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連載山谷花純の映画連載「ALL IS TRUE」

「自分が主人公だと胸を張って言える人生を」女優・山谷花純が『花束みたいな恋をした』を観て思ったこと

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だからこの作品は、終わりの先から幕を開け、始まりに巻き戻す作り方をしたのかな?と思った。物語の後半になるにつれ、主人公2人の関係性にズレが生じてきたら、さっき石ころの存在を願った自分をちょっとだけ反省した。環境が変われば、価値観も変わり、自分を守るために譲れないものが増えていく。同じ歩幅、同じ目線、同じ景色を人と共有し続けることの難しさ。誰もが歳を重ねる度に思い知らされる。

始まりを育んだ思い出のファミレスで、終わりという答えを出す2人を眺めてこう思った。「大人になるって、自由で不自由だ」。子役時代、大人と対等に話せるようになりたくて必死に頑張ったくせに。26歳の今、大人になんかなりたくないと思う矛盾に、鎖骨がキリキリ鳴り出してくる。今作の感動ポイントである、主人公たちが涙ながらに抱き合うシーンがやってくると、テレビに反射して自分の顔が目に入った。ひどい顔でしっかりと泣けていた。そっか、まだこんな顔をして泣くことができるんだ。なら当分、平気かもしれないな。そう感じた瞬間、まだ想像しきれない自分の未来がほんの少しだけ楽しみに思えた。切ないラブストーリーではあるけれど、痛いほどの現実と、希望ある未来を眺めた2時間の中で、新しい花束を探そうという気持ちなった。

「自分が主人公だと胸を張って言える人生を」女優・山谷花純が『花束みたいな恋をした』を観て思ったこと

花も恋愛も生き物。綺麗だな。可愛いな。直感的な衝動で過ごしても、いつか必ず涙の雫で根腐れしてしまう。だけど、人も花も1人では生きられないのだ。誰かに肥料や水をもらい、咲かせた笑顔で相手側もまた一つ笑顔が花開く。失敗と呼ばれた過去も、いつかは経験と呼べるようになるかもしれない。映画には、主人公が存在するけれど、こうやって照らし合わせればよく分かる。自分にしか生きられない人生こそ、自分が主人公なんだと。そして、自らをたとえ話としてここまで文章をつづって知ったこと。服を脱ぎ捨てた裸よりも、胸の内側にある心をさらけ出すほうが一番怖くて恥ずかしい。自ら率先して仮装を好み、個性が失われていく現代へ。平凡な日常の中にほど、一本の映画にできるドラマが溢れている。顔を隠し、指先だけで届けようとするのではなく、自分が主人公だと胸を張って言える人生を歩いてほしい。

それはきっと、この作品に関わった全ての人が届けたかった思いなのかもしれない。 そう考えていたら、携帯が光った。「加圧パーソナルジム。契約完了」。 私は、一輪差しから始めてみよう。馬鹿にされたっていい。これが私の生き方だ。

【ストーリー】
舞台は、2015年から2020年の東京。

物語の幕は、2020年から開けられる。恋人同士で一つの音楽を聴く時、イヤフォンを片耳ずつに分けて聴く。それはよく目にする光景。右と左で流れる音楽が違う時点で、もう同じ音楽を聴いていないという事実に気づくべきだ。音楽も恋愛も同様で、分け合った時点で、始まりは終わりの始まり。一人一つずつ持って生きるべきなのだ。

そんな会話を、同じ空間、同じタイミングで別々の相手に向かって話す男女。この物語の主人公である山音麦(菅田将暉)と八谷絹(有村架純)。かつて、“花束みたいな恋をした”2人だった。

2015年。そんな2人が1つであった始まりの過去へ戻る。東京・京王線の明大前駅で終電を逃した山音麦と八谷絹。始発電車までの時間を潰すため、行動を共にすることにした。そしたら、嘘のように趣味や好みがピッタリ合うことを知る。そんな偶然とも必然とも呼べるきっかけから、自然と惹かれ合うようになる。

「好きかどうかは会っていない時に考える時間の長さで決まるなら、間違いなくそうで」

「お店の人に感じいいなとか。歩幅合わせてくれるなとか。ポイントカードだったらもうとっくに溜まってて」

誰もが心の中で呟いたことがある言葉たちが水となり、甘酸っぱい恋の芽が顔を出す。大学を卒業後、同棲をスタートさせた2人。麦はイラストレーター、絹はアルバイトで生計を立て、近所にお気に入りのパン屋を見つけたり、拾った猫に名前をつけたり。そんな平凡で特別な日常に咲いた花を愛でる日々。

渋谷パルコの閉店、スマスマの最終回。変化で溢れた世の中でも、自分たちは同じ歩幅で変わることなく進めると未来を見据えていた。しかし、現実はそんなに甘くない。麦と絹は、生活苦から将来を見据えて社会人になることを決める。

環境の変化により新しい価値観に触れ、言葉も時間も心も選択も変わり出す。歩幅にズレが生じると、瞬く間に二人のバランスが崩れていく。まばゆいほどのきらめきと、胸を締め付けられる切なさに包まれた2人の“花束”が辿る運命とは――。唯一無二の言葉で紡ぐ忘れられない、私たちの物語。

この記事を書いた人

山谷花純

山谷花純

女優。1996年12月26日生まれ、宮城県出身。2007年にエイベックス主催のオーディションに合格、翌年12歳でドラマ「CHANGE」(CX/08)で女優デビュー。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(13)、「ファーストクラス」(14/CX)など話題作に出演。その後、映画『劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命』(18)、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(22)、連続テレビ小説『らんまん』(23)などに出演した。主演映画である『フェイクプラスティックプラネット』(20)ではマドリード国際映画祭2019最優秀外国語映画主演女優賞を受賞するなど、今後の活躍が期待される。

Twitter:@minmin12344

Instagram:@kasuminwoooow

Website:https://avex-management.jp/artists/actor/TKASU

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