三戸なつめ、30代になって変わったこと。隙のない女、いい人になろうとした過去からの脱皮を経た今を綴ったフォトエッセイ『なつめろん』
執筆者: ライター・エディター/佐藤玲美
ぱっつん前髪がトレードマークの三戸なつめさん。芸能活動10周年を迎えるアニバーサリーイヤーに、撮り下ろしと書き下ろしで構成するフォトエッセイ『なつめろん』は、空気を読んでいい子になろうとしていた20代を経た彼女が、ありのままをすべて表現したいという決意で臨んだ写真も文章も見応え十分の一冊になっている。そんな作品を作り終えた、アラサーとなった三戸なつめのフォトエッセイに込めた思いを、ギュッと凝縮してお届けします!
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何度も訪れたことのある台湾での
撮影では新たな発見もたくさんありました!
————フォトエッセイ『なつめろん』を出すに至った経緯を教えてください。
三戸なつめ(以下、三戸)「今年で芸能活動を始めて10周年ということもあり、記念に写真集を出したいなと思っていたのですが、編集部の方と打ち合わせを重ねていく中で、写真だけでなくエッセイを入れてもいいのでは? というお話になりまして。今までエッセイを出したことはないけど、文章を書くのは好きだったので挑戦してみたかったし、今までの10年を文章で振り返ることができたら、ずっと応援してくださっている方にも喜んでいただけるのではないかと思ってフォトエッセイという形に決まりました」
————どんな内容にしたいと思って臨まれたのでしょうか?
三戸なつめ(以下、三戸)「写真は担当編集の方からお薦めいただいた枝 優花さんにお願いしました。枝さんが私の知り合いの知り合いだったりしたご縁もあったり、前からインスタグラムを拝見していてとても好きなテイストだったので、ぜひお願いしたいと思いました。文章に関しては、担当編集の方が以前出した私のスタイルブックをめちゃくちゃ研究してきてくださいまして(笑)。その時の本は手作り感満載で自分を表現した本だったので、エッセイも自分で書いてみようということに決まりました」
————撮影場所が台湾になった理由は何だったのでしょう?
三戸「芸能活動を始めてから台湾でのお仕事も多くて、私自身、思い入れのある場所なんです。それに台湾のちょっとカラフルな感じとか、アジアならではの雑多な雰囲気も自分に合うなという思いがあったので、ロケ地は台湾がいいと希望しました。ちょうど台湾に撮影に行ったのはコロナが明けた時期で、私も久しぶりの海外だったんです。その久しぶりのワクワクした気持ちを持っていけたのも良かったなと思います」
————撮影のテーマはありましたか?
三戸「20代から30代になって、ちょっと“おとなつめ(大人のなつめの意味)”な部分だったり、今までと変わらない自分のゆるさだったりとか、いい意味での適当さ加減だったり、なんかふざけちゃうところなんかも出していきたかったので、そんな今のありのままの二面性を大事にしながら撮影しました。(フォトグラファーの)枝さんもふざけて現場を盛り上げてくださる方なので、一緒に楽しんで全力でふざけたり、しっとり大人っぽく撮影してみたりと、メリハリのあるものになったかなと思います」
————ファッションリーダーとして注目を集めるなつめさん。メイクや衣装のこだわりは?
三戸「ヘアメイクさんやスタイリストさんは、昔からお世話になっていて信頼を寄せる方にお願いしたので、最初に打ち合わせをしたあとはお任せで。ただ、大人っぽい雰囲気は、今まで以上に意識していただきましたね」
————台湾ロケで印象に残っていることは?
