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連載山谷花純の映画連載「All is True」

「東北出身者として語り継ぐべき作品」宮城県出身の女優・山谷花純、福島第一原発を描いたNetflix『THE DAYS』を語る

執筆者: ライター・エディター/佐藤玲美

「東北出身者として語り継ぐべき作品」宮城県出身の女優・山谷花純、福島第一原発を描いたNetflix『THE DAYS』を語る

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女優・山谷花純さんの映画レビュー連載『All is True』。前回の映画『ファイト・クラブ』に続くレビュー第二弾となった今回、“映画レビュー連載”とタイトルで謳(うた)っているのにいきなりのドラマ作品のレビューとなりました! これは審議です! ですが、東北の宮城県出身の山谷さんにとって、ルールを破ってでも紹介したい作品があったそう。その作品タイトルは、NetFlixで現在好評配信中のオリジナル作品『THE DAYS』。山谷さんの熱量の持った言葉たちが作品の魅力を際立たせていますが、この作品から彼女が受け取った“バトン”とは? ど直球の思いがほとばしる山谷花純本人のレビューをお楽しみください!

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「東北出身者として語り継ぐべき作品」宮城県出身の女優・山谷花純、福島第一原発を描いたNetflix『THE DAYS』を語る

THE DAYS(2023)
Netflixにて世界独占配信中

今作と多くの人が出会うきっかけを
作ることが東北人である私の使命

ドラマ『THE DAYS』は、2023年6月1日よりNetflixにて、全8話一挙世界独占配信がスタートした作品である。「“映画連載”と名乗っているこの場所で、何故ドラマの記事?」と思われる方もいるだろう。しかし、本作を初見したとき、無意識にパソコンに手を伸ばしている自分がいた。作品から、言葉はなくとも熱い想いが詰まったバトンを委(ゆだ)ねられた感覚を抱いたのだ。

今と未来を生きる人々に、他人事ではない現実を背負って欲しい。本作と出会うきっかけを作ることが、一東北人である私の使命だと思う。一人でも多くの人々へ、届くことを願って今、言葉を紡ぐ。

2011年3月11日14時46分。マグニチュード9.0の巨大地震が日本を襲った。死者・行方不明者2万2318名。のちにこう名前をつけられた自然災害。

「東日本大震災」

この地震発生から数分後、福島第一原発を高さ15メートルの大津波が襲った。その津波により冷却機能を失った4基の原子炉が次々に暴走を始めやがてメルトダウン。水素爆発などの連鎖的な危機が勃発し、福島第一原発は東日本壊滅も想定される最悪の事態に突き進んでいった。

この事故は避けようのない天災だったのか?人のおごりが招いた人災だったのか?現場に居た彼らは英雄か、罪人か?この事故の背景を、真実を、どれほどの日本人が語れるだろうか。いや、当事者にしか語れない。

目を背けたくなる人も多いだろう。たった一日であまりにも多くのモノを失ったから。それでも、あの日、誰しもが今日を生き抜くのに必死だったあの日。福島第一原発内で暴走する見えない敵、「放射性物質」と戦い抜いてくれた存在がいた。12年経った今、未来を歩む日本国民が知るべき事実がこの物語に刻まれている。

「素晴らしい役者とスタッフに恵まれた」といわしめる
『THE DAYS』のキャストとスタッフの存在感

『THE DAYS』は、門田隆将の『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』を原案に制作された作品。主人公は、役所広司演じる福島第一原発所長の吉⽥昌郎。実在した人物だ。

役所は、2023年に開催されたカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞するなど、世界に認められる、日本を代表する役者である。事実を元に描かれる今作にとって、伝わるナチュラルさかどうかが最も重要視される。1978年のデビュー以降、数々の賞レースに名を残してきた実績もさることながら、今もなお、役者として更新し続ける魂のこもった演技に関して、彼の右に出るものはいないだろうと思う。現場にいる全ての人々がついていきたくなる背中を見せ続けていることこそが、正に、役所広司の誠実な生き様を表している。彼の出演が決まったことで、他のキャスティングが一気に進んでいったというエピソードも、この物語の本幹に繋がっていると考えるのは、深読みし過ぎだろうか。。

