「カスな自分を変えたのはお笑い」漫才、コントの“二刀流”芸人・ニューヨークが20代を振り返って今思うこと
執筆者: ライター/山口菜摘
「M – 1 グランプリ」「キングオブコント」では合わせて4回も決勝に進出し、数々のメディアで活躍するお笑いコンビ・ニューヨーク。毎年行う新ネタだけの単独ライブへの思いをはじめ、今までふたりが辿ってきた軌跡を聞いた。
目次
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自分たちの責任でゼロから作り上げる単独ライブ
――全国5都市を回る単独ライブ「虫の息」が7月より開催されます。今回は動員数1万人とコンビ史上で過去最大級となりますね。
屋敷裕政(以下、屋敷)「5500人くらい動員した去年の単独よりも大きくしたいなっていうのはお互いにあって、マネージャーに話したら、『もう1万人いっちゃいましょう』って。でも、いざ発表したら、やっぱり怖なりましたね(笑)」
嶋佐和也(以下、嶋佐)「YouTubeチャンネル登録者数も30万人になったばかりなのに、その30分の1って結構な比率だよね。本当に来てくれるのかなって不安です」
屋敷「新ネタを8本ぐらいやる予定で、 ライブの内容もちょっとスケールアップしたいと考えています。皆さんが喜んでくれるようなことができたらいいな」
嶋佐「漫才もコントもありますし、幕間(まくあい)VTRも撮り下ろしています。VTRでは特別なゲストに出演してもらう予定です」
――テレビをはじめ多忙を極めるおふたり。メディア露出が多いと新ネタから離れてしまうコンビも多い中、毎年新ネタの単独ライブを行う理由は?
屋敷「最近の芸人で完全にネタから離れる人は少ないかもしれないです。でも、いざテレビに出てみて思ったのは、番組の企画も方針もすでに決まってて、その枠でいかに自分らで面白く楽しくやれるかっていうことが多いんです。だから全部自分たちの責任でゼロから作る場がないとアカンなって」
嶋佐「もともとのベースが劇場の人間なので、お客さんを感じられないのは不安ですね。僕らだけの単独ライブを見に来てくれる人がこんだけいるんだなって感じられることはやっぱり嬉しいし、ハリが出るというか、パワーをもらえます」
屋敷「それがないと、自分らの軸がわからなくなるよな」
――コント、漫才両方おもしろいのがニューヨークの魅力。どちらかひとつに絞らなかった理由はあるのでしょうか?
屋敷「最初はキングオブコントもM-1も、どっちも狙ったほうが単純に売れるチャンスが広がるんじゃないか、っていうのがいちばんの理由でしたね。 でも今は、単独ライブでコントと漫才を同じくらい見られる芸人が周り見たらほぼいなかったので、 それは結構強みなんじゃないかなって思っています」
−−しかもちゃんと両方とも結果を残されているのがニューヨークのすごいところです。
屋敷「まあ、ある意味そうっすね。(どちらも)最下位ではあるんですけど」
嶋佐「準優勝と5位(笑)」
屋敷「それが僕らだけなんで(笑)。まぁ、僕ら的にはそんなに変わったことをやってるつもりがなかったんですけど、周り見たら(コントと漫才をやるのが)あんまりおらんかったってだけですかね」
−−漫才とコント、作るときの考え方って別だと思うのですが、大変じゃないですか?
屋敷「そうですね。ネタ作りは、やっぱり漫才のほうが難しいかな。コントだと、最近あったおもしろい出来事から、連想してサクサク進むんですけど、漫才は、例えば 腹立つコンビニ店員と客のような(漫才コント)ネタをやったら、もう1本は喋りだけでやろう、じゃ残り2本はどうしようか、という感じで、4本ぐらいのネタ作ったりするのがすごい大変ですね」
嶋佐「でも僕らのネタ作りは、作家さんと雑談しながら出てきたネタ案を漫才に当てはめたり、コントに当てはめたりするので、どっちもやっていたほうが、行き詰まらない気がします」
芸人になって初めて「できる側」の人間になれた
−−smartの読者層は、10代後半〜20代が多いです。その時期のおふたりはどんな人でしたか?
屋敷「クソでした。将来を考えてないけど、行動力もないし、何もなかった」
−−屋敷さんは大学卒業後、テレビの制作会社に入社してADとして働きますよね。
屋敷「本当はどこかで芸人になってみたいっていう気持ちはあったんですけど、大学卒業してから夢追うなんて、悪人だと。正社員として働くことはマストだと。その中で一番興味があったのがバラエティの制作でした。でも1年弱働いて、我慢して上を目指すほどのモチベーションはないなって軽く絶望したんです。そのときに昔からやりたかったお笑いを、とNSC(お笑い養成所)に入学しました」
嶋佐「大学行って、芸人になったのが20代だったんで、社会的にみたらカス。大学時代は、週末原宿行って、ファッション雑誌で、スナップ撮られたくてうろうろしてました。一回も撮られたことないですけど(笑)。卒業後はNSC入って芸人になったから続行ですよね、そのカス生活を」
−−自分たちの中で“カス”から抜け出した瞬間は覚えていますか?
