伊勢谷友介が自らに課すトリックスター的役割「自分のメッセージが人の実生活に中に入り込むっていうのが、今の僕のアート作品」
執筆者: 編集者・ライター/高田秀之
トリックスター的役割で現代美術でいろいろ提案したい
―― 一時期はかなりの数の映画やドラマに出ていて、忙しかったと思うんですが、リバースとのバランスはどう取っていたんですか?
伊勢谷「なるべく数多く出たほうがキャッチされるから、リバースは人に頼めるところは頼んでました。とはいえ、俳優にしがみつくつもりもなかったんですけど。是枝さんみたいに別の扉を開かせてくれる作品って少なくて、結構短絡的な作品が多いでしょう? そこまで影響力のあるものを、みんな求めてないし。一時期、歌手が政治的なことを歌うなって言う人がいたけど、僕が一番好きだったRAGE AGAINST THE MACHINEていうバンドは常にそういうことぶちまけていたから、無茶苦茶かっこよかった。それが僕の中では完成形なんです」
――そもそもリバースを始めたきっかけは何なんですか?
伊勢谷「僕が監督としての2作目(『セイジ-陸の魚-』)の脚本を書いていた、27歳のときに種の保存について考えたんです。ベンチで書いていて、ちょっと休んだら月が見えて、月から人類を見下ろしたときに人類が一番バカな生物じゃないかって気づいたのがきっかけですね。賢いと思ってる、その一員にはなりたくないと思って。
最近、ISSUE DRIVEN(『イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」』)っていう本が出ていて、僕は読んではいないんですけど、問題(イシュー)からドリブン(〜をもとにする)すること、問題を明確にすることが大事だと思う。日本は問題を明確にしないからなかなか解決しない。みんなでシェアして売ることはポジティブなので、いいことなんです。求められるのはポジティブなものからのドリブン。はじめは暗いかもしれないけど、そこから明るい話にどんどん話し合って持っていくことをやらなきゃいけない。日本人は政治の問題も話し合わないし。フジテレビ問題の裏で高額療養費制度の見直しが起きたりしている。自分の人生の役割を種の存続っていうところに置かなければいけないのに」
――今の伊勢谷くんの主な活動は?
伊勢谷「実務家からは離れたので、トリックスター的役割で、現代美術でいろいろと提案していこうかなと思っています。捕まった後に、いろいろ考えたんですよ。どういうことならいいかな、こうならいいかもって。昔取った杵柄(きねづか)じゃないですけど、自分の手を動かして、一人一人へのメッセージを製品にする、自分のメッセージが人の実生活に中に入り込むっていうのが、今の僕のアート作品なんです。たとえば、“資本主義の奴隷”ってメッセージを洋服にプリントしたりとか」
――社会に対するメッセージは重要ですか?
伊勢谷「それがなかったら、アートとしての意味がなくて、ただのお絵描きごっこだと思うんですよ。アートって“アルス”と“テクネ”っていうラテン語とギリシャ語が起源の言葉なんですけど、両方とも技術って意味なんですね。技術って人の生活や社会の仕組みを変えることで、それがあれば未来が変わる、ってことなんです。
幸せについて、留置場を出たあとにすごく真剣に考えたんです。ハッピーなもの、ポジティブなものしか売れないんだったら、じゃあ、この自殺率ナンバーワンの国は幸せじゃないと思える。
じゃあ、幸せって何だと定義づけると、仕事で得られる快楽ってあんまりなくて、経営者は未来の心配をして過去を後悔しているから、今に集中できないし、しちゃいけない。常に過去と未来を見ている。今に120%集中すると、ノルアドレナリンっていう脳内物質が出るんです。与えられたタスクを達成すると出る。
じゃあ、それぞれが自分が一番好きな幸せ物質を調べて、それを担保するための時間を人生でたくさん持てば、おそらくその人は不幸せじゃない。誰かより金を持ってるっていうのは相対的な幸せで、そうでなく本能的な幸せを人生でなるべく多くする。仕事に関わる幸せ物質が少ないなら、仕事以外の時間を多く作らなきゃいけない。それを社会の人がたくさんできるようにしなきゃいけないんです」
――なるほど。最近は生活はどのような生活を送っていますか?
伊勢谷「夜は9時か10時には寝て、夜が明けると目を覚ましてますね。夜に期待をしなくなったんですよ。夜に出会いがあったり何かが起きるかもっていう期待の仕上がり具合が大体想像つくようになっていて、酔うよりも酔わない選択肢のほうが明日は楽しいっていうふうになってます」
――最後に、smartで印象深かった撮影について教えてください。
伊勢谷「HIROMIXと撮ったページをさっき見たんですけど、あの雰囲気は今見てもすごく好き。そのときは何でもない服を着てるなって思ってたんですけど、今見返すと他のページよりもおしゃれだし、気持ちいい。他は、俺、ウルトラマンみたいなピタピタの服着てるなと思ったりしました(笑)」
伊勢谷友介が登場した過去のsmart
1998年2/23号「agnés b特集」
1998年1/12&26号「20471120特集」
2000年9/4月号「表紙」
Profile/伊勢谷友介(いせや・ゆうすけ)
1976年生まれ。東京都世田谷区出身。俳優として国内外の映画に出演。監督として『カクト』『セイジー陸の魚―』を演出。2000年に東京藝術大学大学院美術研究科博士課程修了。本人プロデュースのアイテムはHAPPY SAUCEで販売。
伊勢谷友介Instagram:@iseya_yusuke
Photography _ HIROYA KITAI
Styling _ YUSUKE ISEYA
Hair & Make-up _ ShinYa
Interview & Text _ HIDEYUKI TAKADA
衣装はすべて本人私物
この記事を書いた人
流行通信社、ロッキング・オン社をへて、1990年に宝島社入社。Cutie編集長ののち1995年にsmartを創刊。2024年に退社し、現在はフリー。
Instagram:@htakada1961
Website:https://smartmag.jp/
お問い合わせ:smartofficial@takarajimasha.co.jp
この記事をシェアする
この記事のタグ