三戸「台南の老塘湖(ラオタンフー)藝術村というところに行きました。私も今まで行ったことがなくて、コロナ禍でインスタの写真を見ながら旅気分を味わっていた時に見つけた場所で、今回ぜひ行きたいと提案した場所だったんですけど。クリエイターたちが集まる場所なのですが、知る人ぞ知る場所だと思います。台湾ロケのコーディネーターさんも『初めて来た』とおっしゃっていました。その場所に行った時に、すごく懐かしい気持ちになったんです。前世でここに来たことがあるってすごく感じて。故郷に帰ったときのようなちょっと胸がキュッとする感覚があったんですね。担当編集さんも『前世にいたことがあるんじゃない?』って言ってくれたんですけど、その言葉がストンと胸に落ちて。そういう不思議な出会いがありました」
————何度も訪れていた台湾で新たな発見があったんですね。
三戸「私の中の台湾のイメージは自分のエネルギーがアガる場所だったんです。今までは行くたびに『台湾だ~キャホーイ♫』みたいな気分になったのですが、その村だけは、自分がしっくり馴染めた場所だったんです。“ぱっつんなつめ”でもなく“おとなつめ”でもなく“インナーチャイルド”が出てきた、みたいな(笑)。そんな気持ちになれた場所だったので、今回はこの場所に呼ばれたのかなと思っています」
————これから台湾旅行を計画している人にオススメを教えてください。
三戸「朝ごはんで行って欲しいお店が、台北にある台北豆漿大王(タイペイドウジャンダ−ワン)。お店の人もフランクで楽しい人たちで。朝ごはんのメニューの種類も多くてどれも美味しかったです。そして絶対に飲んでほしいのが豆漿(ドウジャン)というアイスティー。私のアイスティー史上一番で、日本でお店を出して欲しい、なんなら私が日本に持ってきたいと思えるくらい美味しかったんです。空港が台北にあるので、観光地も台北に集中しているのですが、台南のほうにも素敵な場所がいっぱいあるので、ぜひ足を伸ばしてほしいですね」
———台北と台南は遠いのでしょうか?
三戸「台湾の新幹線で2時間半くらいなので日本でいうと東京と大阪くらいの移動時間ですかね。台北は観光地も多く、台北だけでも満足できる場所ではあるのですが、台南はちょっと田舎っぽいというか、日本の原風景に近いノスタルジックな場所が多いのでぜひ行ってほしいです」
芸能生活10周年を迎えて
心境の変化と変わらない想い
————そしてエッセイのほうではお仕事や30代という年齢、健康など様々なテーマでの文章がありますが、どのようにテーマは絞っていったのでしょうか?
三戸「10周年だったので、この10年を振り返る内容は入れたいなと思っていました。あとは、担当編集の方と、どんなことが知りたいんだろう? とか相談しながら決めていきました。ファッションやビューティーに関しては普段から質問が多いのでスキンケアのお話だったり、あとは今、独身なんですけど、30代になってからの結婚観だったり。色々提案してもらいながらテーマを決めていきました」
———10年間を振り返る作業の中で感じたことはありましたか?
三戸「改めて周りの人たちのおかげで今があるんだな、と感じました。ありがたいことに好きなことをたくさんやらせてもらってきたんです。それは、一人だったら絶対にできなかったことで、マネージャーさんをはじめ事務所の皆さんが、私の気持ちを考えてそういうお仕事に巡り合わせてくれたから。そういう皆さんの働きかけがないと本当にやりたいことができる環境はできなかったなと思ったので、やっぱり周りの人たちに感謝だなと思いました」
————ファンの方々はなつめさんのファッションにも注目しています。30代になってテイストやスタイルの変化はありましたか?
三戸「ちょっとタイトなシルエットだったり、シースルーの素材で肌見せをしたりとかは、新たに加わった部分なのかなと思います。20代の頃に出したスタイルブックを今見ると、なんて隙のない女だったんだろうって(笑)。全身、布で覆われていて、しかも重ね着に重ね着をしまくっていて(笑)。1つのコーディネイトにやりたいこと全部を詰め込んじゃっていたんですよね(笑)。それはメイクも同じことで、改めて振り返ると足し算すげぇなって(笑)。30代になってからは引き算ができるようになって、抜くところは抜けるようになったかなと思います」
———ファッションやメイクに関しても“おとなつめ”ななつめさんが楽しめるということですね?
