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連載山谷花純の映画連載「All is True」

「知らないことを知らないまま生きる道もある」映画『オッペンハイマー』を観て女優・山谷花純が考えたこと

執筆者: 女優/山谷花純

感想

L to R: Cillian Murphy is J. Robert Oppenheimer, Olli Haaskivi is Edward Condon, Matt Damon is Leslie Groves, and Dane Dehaan is Kenneth Nichols in OPPENHEIMER, written, produced, and directed by Christopher Nolan.

©︎ 2023 Universal Studios. All Rights Reserved.

知らないことを知らないまま生きる道もある。知ることを選ぶか、知らないことを選ぶか。人の選択を否定できる者はどこにもいない。

知らなければ、良い感じに丸く収まることもある。真実を知ったからこそ沸き起こる、後悔とも違う複雑な感情。

これには、何という言葉が似合うのだろう。まだ私は、知らない。

逆に、知りたいと思ったことは、人から教わるよりも自ら知ろうとする努力を大切にしたほうが、より鮮明に記憶へと刻まれる。

体験できないことは、見て聞いて読むことでしか歩み寄り方が残されていないのだ。

私にとって、「オッペンハイマー」は、まさにそれだった。

数年前、夏が顔を出し始めた頃、映画好きな先輩がポロっとこぼした一言がこの作品を知るきっかけとなった。

「(クリストファー・)ノーランの映画『オッペンハイマー』が日本では公開されないかもしれないんだよ」。

ん?オッペンハイマー?公開できない??頭の中が“はてな”でいっぱいになった。

オッペンハイマーは、“原爆の父”と呼ばれた人。その人が作った爆弾が、広島と長崎に投下されたこと。

歴史の授業で学んだ気になっていたけれど、原郷を生んでしまった存在について考えたことすらなかった。

これは、日本人として知らないといけないなと直感で思った。そして何より、無知な自分がとてつもなく恥ずかしくなった。

米国で公開されてから8カ月後。2024年3月29日。どうにか日本でも無事公開された。

ノーラン作品は、時系列が入り組んだものが多い。今作も冒頭から全くもって説明する気がない。

“あなたは、知りたいからこの作品を観に来たんでしょ?だったら一瞬たりとも逃さず向き合ってください”。

ノーランからの啖呵(たんか)を切ったメッセージを受け取り、上映時間180分という決して短くない時の流れに身を委ねる。

物理や化学や数式。学生時代、多くの人が頭を抱えた科目たち。それに情熱やロマンを抱いた一人の男。それがオッペンハイマーだった。

人付き合いが苦手で、数式としか意思疎通できなかった彼にとって、唯一心置きなく会話を楽しめる存在が物理だった。そんな“相棒”との実績が評価されたとき、初めて社会との繋がりを持つ。どんな形であれど、自分の存在意義を見出した瞬間だった。

そしてそれは、歴史に刻まれる破壊の始まりだった。この世界にまだない存在を生み出す冒険。彼の探究心は、やがて歯止めが効かなくなっていく。

異端とも呼ばれる彼の才能に魅了された人が次第に増えるのは、至極当然で。一人、また一人と魅了される人が増えていく。壁に向かってひとりぼっちで、グラスを投げ実験を重ねるのが当たり前だった過去が嘘かのように。その規模は、そうしてついに政府にまで広がった。

戦争を終わらせるため。一人でも多くの命を救うため。力を持ってはいけない国を阻止するため。そのために、まだ存在しない大きな力を作って欲しい。国という大きな組織から投げられた「願い」。

それを聞いたとき、オッペンハイマーはどんな気持ちだったのだろう。

まだこの世に存在しないものを生み出す興奮。愛する母国の力になり得る喜び。きっと彼の前には、輝かしい世界が広がった瞬間だった。

開発が進むにつれ、その光がかげり、黒い雨が降り始める。

彼の才能や地位をひがみ、陥れる者。才能の消費を受け入れられない者。彼よりも上に行こうと別の地図を握り、離れていった者。

何重もの壁を潜り抜けて実施されたトリニティー実験。

喜びから始まった挑戦は、果たしてどんな感情を持って完成へと辿り着いたのか。

それは、スイッチボタンが押された後に映し出されるJ.ロバート・オッペンハイマーの顔が全てを物語っていた。

そして、世界初の原子爆弾は、我が国・日本の広島と長崎に落とされた。

ただただ純粋に、求められたこと以上のものを作り上げた一人の天才物理学者。妥協せずに歩を進めた先に待っていたのは、あまりにも残酷な世界だった。

終戦後、「我は死神なり、世界の破壊者なり」「自分の手が血で汚れているようだ」と口にする彼にルーズベルト大統領が放った言葉が印象的だった。

「これを作った者を考える人はいるか?作った者よりも誰が落としたか。私がやった」。

この言葉は、現代を生きる我々にも繋がるなと思った。

民放のテレビ一つをとってもそう。結果、一番前に立つものが全てを背負う。

背景や過程をすっ飛ばして、憶測や非難が飛び交う。脚色されながらザワザワと広がっていく。

脚色する奴らは、少しでも安全で有利な場所に立とうとする。誰かを守る。ただの言い訳を上手に使い、何よりも自分自身を守るのに必死なんだ。

そんな人たちが、この世から0になるなんて到底無理だから。

悲しいけれど、まだ見ぬ未来にも戦争という歴史がポイントで散りばめられていくのだろうなと感じてしまう。本当に悲しい。

誰が悪かったのだろう。何が悪かったのだろう。

安直な考えだけど、多くの人がこの作品を観た後に考えるだろう。

誰も悪くない。みんなで大きな成功と過ちを犯した。ただそれだけ。

これが正解じゃないけれど、私にはそんな答えが出た。

もう一度言う。知らないことを、知らないまま生きる道もある。

ただ、知りたいと思ったことは、人から教わるよりも自ら知ろうとする努力を大切にしたほうがより鮮明に心と頭へ刻まれる。

この記事が、あなたが知ろうと思う、そんなきっかけになれていたらと願う。

映画「オッペンハイマー」4K ULTRA HD+Blu-rayセット: 7,260 円 (税込み)
発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント

オッペンハイマー
4K ULTRA HD+Blu-rayセット: 7,260 円 (税込み)
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※商品情報は記事公開時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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  • ©︎ 2023 Universal Studios. All Rights Reserved.
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この記事を書いた人

1996年12月26日生まれ、宮城県出身。2007年にエイベックス主催のオーディションに合格、翌年12歳でドラマ「CHANGE」(CX/08)で女優デビュー。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(13)、「ファーストクラス」(14/CX)など話題作に出演。その後、映画『劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命』(18)、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(22)、連続テレビ小説『らんまん』(23)などに出演した。主演映画である『フェイクプラスティックプラネット』(20)ではマドリード国際映画祭2019最優秀外国語映画主演女優賞を受賞するなど、今後の活躍が期待される。

X:@minmin12344

Instagram:@kasuminwoooow

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