「20代、30代未婚女子のリアルを描く」女子は自分の悪い顔を見ている感覚になり、男子はスカッとできる作品【ドラマ『結婚詐欺師と堕ちる女』山谷花純×田島亮対談】
執筆者: ライター・エディター/佐藤玲美
役者として芝居への向き合い方が変わるタイミングとは?
山谷「演技に対して、そういう考え方になったのはいつ頃から?」
田島「バベルレーベルでの経験を経てだね」
山谷「その前はどんな風に向き合っていたの?」
田島「前は……何秒映れるか、みたいな(笑)」
山谷「作品の中でどう爪跡を残すか、みたいな?」
田島「20代の頃は、自分中心の(演技)プランばかりだったね。この役をやることによって、自分がどうステップアップするのか、どういう自分を見せたいのか、みたいなことばかり考えていたと思う」
山谷「それが今のように変化したのは何かきっかけがあった?」
田島「自分が裏方や監督をやったりしたのが大きいのかなって思う。もともとは日本一うまい役者になりたいって思っていたんだけど、(やっていく中で)絶対無理じゃん、って思ったの」
山谷「それはなんで?」
田島「神野三鈴さん、大谷亮介さんというものすごい役者さんと一緒に舞台に立って。年齢的には20年、30年先輩なんだけど、自分が2,30年経ったときにこうはなれないって思ったときに、1位になれないんだったらやめるかっていう気持ちになったんだよね」
山谷「それが30代の初め頃にあった挫折?」
田島「そう、挫折。役者を辞めて、ただの舞台ファンになろうかなみたいなことも考えたんだけど、自分が持っているカード(経験)を見直したときに、バベルレーベルで働いていたから、映像の知識もあるし、(役者として)今までやってきて、うまくはないけれど、別に下手ではない。ルックス的にもメイクと衣装でどんなキャラクターにもなれるし。2枚目も3枚目もできるし汚れ役もできるし……というところで、こういう部分を活かせばニーズはあるかなって、気持ちを完全にシフトチェンジして。“俺は役者なんだ”ではなく“ぜひ、僕を使ってください”っていう気持ちに変わっていったのかな」
山谷「スタンスが180度変わった?」
田島「完全に。作品によって監督なり、相手役の役者さんにとって役に立つ作り方をしようと気持ちが切り替わった。そのタイミングで『アバランチ』(フジテレビ系)というドラマで、藤井(道人監督)さんに映像で復活させてもらって。今まで(撮影後の)編集もやっていたので、ドラマを撮っている最中から(今のシーンを)どう使いたいのかがわかるから、ここは繋がってなくてもいいなとか」
山谷「撮りながらどう編集されるかも想像しているんだ?」
田島「あまり(演技)経験のない方とのシーンで、本当はこっちの立ち位置のほうがやりやすいんだろうなって思ったら、『こっちにやってあげたいんだけどいいか』って提案したり」
山谷「今回、怒涛の撮影スケジュールだったっていうのもあって、1度どうしてもスケジュールが押してしまったことがあって。そこは田島さんが出演していないシーンだったんですけど、助監督をしてくれたんだよね。ついさっきまでかっこいい小早川(悟志)さんだったのに、ダウンジャケットにカチンコを持って割り打ち(カット割りの打ち合わせ)に参加している姿を見たときに、この人、どういう気持ちでこんな風にできるようになったの? いつからなんだろうっていうのを、後ろ姿を見ながらいつか聞いてみたいなって思っていて。現場を回してたと思ったら、終わった瞬間にダウンジャケットを脱いでメガネを掛けて小早川に戻ってカメラの前に立っているわけじゃないですか。もう、その切り替えが怖くて(笑)。でも、今の話を聞いて、自分が今どこにいるのかを理解して、何をしたら誰のためになるのかっていうことを常に考えていらっしゃる方なんだなって思いました」
――山谷さんはどのように演技と向き合っているのでしょうか?
