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連載山谷花純の映画連載「All is True」

「家族に言葉で伝えることを諦めてはいけない」女優・山谷花純が『愛にイナズマ』を観て思ったこと

執筆者: 女優/山谷花純

女優・山谷花純の映画連載「All is True」

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ハグは、何故するのだろう。考えたことすらなかった。 この作品では、こう答えている。「存在の確認」。 家族とは。血の繋がりとは。また一つ考えるきっかけとなった作品。

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2023年公開の映画『愛にイナズマ』レビュー

映画『愛にイナズマ』DVDパッケージ

『愛にイナズマ』Blu-ray&DVD発売中/Blu-ray 5,720円(税込)、DVD 4,620円(税込)/発売・販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング/©2023「愛にイナズマ」製作委員会

人に理解されないことって、世の中にはたくさんある。自分的として、常識の範囲内で当たり前に思っていることとか。その全ては、過ごしてきた家庭環境に繋がっていく。この作品では、主人公である若手映画監督の折村花子(松岡茉優)が、自分の家族を題材に一つの映画を作ろうとするところから始まる。 その作品のタイトルは「消えた女」。20年前に母が突如、失踪したことにより、いびつな家族関係へ変化していった。

映画『愛にイナズマ』の1シーン

©2023「愛にイナズマ」製作委員会

今はいないけれど、確かに存在した母も含めた家族を映画という形で残したい。そして、なぜいなくなったのか。うやむやにしてきた真実と向き合うきっかけを映画に求めたのかもしれない。理由がなくとも湧き出る感情や衝動を大切に生きてきた花子。それとは対照的に、映画を作る上で関わる人たちはみなこう口にする。「映画を作る理由は?」「映画を作る意味は?」。お客さんが求めていることだから。と、彼らは都合の良い言い訳や人を使って、彼女を問い詰める。

アフターコロナの現代を描いているから、なおさらそれらを強調しているように見えた。人が理解できない突発的なことや、あり得ないことが現実として起きた今、人々は以前にも増して理由や意味、そして答えを強く求めるようになった。そして演者が増えた。なるべく揉めないように。平穏に。職業=俳優と名乗っている我々より、巧みに演じぬく。

映画『愛にイナズマ』の1シーン

©2023「愛にイナズマ」製作委員会

自分が欲しいものを得るためには、相手が求める自分を演じなければ生きていけない世界が広がっている今。花子が口にした「人に合わせて、なるべく普通のフリをしています」、「信念まで変えて良いんですかね?」という言葉。 誰もが見て見ぬふりをしてきた問い。向き合わざる得ないワンシーンだった。花子が自問自答してきた葛藤をぶつけられたのは、相手がもう一人の主人公・舘正夫(窪田正孝)だったからだと思う。人が見逃す矛盾や悲しみにスポットを当て、疑問を抱いたり大切に記憶する純粋な心が、社会に疲れ切った花子の心を浄化していく。

それは、見ている我々の心にも染み渡る。真っ直ぐ相手の目を見て「夢を探してます!」と言えるのが正夫。これができる人には、大抵何をしても勝てない。まさに、イナズマに打たれたような出会いから物語の矛先が定まっていくのを感じた。映画化が頓挫しても夢を諦め切れなかった花子が最終的に頼った場所。それは、やっぱり家族だった。

映画『愛にイナズマ』の1シーン

©2023「愛にイナズマ」製作委員会

頓挫する前に、意地の悪い助監督が脚本を見ながら散々言っていた「こんな変な家族はいない」。どんな家族よ?と、もう気になって仕方がなかった。物語中盤、その折村家が10年ぶりに集結する。うん。実に個性的な家族だった(笑)。何も先入観なく観て欲しいので細かくは言えないけど……一つだけ。しつこいくらい劇中に“赤“を求めていた花子の理由が、家族が集結したことにより判明する。血の繋がりというのは、こう言うところに出るよねって。ただこの繋がりは、家族である当人同士では気づくことができないことで。傍観者である我々観客だからこその楽しみ。映画制作を進めるうちに知る真実たち。そのほとんどは、血の繋がりがない人たちはすでに知っていた。

他人だからこそ、話せる真実。家族だからこそ、伝えられない本心。

そうなるのは、どんな形であれ自分のことのように大切で特別な存在だから。認めざるをえない。今の自分の根本を構築した場所は、やっぱり育った環境であって。その全てを他人に共感や理解を求めることはおこがましいこと。カメラのレンズを通して、家族修復作業を進められた折村家。真似をしたくてもできない修復方法だと思った。その家族にしかできない向き合い方があって、正解の在り方が異なるから。ただ、家族の問題は、家族にしかなんとかできない。改めて、そう思い知らされた。今作を観終わった後、考えるだろう。自分の家族を。

映画『愛にイナズマ』の1シーン

©2023「愛にイナズマ」製作委員会

そして思い出すだろう。他人の家族と触れ合う瞬間があったときに受けたカルチャーショックたちを。私は、血の繋がりよりも共有した時間の重さで得た、家族と言いたくなる存在たちも思い出した。