嶋佐「若手のバトルライブで一番上のランクに行けて、 深夜のネタ番組にも呼ばれるようになって、ギリギリバイトなしでも食えるようになったときですかね」
屋敷「そっからも半分カスみたいな生活が何年か続いたからな。毎日ライブで休みもないけど、昼とか夕方の入りだからめちゃくちゃ飲んだりして、もっと頑張れよっていう生活ではあったんですよ。そういう意味だとM -1決勝に行ってからかな。ただ、今までの人生で自分が割と1軍みたいな状況はほぼなかったんですが、NSCの卒業ライブで上位5組ぐらいに入ったりと芸人になって初めてちょっと“できる側”の人間になれたんです。そのときから自分らのネタが他に負けてないって思ってましたし、そういう意味じゃカスから抜け出した瞬間かもしれないですね。でも生活はカス。バイト先では年下の女の子に仕事できないヤツって蔑(さげす)まれてました(笑)」
賞レースを考えすぎないことで追い風に変わる
−−NSC時代から一気にネクストブレイク枠へ順調なキャリアを進んでいるように思えるおふたりですが、2018年頃はコンビ仲が悪かったそうですね。
屋敷「喧嘩したとか劇的なものじゃなくて、空気が悪かったんですよね。毎日ライブ行って、たまにテレビ呼んでもらって、単独ライブが年に2回と、ずっと同じことを繰り返してる感じと、そこから抜けられないのとで」
嶋佐「賞レースの決勝に行けず諦めてた時期ですね。キングオブコントも2回戦で落ちたり、M -1も準々決勝で落ちたりして、売れないかもな、って。毎日仕事もライブしかなく『ライブしても別に売れないし』ってよくないマインドになってました」
−−そんな暗黒の時代から抜け出すターニングポイントは?
屋敷「YouTubeでラジオを配信し始めたり、単独ライブを頑張ったことが大きいです。賞レースの決勝に行きたかったし、行けると思っていたし、みんなにも行くと思われてたんですけど、そればかり考えているのがすごくしんどくて。賞レースだけを考えるのをやめたら、だんだんコンビ仲もよくなりました」
−−諦めずに夢を掴んだおふたりから若い読者に向けてアドバイスを。
屋敷「そういうの夢破れたやつのほうが絶対いいアドバイスができると思うんですよね。夢掴んだ“みたいな”立場から偉そうに喋るヤツの言うことはあんま聞かんほうがええぞっていうアドバイスを(笑)。成功するにはやっぱり運もあるし、自分が頑張ったから夢掴めたみたいな顔して本書いたりするヤツって、うさんくさいと思うんですよ」
嶋佐「smart世代の子は一番そういうヤツに感化されちゃうから。俺らは何もしてないけど、夢摑みましたからね。でも俺らは天才じゃないし、もうそれだけ。答えは出たよね、君たち」
屋敷「(笑)。そもそも俺らも掴めたわけじゃないしな(笑)。夢破れたからといって、そこで人生終わりじゃないから。秋元康さんの言葉を借りると『人生はマラソン』やから。このレースに負けたからって、人生のレースに負けたわけじゃないって」
嶋佐「芸人辞めてから成功してる人も多いですし。俺はたまたま芸人をやれてるだけで、そういう人のほうがバイタリティがあって尊敬します。あと本当運だね」
屋敷「でもまぁ、さすがに何もせんかったら運良くても無理やからな(笑)。努力した上で、運がなかったら意外とそんなつらい未来にはならん。そんな気がします」
INFORMATION
単独ライブ「虫の息」
コンビ最大規模の動員数で行う新ネタ単独ライブ!
ニューヨークの単独ライブ「虫の息」が7月12日の名古屋市芸術創造センターを皮切りに、7月22日によしもと福岡ダイワファンドラップ劇場、8月5、6日に梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ、8月11日に共済ホール、8月17、18、19、20日に東京芸術劇場 プレイハウスの全国5都市14公演を開催。東京千秋楽公演のみオンライン配信チケットも販売予定。詳しくはFANY(https://yoshimoto.funity.jp/)にて
Profile/ニューヨーク(にゅーよーく)
嶋佐和也(しまさ・かずや)、屋敷裕政(やしき・ひろまさ)によるお笑いコンビ。2019、20年「M-1グランプリ」、2020、21年「キングオブコント」のファイナリスト。ラジオ『ニューヨークのニューラジオ』YouTubeで毎週日曜に配信中。
嶋佐和也Twitter:@Shimasahead
嶋佐和也Instagram:@kazuyashimasanewyork
屋敷裕政Twitter:@NYyashiki
屋敷裕政Instagram:@nyyashiki
撮影=谷脇貢史
インタビュー・文=山口菜摘
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この記事を書いた人
CM制作会社、出版社で女性誌、男性誌の編集を経てライターに。ヨガとキックボクシング、ダンスなどに励むべく、スポーツジムに週5で通うものの食欲に負けてしまう万年ダイエッター。美容やお笑い、音楽、漫画、韓国ドラマなどが好き。
Instagram:@yam_yam_guchi
Website:https://smartmag.jp/
お問い合わせ:smartofficial@takarajimasha.co.jp
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