そして今回、企画・脚本・プロデュースを担当したのが増本淳。

2000年にフジテレビに入社後、『白い巨塔』『はだしのゲン』『救命病棟24時シリーズ』『コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命シリーズ』をはじめとする人間の本質や命を題材にした数々の作品をプロデュースしてきた。増本は、東日本大震災が起きた直後の4月に石巻市を実際に訪れ、ボランティア活動に参加したのがこの作品の制作のきっかけになったという。その際に、あまりにも大きな無力感に襲われた。だからこそ、東北で感じた様々な想いと真実を、物語として届ける。それは、日本だけでなく世界にも意義があることなのではないかと。そして、自分にしかできない東北への寄り添い方だと。2019年にフジテレビを退社後、真っ先に今作を実現するために動き出し、配信を実現させた。通常の映画やドラマの枠を超えた表現が求められる本作の演出。彼は、迷わず2人の監督を選出したという。

今回全8話中6話分を担当したメイン監督には、西浦正記。

西浦監督は、これまで『劇場版コードブルー』『リッチマン、プアウーマン』『はだしのゲン』『実写版ちびまる子ちゃん』など、幅広いジャンルで多くの人の記憶に刻まれる作品を残してきた。増本が用意した膨大な資料に全て目を通し、実際に福島第一原発にも足を運んだという。西浦監督は、私自身もこれまで何度も作品を共にしてきた絶大の信頼を寄せる“恩師”とも呼ぶべき存在。これまで、どれほどの役者が彼の「演出」という名の千本ノックを受けてきただろうか。作品に対して、役者に対して、一切の妥協を許さない。監督自らが一番作品を愛し、人の心に繊細なのだ。

そしてもう1人、全8話中2話分を担当したのが中田秀夫監督。

映画好きの方々にとっては、ホラーの巨匠監督という印象を持つ存在だろう。彼の代表作には、「リング シリーズ」「MONSTERZ モンスターズ」「スマホを落としただけなのに」「事故物件 恐い間取り」など。タイトルを見ただけで分かりやすくホラーだ。私が個人的に思うのは、人間の恐怖を描く監督ほど繊細な心を持つ人が多い。密かに「人間ドラマを撮りたい」という意欲を抱いていた中田監督の思いを知っていた増本は、このドラマで彼が温めてきた思いを爆発させてほしいという考えに結びついたのだそう。

中田監督が担当した第4話と5話は、ベント(放射性物質を含む気体の一部を外部に放出させて圧力を下げる緊急措置)の決死隊が建屋内に突入し、息も詰まる作業が続く場面を描く。この時に、視覚的影響だけでなく蚊の羽音のような音を加え、無意識に聴覚からも危機的状態を感じさせる演出を取り入れた。これまで培ってきた経験から導かれた選択だったと思う。

そんな、それぞれが異なりつつも、役と作品と真実に対して同じ熱い想いを抱いたキャストやスタッフたちが集結した作品。配信がスタートされるまでにかかった三年という月日。さまざまな場面で耳にしてきたエピソードトークは、異口同音にこの言葉で締めくくられる。

「素晴らしい役者とスタッフに恵まれた」と。

現在進行形で進む題材をドラマ化する上で、責任を背負う立場の存在が、この言葉を紡ぐ。その事実が、どこか主人公・吉田所長と重なる気がした。

そして、圧倒的なリアルさで表現された作品の熱量はさることながら、『THE DAYS』という現在形のタイトルにも、深い意味があることを知ることになる。

まだ過去形で語るのはふさわしくない。
あの日々は、何なのか?

「あの日々は、何だったのか。過去形で語るのは相応(ふさわ)しくない。あの日々は、何なのか」

このナレーションから物語が始まる。東日本大震災、福島第一原発を題材にしている作品が何故『THE  DAYS』というタイトルを選んだのか。このナレーションを聞いた瞬間、全ての意味が込められたタイトルだったのだと知った。

第一話が再生されはじめた10数分後には、大津波の猛威が描かれ一瞬にして日常が飲み込まれ、ドミノ倒しのように事態が悪化する。全て実体験のない役者が芝居をしているのをわかっていながらも、呼吸するのを忘れて手に汗が滲む。

役所演じる吉田所長がいる司令塔と現場責任者である竹野内豊演じる1,2号機当直長・前島のシーンでは、ここにいる職員の退去ではなく、(どんなに危険でも)ここに残るという犠牲を強いる選択をしなければいけないという、まさに命のやりとりの演技が続く。

第4話で、若手の所員が前島へ中央制御室から退去させてほしいと願い出るシーンがあった。前島は、溢れ落ちそうなほど涙を溜め、所員一人一人と目を合わせながら振り絞るようにこう伝えた。