でもやっぱり、ふとした瞬間に、血の繋がりを思い知らされるんだ。洗濯物を溜められない。寝るときに片足を折り曲げて横に開く。人に作る料理が大好き……。自分の例をあげたら嫌なほど湧き出てくる。歪な形をした我が家族も切れない何かで今も繋がっている。そしてそれは、きっとこの先も続いていく。楽しい思い出より辛く悲しい思い出のほうが強く残る。後者に関しては、昨日のことのように思い出すもの。苦い歴史は、なかったことにできないけれど、今も含めた未来をどんな形で在りたいのか。どの家族にも大なり小なりの問題があるから、自分の家族だけが特殊と思わなくて良いのだよって。

「家族って何?」。その答えを探しても無意味なことだよって。 言葉で表すことが難しい存在へ、本当はどんな言葉を伝えたいのかを考えるべきだと作品を観て感じた。

想いは、言葉にしないと伝わらない。

言葉で伝えることを諦めてはいけない唯一の場所。それが家族なのかもしれない。

あらすじ

26歳の折村花子(松岡茉優)は気合に満ちていた。幼い頃からの夢だった映画監督デビューが、 目前に控えていたからだ。だが物事はそううまくはいかない。滞納した家賃は限界で、強制退去寸前。花子の若い感性をあからさまにバカにし、業界の常識を押し付けてくる助監督からは露骨なセクハラを受け怒り心頭だ。そんなとき、ふと立ち寄ったバーで、空気は読めないがやたら魅力的な舘正夫(窪田正孝)と運命的な出会いを果たし、ようやく人生が輝きだした矢先……。卑劣で無責任なプロデューサーに騙され、花子は全てを失ってしまう。ギャラももらえず、大切な企画も奪われた。失意のどん底に突き落とされた花子を励ますように、正夫は問う。

「花子さんは、どうするんですか?映画諦めるんですか?」

「舐められたままで終われるか!負けませんよ、私は」

イナズマが轟く中、反撃を決意した花子が頼ったのは、10年以上音信不通の家族だった。妻に愛想を尽かされた父・治(佐藤浩市)、口だけがうまい長男・誠一(池松壮亮)、真面目ゆえにストレスを溜め込む次男・雄二(若葉竜也)。そんなダメダメな家族が見て見ぬフリをしてきた問題にスポットを当てた、自分にしか撮れない映画で世の中を見返してやる!と息巻く花子。突然現れた2人に戸惑いながらも、 花子に協力し、カメラの前で少しずつ隠していた本音を見せ始める父と兄たち。修復不可能に思えたイビツな家族の物語は、思いもよらない方向に進んでいく。この家族がたどり着く終着地とは……。

製作者

『舟を編む』をはじめ、発表する作品がいずれも国内外で高く評価されてきた石井裕也が、監督史上最もポップ&ハッピーなタッチで描く『愛にイナズマ』は、今の社会を予見したかのようなアフターコロナの“現代”が舞台。社会の理不尽さに打ちのめされた恋人同士の花子と正夫が、10 年ぶりに再会したどうしようもない家族の力を借りて反撃の狼煙を上げる、愛と希望とユーモアに満ちた痛快なストーリー。

膨大なセリフ量と喜劇要素を随所に散らしながら、“今描くべき物語”として圧倒的熱量で練り上げられた石井監督オリジナル脚本は、製作陣はもちろん多くの役者陣の心を突き動かた。高い人気と確かな実力を伴った演技巧者たちのハイレベルな演技合戦は必見。

主題歌は、かつて監督が何度も聴き込み心を奮い立たせたという、エレファントカシマシの1998 年の名曲「ココロのままに」を起用。立ちふさがる理不尽な現実の壁に何度傷つけられても、決 して戦うのをやめない花子と正夫の2人に寄り添うパワフルな歌声が、見る者の背中を力強く押してくれる。

Profile/山谷花純(やまや・かすみ)
1996年12月26日生まれ、宮城県出身。2007年にエイベックス主催のオーディションに合格し、翌年12歳でドラマ「CHANGE」(CX/08)にて女優デビュー。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(13)、「ファーストクラス」(14/CX)など話題作に出演。その後、映画『劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命』(18)、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(22)、連続テレビ小説『らんまん』(23)などに出演した。主演映画である『フェイクプラスティックプラネット』(20)ではマドリード国際映画祭2019最優秀外国語映画主演女優賞を受賞。2024年は1月期の『新空港占拠』(日本テレビ系)、4月期の『アンメット ある脳外科医の日記』(フジテレビ系)、7月期の『海のはじまり』(フジテレビ系)と話題作に立て続けに出演。 
公式Instagram:@kasuminwoooow
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1996年12月26日生まれ、宮城県出身。2007年にエイベックス主催のオーディションに合格、翌年12歳でドラマ「CHANGE」(CX/08)で女優デビュー。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(13)、「ファーストクラス」(14/CX)など話題作に出演。その後、映画『劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命』(18)、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(22)、連続テレビ小説『らんまん』(23)などに出演した。主演映画である『フェイクプラスティックプラネット』(20)ではマドリード国際映画祭2019最優秀外国語映画主演女優賞を受賞するなど、今後の活躍が期待される。

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