「新庄剛志はバカではない」92歳プロ野球界の最重鎮が新庄を評価する理由広岡達朗『勝てる監督は何が違うのか』
執筆者: smart編集部
誰にでも頭を下げることのできる「新庄流」
就任1年目の秋季キャンプ、あるいは春季キャンプ、オープン戦では、さまざまな「新庄流指導」が発揮された。
ハンマー投げの金メダリストでスポーツ庁長官の室伏広治氏を臨時コーチとして迎えたこともそうである。現在はメジャーリーガーとなった吉田正尚も室伏氏に師事して、肉体改造に取り組んでいるという。
私としては、パワーアップのために筋力をつけることは理解できるが、それが本当に野球に適した筋肉なのかどうかは、新庄を含めた指導者たちがきちんと見極めることが大切であると考えている。その内容はともかくとして、かつての私がそうだったように異業種、異ジャンルの達人に教えを請うことは重要である。
ドラゴンズとの練習試合では、新庄自ら立浪和義監督に頼んで、清宮の打撃指導を求めた。自分でできないことは、できる人に頼めばいい。こんな簡単なことができない人間が多い中で、新庄は何のためらいもなく他人に頭を下げることができる。
彼のフットワークの軽さは、指導者としての大きな武器となるだろう。
就任直後のオープン戦を見ていて驚いたのが、外野手から内野手への返球の際に、強くて低い軌道のボールを投げる選手が増えていたことである。就任直後に、自ら車の上に乗ってバットを差し出して「この高さより低く投げなさい」と指示していたことが、早くも実戦で披露されていたのだ。
現役時代の新庄は、強肩を誇り、外野からの矢のような送球が売り物だった。もちろん、人によって肩の強い、弱いはある。けれども、たとえ肩が弱くても、「強く低く投げよう」と心がけることは誰でもできる。その意識があるだけでも、相手チームに与えるプレッシャーは大きくなる。
私はスワローズ監督時代、若松勉をレフトからセンターへコンバートした。本人は肩に自信がなく、「自分はレフトの方が向いている」と反発した。
それでも、チーム編成上、若松をセンターにする必要があった。そこで私は、「もしも肩に自信がないのならば、それを補うべく捕球の際には猛然とダッシュをして、モーションを小さく、強く低いボールをカットマンに投げるように心がければいい」とアドバイスをした。そして、セカンドベース上にネットを設置して、若松は何度も何度もダッシュを繰り返しながら強いボールを投げる練習をしていた。
若松のいいところは、指導者からの言葉を素直に受け入れて、必死に反復練習を行うところにある。その結果、1977年、1978年と2年連続でダイヤモンドグラブ賞(現・ゴールデングラブ賞)を獲得している。
正しい指示を与え、正しい練習をきちんと行えば、おのずと結果は出る。若松からも、いろいろなことを教わった。同様のことが新庄率いるファイターズでも実現した。時代が昭和から令和に変わろうとも、真実は不変なのである。
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