「自分が主人公だと胸を張って言える人生を」女優・山谷花純が『花束みたいな恋をした』を観て思ったこと
執筆者: 女優/山谷花純
一番欲しいものほど、この手からすり抜けていく。でも、いつかきっと……。そう願いたいよねと思いながら手に取った一作は、2021年公開の映画『花束みたいな恋をした』。
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始まりは、終わりの始まり。それは、誰もが頭では理解できること。だけど、かたくなに終わりという未来を否定する。終わりの数を重ねても、なぜ人はまた始まりを求めるのだろう。 それはきっと、電気が走るような一瞬の出来事が、過去の傷を忘れてしまうくらい心を満たすから。昨年、私の中で、また一つ、始まりが終わりを迎えた。人に勝る才能を個性と評価され、その才能を磨くために努力をし、光を放ち始めた瞬間に「眩しすぎる」と拒絶される。
“普通”が欲しい。普通ってなんだ?このことなのかな。劣等感や嫉妬から一番遠いと信じていた場所は、普段身を置く外界となんら変わらなくて。「才能が眩しい。眺めるのが辛い」。一番嬉しくて残酷な言葉を向けられた。泣いても泣いても、胸くそが悪くて、映画にすがろうと思った。以前観たことがある作品。今観たら当時と違うものが得られるかなと再生した。 多くの人が住む東京を舞台に、日常生活で普段すれ違いざまによく目にするごく普通なカップルが主人公。自分の日常とあまりにも近い世界がカメラに納められていて、無意識に主人公と自分を重ねていた。
京王線の明大前駅から徒歩8分の麦くんの家にある本棚を眺め、もう1人の主人公・絹ちゃんが宝物を見つけたような表情を浮かべる。それとは違う路線で駅から徒歩数分の家にある本棚を眺め、ワクワクが込み上げたあの瞬間、自分は主人公と同じくらい可愛い顔をしてたかもなと思った。
缶ビールを片手に並んで歩く2人。石ころにつまづいて転べばいいのにと思った。 実際は、何よりも楽しくて愛おしい時間だってことを知っているから。絹ちゃんが「女の子に花の名前を教わると、男の子はその花を見るたびに一生その子の事を思い出しちゃうんだって」というセリフ。誰もがなんとなく共感でき、「あー分かる」と言いたくなる言葉。確実にかすみ草はその犠牲者となった。かすみ草は、お祝いごと全般でもらう花束界のスタメンだぞ。受け取る度に、拍手と共に思い出せ!ざまあみろ!坂元脚本の美しい言葉の裏返し。私の心は、デスノート並みに黒いと思い知った瞬間だった。こんな風に観進めていくと、終わりという現実が、始まりという過去に心の底から嫉妬していることに気づく。
この記事を書いた人
1996年12月26日生まれ、宮城県出身。2007年にエイベックス主催のオーディションに合格、翌年12歳でドラマ「CHANGE」(CX/08)で女優デビュー。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(13)、「ファーストクラス」(14/CX)など話題作に出演。その後、映画『劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命』(18)、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(22)、連続テレビ小説『らんまん』(23)などに出演した。主演映画である『フェイクプラスティックプラネット』(20)ではマドリード国際映画祭2019最優秀外国語映画主演女優賞を受賞するなど、今後の活躍が期待される。
Instagram:@kasuminwoooow
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