「あの時、別の選択をしていたら……」聖なる夜に大切な人の存在に気づける、山谷花純が選ぶマイ・ベスト・クリスマス映画
執筆者: 女優/山谷花純
12月24日のクリスマス・イブと12月25日のクリスマス当日。そのクリスマスに向け、ライトで装飾された街並み。その様子はまるで宝石が散りばめられたようだ。ただ歩いているだけで、特別な日だと心が躍る。
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クリスマスが終われば、一気に年末ムードになるからなおさら。先々の事は考えず、目に入れたくない現実を放棄して、手を伸ばせば届く範囲にある“特別“に、ひたすら酔いしれる一日が、今年もやってくる。山谷サンタからの贈り物は、クリスマスにぴったりな映画。2000年に公開された映画『天使のくれた時間』です(プレゼントのお返しは、随時受付中……)。
ニコラス・ケイジ演じる主人公ジャックは、ウォール街で成功し、何不自由のない豪華な生活を送っていた。自分にとって都合が良い関係の女性をそばに置き、ハイブランド品で溢れた衣装部屋では、大音量でオペラを響かせて一日を始める。絵に描いたような成功者のライフスタイルだ。仕事場でも彼の意見を咎(とが)める存在はいない。そんな彼の元へ、ティア・レオーニ演じるヒロイン・ケイトから数年ぶりに電報が届いた。
ジャックとケイトは、13年前に結婚を誓い合った恋人同士。ジャックにとって今の地位があるのは、13年前の今日と同じ日である12月25日に、研修先へ向かう空港で、引き止めるケイトの手を離し仕事を選んだからなのだ。そうした経緯があったからこそ、ジャックは電報を眺め、懐かしさとほろ苦さで胸がいっぱいになる。
そんな思いを抱えながらの帰宅途中に、立ち寄ったコンビニエンスストアでトラブルを起こしている黒人男性と出会う。どうやら当選した宝くじの券を人種差別の影響で換金してもらえず、腹を立てたらしい。ジャックは、この場を丸く納めようとその男性が持つ宝くじ券を自分が買い取ると申し出ることにした。その提案のおかげで鎮火した黒人男性。彼を連れて店を出ると、初対面とは思えない言葉を投げかけられる。
「これから起きることは、あんたが招いたことだ」。 翌朝、ジャックが目覚めると、身に覚えのない部屋にいた。隣には、13年前に別れた元恋人ケイトが寝息を立て、自分のことをパパと呼ぶ子供が2人。悪い夢だと思い、昨日まで取締役を務めていた会社に駆け足で行くと、ジャックという人間は我が社に在籍していないと追い出される。大豪邸の自宅も同様。仲が良かったご近所さんですら、自分の存在を知らない。そう、クリスマスの一夜で13年前に選ばなかった恋人ケイトとの人生のほうを選んだジャックの人生にパラレルしてしまったのだ! 努力を積み重ねて築いた地位も名声も財力も0。その代わり、かつての愛した恋人と可愛い子供に恵まれた世界が目の前に広がる。夢なら覚めてくれと懇願しつつも、時間を重ねるごとに、少しずつ本来の自分が選ばなかった人生に寄り添い始める。
そしてやがて、ジャックのもとには、現実の世界へ戻る時計の針の音が刻み出す。人類の永遠のテーマ「人生における幸せとは?」をパラレルというファンタジー要素を用いて視聴者へ届ける。
人生は選択の連続だ。
さまざまな形で手放さざるを得なかった時間のおかげで今の自分がある。過去をなかったことにし、何一つ悔いることなく生きている人なんていない。けれど人間は脆い。目の前に広がる現実に追われているフリをして“悔い”をごまかし続ける。それは悪いことでは全くない。誰もが皆、そうしないと明日を迎えるのが苦しい世の中だから、当然のことなんだ。ただ時折、何気ないふとした瞬間にこう思うことはないだろうか? 「あの時、別の選択をしていたら……」と。クリスマス目前、そんなことを考える時間が増えた人間がここに一人いるのが証拠だ。
今では、目尻に浮かぶ皺こそ魅力的なハリウッドスターであるニコラス・ケイジも、今作を演じていた当時は36歳。役者自身の人生に対して悩みを抱きやすくなる年齢の俳優が演じる主人公だからこそ、役が自分の心情を代弁してくれているような感覚にもなる。富と名声は、誰だって喉から手が伸びるほど夢見て、そして憧れる。その夢を現実にするために、目の前の現実と向き合わなくなるのが人間だ。まさに、その象徴的な存在が今作の主人公であるジャック。夢が現実となった瞬間、得たものと同じくらい手放してきた大切なモノたちの存在に気づく。
物語の中を生きる彼の姿から、自分が選択しなかった道を数え始める視聴者は何人いるだろう。そして、向上心にあふれ高みを目指すジャックとは対照的に、身の丈に合った幸せを望むヒロイン・ケイト。見返りを求めず、人の喜びのために行動する感覚派。家族と笑い合える時間が、一分一秒でも長く続くことを大切にしている女性なのだ。
この記事を書いた人
1996年12月26日生まれ、宮城県出身。2007年にエイベックス主催のオーディションに合格、翌年12歳でドラマ「CHANGE」(CX/08)で女優デビュー。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(13)、「ファーストクラス」(14/CX)など話題作に出演。その後、映画『劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命』(18)、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(22)、連続テレビ小説『らんまん』(23)などに出演した。主演映画である『フェイクプラスティックプラネット』(20)ではマドリード国際映画祭2019最優秀外国語映画主演女優賞を受賞するなど、今後の活躍が期待される。
Instagram:@kasuminwoooow
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お問い合わせ:smartofficial@takarajimasha.co.jp
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