三戸「20代後半くらいからは、ちょっと周りの空気感に合わせないといけないのかなって気をつかったりし始める時期。節度あるファッションをしたほうがいいのかな? って考える人も多いと思うんですけど。私がここで改めて言いたいのは、自分の好きなファッションがあるなら、それをとことん楽しんでほしいということ。30代になって足し算や引き算の加減は考えるけど、私も好きなファッションを楽しんでいるので。このフォトエッセイでファッションの提案もしているので、ぜひチェックしていただきたいです」
自分に嘘をつかない。それを
大切に文章を綴っていきました
————文章がすごく印象的でした。ご自身で綴ったというエッセイは、読者に語りかける口調の中に時々毒が混ざっていたりと、読みやすくて心に染み込んでくるような言葉が心に残っているのですが、文章を書く上でこだわったことはありますか?
三戸「まずは絶対に嘘をつかないこと。今までは、背伸びしちゃった挙げ句『こんなの自分じゃないわ』となって勝手に自滅していくことが多かったので、今回は絶対に背伸びはしないというのは決めて、ありのままというか、カッコ悪いところも見せながら『(なんなら)悪口だって言っちゃうわよ』くらいの気持ちで書きました(笑)」
————この10年間の間に“いいコちゃん”に見せたいという気持ちが背伸びすることに繋がった時期があったということですか?
三戸「メディアに出だしてからなのですが、初めましての方とバラエティ番組なんかに出させていただく機会があって。初めてなんだけど、その場をうまく立ち回らないと皆さんに迷惑をかけてしまうという気持ちがあったりしたんです。今思えば、そんなことを思う必要はないんですけど、勝手にそう思ってしまって“これが模範解答”みたいなテンプレ発言をしていた時期もありました。それをしたことで誰かにご迷惑をかけたり、怒られたわけではないけど、あとから自分が嫌になってしまったことがあったんです。その経験を経て30代は、そういうのをやめようと思って。そういう思いもエッセイの中で綴っています」
————私見ですが、なつめさんって天然でおしゃれで清楚で……というイメージがあります。そういったイメージは壊したいと考えていたりもするのでしょうか? その外側から見たなつめさんのイメージって、ご自身としては気に入っていたものだったのかも気になります。
三戸「もしかしたら腑に落ちていなかったかも(笑)。逆に質問です。エッセイを読んで、ギャップはありましたか?」
————はい。ギャップというか、文章を読んでこういう方なんだなって新たな発見をした気持ちになりました。それは求められているものに答えようとしていた部分で、なつめさんが今、感じている部分なのかなと思ったりします。
三戸「そういう意味でいうと、(今までのイメージを)壊したかったのかな。そんなにいい人じゃないですよ、っていうのを伝えたかったかもしれない」
————(今までのイメージも)元々持っていらっしゃる部分だったけど、それだけじゃないよ、というのを伝えたくなったのかなと。
三戸「そうかもしれませんね。(空気を読んでいた)あの頃の自分も、自分自身なんですけどね。ただ、その当時、もっと身近にいる人たちに見せてる自分とは違う自分だったのは確かで。だからこそ、この機会に今まで応援してくれている人をはじめ、多くの人に仲のいい人たちと接しているような自分を見せたいという気持ちはありましたね」
————求められることに答えたいけども、それは本当の自分ではないというギャップは、なつめさんだけでなく誰もが日々感じている葛藤なのではないかと思います。
三戸「エッセイでも書いたのですが、20代後半から30代前半って、『なんで結婚しないの?』とかよく聞かれるじゃないですか。しかも(聞いてくる)皆さん『結婚したい』前提で聞いてくる。でも、そのノリに合わせなくちゃいけないって思って、本当はしたいと思っていないけど、『したいです、相手はいないけど』っておちゃらけている自分に生きづらさを感じたりとか」
———結婚したいかどうかなんて、相手の価値観に合わせても自分にはあまり影響のない小さいことだったのかもしれないですが、一つ自分に嘘をついてノリを合わせちゃうことを覚えちゃうとっていうことですよね。
三戸「そうそう。どんどんチリツモ(塵も積もれば山となる)みたいになっていっちゃう。だから、どこかで無理をしていたのかなと思います。それは誰に頼まれるでもなく、自分で勝手にしちゃっていたことなんですけどね」
————10年間の中で、様々なことがあって今のなつめさんが形成されて。これからの未来に対して考えていることはありますか?
