「簡単に何者かになれるなんて、そんなの嘘」“バンドマン経由でイラストレーターへ”朝際イコが明かす自己表現の見つけ方ジェニーハイ「超最悪」のアートワークも担当
執筆者: 音楽家・記者/小池直也
大正ロマンな世界観を絵で表現するイラストレーター/漫画家の朝際イコ。20代に打ち込んだバンド活動から一転、30代から絵描きへの道を志した彼女が大事にしているのは「自分の好きなもの」だという。コスパやタイパに抗ってスタイルを探る秘訣とは何だろう。
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15年の儚い時代=大正
――朝際さんのInstagramやXのプロフィールを見ると「一応バンドマンのイラストレーター/漫画家」と書いてありますが、これはどういうことでしょう?
朝際イコ(以下、朝際):今は仕事が完全に絵になっているのですが、もともとは燕時光というユニットやROLLICKSOME SCHEMEというバンドをやっていて、今も歌っているんです。だから「昔は音楽をやってました」と言いたくなくて。
音楽も絵もファッションも含めた上で私。ただ絵がメインになってるから、字面的に「一応」と付けたら単純に面白いかなと思ったんです。「こいつ何者なんだ?」という感じになるじゃないですか(笑)。
――どこか控えめな感じなのかなと思いました。
朝際:やっぱり「プロぶりたくない」という気持ちはあります。それで稼いでいるのでプライドやポリシーはあるのですが、あくまでも自分が好きなことで生きてるから、いい意味でのアマチュア感を持っていたいなと。
――「プロ」という概念が明確でなくなってきている感じはあります。
朝際:周りが言ってくれるのはわかりますが、自分から「プロです!」と名乗るのは違う気がします。プロフィールに今まで自分が過去にやってきたことや属性、ステータス、立場を並べるよりも「朝際イコ=私」でいい(笑)。名前だけで誰もが認識してくれるような存在になることが目標です。
――なぜ活動が音楽から絵にシフトしたのでしょう。
朝際:実は音楽よりも絵のほうが最初だったんです。3歳頃から絵を描いてました。きっかけは『美少女戦士セーラームーン』が好きすぎて、しつこく母親に「描いて!」とお願いしていたら、父親に「自分で描きなさい!」と怒られたこと。
それが悔しくて泣きながら描いていたんですよ。そうしたらどこかで限界突破して、絵が楽しくなったんです。最初は漫画よりもジブリなどのアニメが好きで、だんだんと「いつか漫画家かアニメーターになれたらいいな」と思うようになりました。
音楽に興味が向いてしまったのは、中学時代にBUMP OF CHICKENやASIAN KUNG-FU GENERATION、ELLEGARDENと出会ってギターを弾き始めたからですね。気づいたら軽音楽部に入り、大学生になってからバンドを始めてました。その頃は絵を描いたとしても、ライブ宣伝用のフライヤーや人から頼まれたオーダー通りのデザインを作るくらいで。
――絵を自分のメインの主な活動にしたのはいつ?
朝際:30歳が転機でした。もちろんタイミングもあると思うのですが、確率的にバンドって若いほうが売れる可能性が高いじゃないですか。でも20代後半くらいから「歳を重ねても充実して、無理なく楽しくできることは何だろう?」と考えたときに、再び絵に戻ってきた感じです。
それなら潔く30歳までバンドをしっかりやって、その後は絵をお金に変えるスタイルにシフトチェンジしたほうがキリがいい。その後は作家性のある絵をSNSにひたすら上げてました。
――レトロなタッチの絵柄が朝際さんの魅力だと思うのですが、自分のスタイルは確立したのですか。
朝際:前から自分は和風のものや着物など、レトロなものが好きだとは感じていたんですけど、どの時代のものが好きかまでは言語化できていなかったんです。ざっくり「レトロなもの」だと人によっては昭和も戦前も戦後もレトロになってしまう。
でも、ちょうど30歳前後に祖父が亡くなり、着物を大量にもらったんですよ。それを機に調べてみたら、自分が好きな大きな柄が乗っていたり、カラフルな柄は大正時代のものだと知ったんです。だからイラストもそちらに寄せていきました。
――大正時代の文化のどこに惹かれるのでしょう?
朝際:明治が西洋に追い付け追い越せで日露戦争の勝利で自信を持った期間だとしたら、それに続く大正は外国から輸入した文化を日本人らしく工夫して形を変えた時代。たった15年間の儚さも含めて魅力を感じています。
この記事を書いた人
音楽家/記者。1987年生まれのゆとり第1世代、山梨出身。明治大学文学部卒で日本近代文学を専攻していた。自らもサックスプレイヤーであることから、音楽を中心としたカルチャー全般の取材に携わる。最も得意とするのはジャズやヒップホップ、R&Bなどのブラックミュージック。00年代のファッション雑誌を愛読していたこともあり、そこに掲載されうる内容の取材はほぼ対応可能です。
Website:https://smartmag.jp/
お問い合わせ:smartofficial@takarajimasha.co.jp
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