山谷「番手(エンドロールに流れてくる順番)にもよりますよね。自分が主役(一番手)の場合は、周りを引っ張っていかなくちゃいけないっていう気持ちもありますけど、基本的には、私がその作品で何かを残したいというよりは、ご一緒する相手の役者さんがステキに映ってほしいと思っていて。相手にどう影響を与えられるかは考えていて。監督が新鮮なリアクションを欲しがっているんだろうなっていうときは、テスト(本番前の通し稽古)のときにしてないことを本番であえてして、サプライズを仕掛けたり。なので、相手ありきかなと思います。相手も同じマインドだったら、お芝居はやりやすいけど、そうでない人も多いし、そういう方がいないと成り立たないものだと思うので。だから(田島さんのように)相手に対しての思いやりがある役者さんと出会えたときはすごく嬉しい」
田島「その意識は昔から持っていたの?」
山谷「10代の頃は自分が最強でした(笑)」
田島「俺より10年早く、キャリアをスタートさせてるもんね」
山谷「20歳くらいのときに、自分が思っているものと求められるポジションが違うなと思ったことがあって、それくらいから譲れることが増えたんです。そのきっかけはお芝居じゃなくて、自分の周りの人間関係だったんだけど。自分優先でやってきたら、すごく敵が増えてしまって。“あいつ面倒くさい”って言われてしまうようなことがあったときに、どうしたら誤解されずに『本当はこう思っているんだよ』というのを伝えられるんだろうと考えて。それで自分が生きやすい世界にするために味方を増やそうって思ったときに、芝居においても譲れるものが増えたし、だからこそ譲れないことも明確になった気がする」
田島「花純ちゃんの相手役はすごいラッキーだろうなと思いますよ。これをやってくれたら助かるわっていうことをやってくれるんで」
山谷「どんなところか聞きたい♡」
田島「演技論っぽい話になるんだけど、映像の場合の芝居は『リアクションを大きく、アクションを小さく』が基本的にはいいと思うんですよね。花純ちゃんは僕の言葉によって傷つくとかびっくりするとかっていうのも、僕がちょっとやるだけで全部拾ってくれるんです。だから僕のほうは引き算しながらアクションもできるし、そういうお互いの芝居に関しての対話は(話さずとも)できてたんだろうね」
山谷「してたんだったかな(笑)」
田島「そういうことを考えない相手役は無意識で得していると思う。逆に花純ちゃんが『(リアクションが)大きいんじゃね?』と思われたりすることもあるので、もしかしたらちょっと損するタイプかも知れないけどね。今って、引き算の演技がめちゃくちゃ流行っているからこそ、足し算の演技ができる花純ちゃんの存在は、すごく重宝されると思う」
山谷「現場での田島さんは視野が広いから、端の人までちゃんと目が行き届いている気がする。通常なら端折られてしまう人も全員、輪の中に入れて、一緒に作ろうよっていう空気感を作ってくれるし、お芝居をしていても目ですごく語る方だなって。先程、30代前半ですごく変わったって言ってたけど、逆に変わらない部分ってあったりする?」
田島「役者を始めた当初に思い描いていた演技体(演じる際に、身体の動きや言葉、扮装などによって表現する人物像)からはどんどん離れていっていると思う。そこは変われなかった」
山谷「思い描いていた演技体ってどういうこと?」
田島「ナチュラルボーンアクターみたいな、憑依型というか、感情むき出しで手が付けられない役者になりたかったけど、今はめちゃくちゃ計算型になってる」
山谷「それは頭で考えられる人じゃないと気が付かないことなんだよね。そういう野生タイプの人ってすごく楽しそうだし、私も羨ましいなって思う。その分、周りが大変なんだろうなって思うけど」
田島「ダニエル・デイ・ルイスが舞台『ハムレット』の稽古をしているときに、本当に亡霊が見えてしまって、舞台を降板したっていうエピソードがあって」
山谷「いいんだか悪いんだか、って話だけど(笑)」
田島「でも彼の演技は、世界中が見る価値があると思う。こうはなれない、一生なれないと思うから、頑張ってそう見せるしかないっていうのはあるかな」
山谷「すごく苦しい役をやって、役を自分に入れてしまったために傷つきすぎて、芝居から離れてしまうのって本末転倒かなって思う気持ちもある。だから、グレーじゃないけど、ちょっと半分半分くらいがバランスがいいのかなって思ってる。バベルレーベルで、裏方をしていた時期は、役者はやめるつもりだったの?」
田島「正確に言うと、裏方をやりながら年に2本は稽古場公演をしたり、トレーニングをしていたから、芝居から離れたことはないんだよね」
山谷「それが生きがいなんだ」
田島「それこそ、芝居を続けていてどんどんクセがついてしまったときに、それを取るために『一回芝居から離れようと思います』って先輩に言ったことがあって。そしたら、『今、離れたらもっと悪くなるよ』って言われたの。『自分の欠点はやり続けていかないと治らないから』って。『それで、そこが治ったらまた違う欠点が出てくる、そういう仕事だよ』と言われた言葉を大切にしてる。それを言ってくれたのが(2017年に亡くなった)中嶋しゅうさん」
山谷「(吉田)鋼太郎さんからしゅうさんの話もすごく聴いていたので、ステキな方だったんだろうなと思う」
田島「例の挫折後に、その言葉を思い出して、下手でいいやって思えたんだよね。20代の頃はうまく見せたい気持ちがあって。たぶん、評価されたかったんだろうけど、自分が絶対に勝てない上手な人と一緒に芝居をしたことで、下手でもいいかって思えた。下手だけどここはできるっていうものはあるじゃん、って。その自分の持っているカードを強くしていくことで、役も自分の得意なほうに寄せていくっていうか」
山谷「役者として進むべき方向が見えたというか」
田島「そこから趣味からビジネスに変わったみたいな感じ」
山谷「それ、ちょっとわかるかも」
この記事を書いた人
東京在住のライター・エディター。『smart』『sweet』『steady.』『InRed』など、ウィメンズ、メンズを問わず様々なファッション誌やファッション関連のwebでライター&編集者として活動中。写真集やスタイルブック、料理本、恋愛心理、インテリア関連、メンタル&ヘルスケアなどの本の編集にも携わる。独身。ネコ好き。得意ジャンルはファッション、ビューティー、インテリア、サブカル、音楽、ペット、料理、お酒、カフェ、旅、暮らし、雑貨など。
Instagram:@remisatoh
Website:https://smartmag.jp/
お問い合わせ:smartofficial@takarajimasha.co.jp
この記事をシェアする
この記事のタグ