三戸「(今までのように)やりたいことをやりながら生きていきたいという気持ちがあって。願わくば、この業界で自分を表現していきたい。そして、この10年間、好きなことをやらせてもらっていたから、それをさらにアップデートできたらいいなと思います」
———smart男子にこのフォトエッセイの楽しみ方を教えてください。
三戸「私もそうだったけど、smart読者のメインターゲットの20代前半って、やっぱりちょっと背伸びしがち。でも、もっと肩の力を抜いていいんだよって伝えたいです。カッコ悪いって決めつけちゃっているところこそが、カッコよかったりするんだよっていうことに、この本を通して気がついてもらえたら嬉しいです。三戸なつめって30歳になってもちょっとへっぽこだな、でも、自分もそれでいいやって思えてもらえたらいいな」
————と言いつつ、背伸びした期間があったからこそ、今のなつめさんもあったりして。
三戸「そうなんです。私はあの時期があったから、30代になって気がつけたこともいっぱいあるし、20代の子たちが今、精一杯背伸びをしている姿を見ると、いい意味で頑張っているなって微笑ましく思ったりするんです。だって(自分ができる限り)一生懸命、自分を表現しているんだなっていうことは伝わるから。だから、背伸びはしていい。けれど、そこに対して悩みすぎないでほしいっていうことを伝えたいかな。自分が背伸びしていたり、頑張っていることを自覚して楽しめているんだったらそれでいい。でも、もし、いい子を演じることを一人で抱えて辛く思っているなら、この本を手にとってほしい。頑張っている毎日の中で、気を抜けるひとときになってくれたらいいなと思います。あとは、スキンケアとかファッションの話もいっぱい綴っているので、それを男子が読むことで『女子って、毎日、結構頑張ってんだな』って感じてくれたら嬉しいですね」
『なつめろん』
三戸なつめ著¥2,970(宝島社)
青文字系のファッション誌で読者モデルとして活躍した三戸なつめが記念すべきアニバーサリーイヤーに出版するのは、撮り下ろし写真&書き下ろし原稿で構成する特別なフォトエッセイ。本人が切望した撮影地・台湾での旅のパートナーは、映画監督の枝優花。まるで映像作品のようなドラマチックな写真で、30代になった“おとなつめ”のさまざまな魅力が描き出されます。写真の他に、本人の自筆エッセイ&イラストをたっぷり収録。三戸のこれまでの歩みや仕事論、ライフスタイル、人生を楽しく生きるちょっとした工夫などを、ゆる~く語っていきます。その他、三戸なつめの最新コーデや台湾撮影日記(現地での購入品紹介も!)、オススメの漫画や音楽、映画、文房具なども紹介。三戸なつめの「今」をたっぷり詰め込んだボリューム満点の一冊です。
Profile/三戸なつめ(みと・なつめ)
2013年にモデルとして活動を開始し、2015年に中田ヤスタカプロデュースによる「前髪切りすぎた」でアーティストデビュー。2018年より女優とし ても本格的に活動を開始し、2020年にNHK連続テレビ小説『おちょやん』、2022年にドラマ『ユーチューバーに娘はやらん!』や、タクフェス第10弾 の舞台『ぴえろ』などに出演。数多くの映画、ドラマ、舞台など幅広いジャンルで活躍し、2023年で芸能活動10周年を迎える。
撮影=大村聡志
スタイリング=藤原かよ
ヘアメイク=桂川あずさ(CANNA)
インタビュー・文=佐藤玲美
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この記事を書いた人
東京在住のライター・エディター。『smart』『sweet』『steady.』『InRed』など、ウィメンズ、メンズを問わず様々なファッション誌やファッション関連のwebでライター&編集者として活動中。写真集やスタイルブック、料理本、恋愛心理、インテリア関連、メンタル&ヘルスケアなどの本の編集にも携わる。独身。ネコ好き。得意ジャンルはファッション、ビューティー、インテリア、サブカル、音楽、ペット、料理、お酒、カフェ、旅、暮らし、雑貨など。
Instagram:@remisatoh
Website:https://smartmag.jp/
お問い合わせ:smartofficial@takarajimasha.co.jp
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