「俺たちが待避するということは、福島を見放すということになる。俺たちは、ここを出るわけにはいかない。頼む。残ってくれ」

この言葉を受け、小林薫や六平直政らが演じるベテラン職員たちも前島と共に頭を下げた瞬間、どちらの立場の気持ちも痛いほど伝わってきて、感動とは違う涙が溢れた。

暴走する原子炉を止めようと、必死に立ち向かうそんな職員らを嘲笑(あざわら)うかのように、次から次へと新しい問題が発生する。安全な場所で知識も経験も薄いのに決定権だけを持つ上層部と現場の板挟みに合う吉田所長。誰よりも切羽詰まった状態であっても緊迫感を伝染させないように冷静さを装う姿が印象的だった。物語のラストにも繋がる煙草を握りしめるカットの量からも、人知れずに抱え抜いた彼の孤独と恐怖を感じさせる。あらゆるものを破壊し続けた原子炉の暴走が突如止まった理由は未だに解明されていない。

そして今も、福島第一原発内には、人が直接処理できない放射線量の核燃料物が眠っている。

日が暮れて明かりをつけるごく普通な日常の背景には、12年経った今も見えない敵と戦う方法を探している存在がいる。震災を描いたとある本を読んだときに、突き刺さった言葉があった。

「震災当時の話を自ら率先してする人は、本当の当事者ではない」

一理あると思う。震災当時、地元の宮城県にいた私は、内陸部に住んでいたため、津波の被害にも遭(あ)わず家が半壊しただけ。親戚一同全員無事。何も失っていないから、躊躇(ちゅうちょ)なく当時の話ができているのかもしれない。

ならば、もっと遠いボランティアとして参加した人たちはどうだろう?きっと私と同じように自分の目で見て、手で触れたことを第三者へ語るはずだ。その延長戦上にあるのが、我々が届けるエンターテイメントなのかもしれない。

夢のような煌(きら)びやかな世界を映し、笑顔と感動の涙を届け「あー、面白かった。また明日から頑張ろう!」と思わせるだけではない。エンターテイメントは、現実で起きた痛いほどの真実を代弁する役目を背負う場所でもあるべきなのだ。

親族が犠牲になった方々にとって受け入れ難い作品かもしれないが、残された者たちには命の灯火(ともしび)を繋ぐ責任があると信じたい。

今、冷房が付いている部屋の中で、私が書いたこの文章を読めている。私もしかり。冷房の効いた部屋でこの文章を書いている。けれど、その当たり前な日常こそが、何処かの誰かが命と引き換えに繋げてくれているかもしれないと、頭の片隅で考えることが大切なのだ。

未来という今を生きる者たちへ、小さくても考えるきっかけを作ってくれた『THE  DAYS』。

この場所から、私はまた次へとバトンを託したい。そしてそのバトンを、また次の人へと託してくれる読者がいれば嬉しい。思いを風化させない、それこそが大切な意義なのだから。

(敬称略)

「東北出身者として語り継ぐべき作品」宮城県出身の女優・山谷花純、福島第一原発を描いたNetflix『THE DAYS』を語る
THE DAYS NetFlixにて世界独占配信中

【STORY】
2011年3月11日、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の巨大地震とそれを伴う大津波は東日本一帯に甚大な被害をもたらした。『THE DAYS』は3.11の事故発生からあの日、あの場所で何が起こっていたのかを克明に描く全8話のドラマ・シリーズ。ジャーナリスト、門田隆将が福島第一原発事故の関係者を取材した渾身のノンフィクション『死の淵を見た男ー吉田昌郎と福島第一原発』(角川文庫刊)などに基づき、制作陣は徹底的にリアリティを追求。安易な英雄譚や美談に仕立てることを避け、日本政府、電力会社、現場で事故に対峙した人々の3つの視点による重層的なドラマによって驚くべき真実をあぶり出していく。

【キャスト】
役所広司、竹野内豊、小日向文世、小林薫、音尾琢真、光石研、遠藤憲一、石田ゆり子ほか

文=山谷花純
構成=佐藤玲美

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  • NetFlixにて世界独占配信中の『THE DAYS』
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この記事を書いた人

東京在住のライター・エディター。『smart』『sweet』『steady.』『InRed』など、ウィメンズ、メンズを問わず様々なファッション誌やファッション関連のwebでライター&編集者として活動中。写真集やスタイルブック、料理本、恋愛心理、インテリア関連、メンタル&ヘルスケアなどの本の編集にも携わる。独身。ネコ好き。得意ジャンルはファッション、ビューティー、インテリア、サブカル、音楽、ペット、料理、お酒、カフェ、旅、暮らし、雑貨など。

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