトランぺッター】Z世代の音楽家・寺久保伶矢は「音楽への愛を叫び続ける」ジャズ内外の偏見を超えた1stアルバム語る8月30日、表参道WALL&WALLでリリースライブ開催

執筆者: 音楽家・記者/小池直也

絶望した時のマインド

さらさ、NAGAN SERVER、S.A.Rなどと共演を重ねてきたジャズトランぺッター・寺久保伶矢

――ジャズは人種のるつぼ・アメリカで発生し、ロックやヒップホップを取り込んで今も範囲を拡張し続けています。広大になりすぎて、R&Bやヒップホップをジャズとする人もいれば、洒落たコードで細かいギターカッティングが鳴るJポップを指す人もいます。

寺久保:そうなんですよ。感性が人それぞれでバラバラだと思います。だからジャズの内側と外側に偏見がある。あとは新しい名前が付けづらいのも、ジャズのイメージが更新されない理由なのかなと。

――ビーバップモダンジャズフリージャズニュージャズフュージョンスムースジャズ、コンテンポラリージャズ、現代ジャズなど……。100年以上の歴史でいろいろな呼ばれ方をされてきたジャンルですし、新しい呼び方を付けるのは難しいのかもしれません。

寺久保:これを僕が総括することは不可能です。だから何も考えずに一度聴いてみて、感じたジャンルで呼んでくれればいいかな。

――寺久保さんは若い人がジャズを敬遠していると感じているのですか?

寺久保:フリースタイルのセクションが長すぎて、それが停滞しているように聴こえるんだと思います。そこが退屈だと考える人は少なからずいる。だから今回のアルバムではソロを吹く場所をできるだけ減らしてみました。

ジャンルの壁がなくなればなくなるほど、リスナーに求められるのが「キャッチーさ」や「シンプルなカッコよさ」。それは常に意識して探求している部分でもあります。

さらさ、NAGAN SERVER、S.A.Rなどと共演を重ねてきたジャズトランぺッター・寺久保伶矢 さらさ、NAGAN SERVER、S.A.Rなどと共演を重ねてきたジャズトランぺッター・寺久保伶矢

――唇のコンディションを崩してトランペットをまったく吹けなくなった時期もあると別のインタビューでお話されていました。そのときの絶望をどのように乗り越えたのですか。

寺久保:シンプルに「やり続けること」。たとえ物理的に逃げたとしても、僕の心が諦めたことはありませんでした。絶対に音楽を辞めなかったし、「トランペットに復帰する、スランプから脱出する」という前提で、他の楽器や音楽に触れる期間を設ける選択をしただけなんです。

当時はめっちゃ辛かったし、「逃げたい」と思った時期もありましたよ。でも、それはブレちゃいけない自分のポリシーに反するぞと。地球の誕生のように、何かの偶然で微生物が発生して、繁殖して、虫がやって来て生態系が生まれる。さらに時間が経って、気付いたら立派な草原になるかもしれない。それと同じように続けた先に発展が待っている可能性もある。

――なるほど。

寺久保:最近は脱力して機会を待つようにしています。人生にはタイミングやフェーズがあって、今頑張ってもどうしようもないことがある。でも年齢に関係なく、人それぞれ成熟するタイミングやコツを掴むタイミングがあるはずで。

だから何かを中断して別の道に進むことは有益です。ただ夢や自分を見失わず、ある時点で戻ってくることが大事。僕の場合はそれで「道が開けた!」という実感がありました。

さらさ、NAGAN SERVER、S.A.Rなどと共演を重ねてきたジャズトランぺッター・寺久保伶矢

――ジャズは高いスキルが要求される音楽で、上には上がいる世界です。そのなかで技術と並行してオリジナリティを見つけるのも時間がかかると思います。寺久保さんが個性を磨くために大切にしていることは?

寺久保:自分の好きなものを追求すること。オリジナリティや個性を出せるかは、人前で自分が好きなものを言えるかどうかだと思うんですよ。好きなものにオープンになれば自ずと個性は滲み出てくるはずですよ。それに悩んでいる人がいるなら、いろいろな場所に足を運んだり、SNSで好きなものを発信してみるといいかもしれません。

そこで自分に共感してくれる人、自分の音楽を「いいね」と言ってくれる人がひとりでもいればいいじゃないですか。何なら内なる自分がいいねを付けてくれたら十分。僕はそう感じます。まずは声を出すところから始めてほしいです。

この記事を書いた人

音楽家/記者。1987年生まれのゆとり第1世代、山梨出身。明治大学文学部卒で日本近代文学を専攻していた。自らもサックスプレイヤーであることから、音楽を中心としたカルチャー全般の取材に携わる。最も得意とするのはジャズやヒップホップ、R&Bなどのブラックミュージック。00年代のファッション雑誌を愛読していたこともあり、そこに掲載されうる内容の取材はほぼ対応可能です。

X:@naoyakoike

Website:https://smartmag.jp/

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