【村上隆14年ぶりの版画展をレポート】版画やプリントED作品のみを展示!ハイクオリティ作品群に注目
執筆者: smart編集部
7月末から8月にかけて、カイカイキキギャラリーで開催された村上さんの版画展。版画やプリントED作品のみを展示するのはなんと14年ぶり。カイカイキキの版画工房で製作された、他では類を見ないハイクオリティな作品群に注目!
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リアルと仮想の世界を縦断する
村上隆のインクレディブル
麻布のカイカイキキギャラリーで「Takashi Murakami: Murakami.Flowers( NFT ) Images Prints & Other Prints Exhibition」と題された新作版画展示予約即売会が2023年7月26日〜8月2日まで行われた。NFTについては前号でも触れたが、NFTとは代替不可能なトークンを意味し、それに応用されているデジタルテクノロジーによって、従来であれば簡単にコピー可能なデジタルデータが、コピー不可能な“世界で唯一の作品”として証明されるデジタルアート、つまりNFTアートになるということだ。
今回の展示会では、そのNFTで作られた「Murakami.Flowers」を版画にしたもので、そのクリプト(暗号技術を使った、資産となるようなデジタルデータを意味し、主にビットコインなどを指す)なテイストは、アナログからデジタルへ、そしてそれをまたアナログにリバースするという、誰も開拓したことのない世界へと挑む村上隆の表現手法が興味深い。
実は、クリプトのひとつであるビットコインは、デビュー時はバブル的に高騰したが、その後大きな変動がありその価値も暴落した。しかし村上隆はこの世界を、近い将来認識されるであろう新しい認知領域であるとみている。実際にこのようなマーケットの混乱にひるむことなく、フランス、ル・ブルジェのガゴシアン・ギャラリーで現在開催中(~23年12月)の村上の展覧会のオープニングでは来場者に「The Flower Jet Coin NFT」を配るという大胆なトライをして大成功を収めている。
このような村上を支えているエネルギーは何か。村上は「ヴァーチャルな世界におけるデータ芸術の理解と現実世界の実物芸術との差における価値の有無という部分への思考実験につながる」とコメントしている。そしてアートを、基本的には大衆から胡散臭いものとして叩かれたりするものと位置づけ、中毒症状を引き起こす恐れのあるアルコールやドラッグとの類似点として“脳を刺激するもの”と看過している。アートの定義は誰も分からない。だが、アートの持っているむしろ大衆に理解されない危険な部分を取り除いてしまえば、それはただの工芸品に過ぎない。利休の「侘びさび」なんて当時どれほどの人間が理解できただろうか。
村上は尊敬してやまない宮﨑駿の新作『君たちはどう生きるか』を見て、我田引水としながらも、その創作に対する姿勢を自らとオーバーラップさせている。最後の作品にもかかわらず、難解とされながらもアニメにおける新たな表現領域を作り続ける宮﨑に「表現とは、目に見える出来事や流れだけでなく、作家が生きた時代のリアルさやその人自身の歴史などを組み合わせて理解することで、物を作る作家の脳の中のメカニズムに近づくことができ、より深い理解を得ることができます」と語る村上。アーティストは時代の行き過ぎた先駆者だ。現実と仮想の世界を縦横無尽に行き来しながら作品を発表し続ける村上の脳内世界をどれだけの人がキャッチアップするのだろうか。
©Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.
Photography_KOZO TAKAYAMA(Installation)
Text_HISANORI NUKADA
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