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連載山谷花純の映画連載「All is True」

【山谷花純×吉田鋼太郎 対談】“娘”が問う“父ちゃん”の今後の夢。そして敬愛するアル・パチーノについて

【山谷花純×吉田鋼太郎 対談】“娘”が問う“父ちゃん”の今後の夢。そして敬愛するアル・パチーノについて

コロナ禍を経た
舞台『ヘンリー八世』で
花純が見せた
目覚ましい成長(吉田鋼太郎)

吉田 『ヘンリー八世』ではワンシーンだけ花純中心のシーンがあったんだよね。その部分を形にするのはなかなか時間がかかったんだけど、コロナ禍での開催だったので一部公演が中止になったのですが、主演の阿部寛さんが再演したいと言ってくれたことで日程を改めて再演することになったんです。再演に向けての稽古は数日間くらいしかなかったんですけど、その稽古の初日の花純の演技がめっちゃ良かった。「コロナ禍で何を勉強してきたの?」っていうくらい素晴らしかったんです。実はね、「また花純のところで苦労するのかな」っていう気持ちはあったんです。そしたら全く必要なかったんだよね。あれは何が起きていたの?

山谷 再演するって聞いてから、めちゃくちゃ台本を読み込んでいました。その再演の前に『終わりよければすべてよし』というシェイクスピア作品の舞台にも出演したのですが、そのタイトル通り、すべてよしと思えない部分がものすごく多かったんです。悔しいなという感情や見返したいなって思う人がいたりしたので、台本を読み込んで滑舌のトレーニングをしたりしていたんです。

吉田 すごいじゃん。僕はずっと言ってたんです。毎日発声練習をしたほうがいいよって。

山谷 再演のお稽古の初日に見せるあのシーンが私にとって1回目の本番のような感覚でした。鋼太郎さんも今日までどう頑張ってきたのかなと思いながら見てくださっているのもわかっていたので。

吉田 2回目のオーディションみたいなもんだね。

山谷 そうそう。これで何も成長がなかったら、何も鋼太郎さんの恩に返せないという気持ちもあって。

吉田 そこで変わってなかったら、厳しいよね。

山谷 それも頭にありました。だからこそ緊張したけど、あの稽古が一番楽しかった。

吉田 それで見てた俺は惚れ惚れしちゃったんで。他の出演者も見ていて、俺はめっちゃいいじゃんって言ったんだけど、俺は(花純に対して)ひいき目があるから、俺だけの独りよがりだったらいやだなと思って、みんなに聞いたら、みんなも「よかった」って言ってたから。

山谷 鋼太郎さんに「よかったよね」って聞かれて、ダメって言える人はいないです(笑)。

吉田 そんなことないよ。みんなも「すごいね、花純」っていう空気になってた。

山谷 とにかく、必死にやっていただけですね。これまで教えていただいた体の向きだったり、ひざまずき方だったりを全力でやっただけなんですけど、そう言ってもらえて嬉しかった。

花純は今後、舞台で主役ができる
女優の一人(吉田鋼太郎)

吉田 その前に『終わりよければすべてよし』という舞台があって、そこでの花純の役はかなりの大役だったんです。主演は石原さとみさんなんだけど、後半の主役のような存在の女優が花純で。これが、花純にとってはいい経験になったんじゃないかと思う。とにかく喋り倒さなければいけないんです。しかもそのシーンで舞台上にいる全員に自分の主張をしていかなければならない。その全員が彼女の敵のような存在なんだけど、そこでの花純の奮闘ぶりが僕はすごく印象的だった。

山谷 『終わりよければすべてよし』のときの鋼太郎さんはすごく怖かった(笑)。

吉田 そんなに怖がるようなことは言ってないです(笑)。

山谷 それがありがたかったんです。舞台での見せ方とか、ひとつひとつ教えていただきました。

吉田 稽古も佳境に入ってくると、色々説明してもできないとなると、こっちも言葉少なになるわけですよ。「だから花純がこっちにバーっと来てここでしゃべるんだよ」みたいな言葉になっていって、説明をしなくなる。それに対して花純が戸惑いながらも「はい、わかりました」ってもう一度やるんだよね。そこで止まらずもう一度やれるという姿勢がすごく大切で、それができる人なんだよね。だからこそ、そのファイトはなくさないで欲しいと思う。

山谷 稽古が(私のせいで)止まると、周りの先輩方の視線を感じるんですけど、皆さん、温かい目で見守ってくださっているんです。それがありがたいからこそ、演技で応えたいと思うし、基本負けず嫌いなんですよね。

吉田 花純は舞台で主役をやってほしいと思う女優さんの一人。『終わりよければ〜』の花純のシーンは後半の主役だったわけですよ。そうなると(役として)滑舌や所作も大切なんだけど、「私が主役なんだ」と、「私が舞台全てを支配するんだ」という“我”を持てればもっといいんじゃないかと思う。(我を持つことで)地道なセリフや発声練習ももっと実を結ぶんじゃないかと。それが2回目の舞台の感想でしたね。花純は、こう見えて慎ましい性格。もっと、周りを振り回して「大変だな、あの人」と思われるくらいの存在感を出してもいい。

山谷 鋼太郎さん自身も舞台を始めた頃に思っていたことなんですか?

吉田 男優はね、そういうことをしたらダメなんだよ。女優さんだからこそなんだよね。女優さんが自分の我を出して光り輝くようには、男優にはできないこと。

山谷 鋼太郎さんは、(故・)蜷川(幸雄さんの)作品に多数出演されていましたが、そのときの蜷川さんへのアプローチとしてはどんなことを大切にされていたんですか?

吉田 蜷川さんを始め、演出をする人たちは、本に書かれていることをきちんと読むことができる人たちなんだよね。だから俳優も本を理解していないと、「なんで、そんな芝居になるの? そんなこと本に書いてないでしょ」って演出家に指摘されてしまうわけだよね。そうなるとぐうの音も出なくなってしまうので、まず本を正しく理解することをやるよね。その上でその成果を演技で見せていくということだね。

山谷 稽古初日に鋼太郎さんの台本を見ると、表紙と裏表紙がなくなっているボロボロの状態になっていて、まだキレイな自分の台本が恥ずかしくなるんです。私たちも読み込んで入るんだけれど、それ以上に鋼太郎さんは台本と向き合っていらっしゃるのだろうなって。

吉田 (花純さんが出演した舞台に関しては演出家として)責任者だから、自分が間違っていたら大変なことになるという責任感もあるよね。

山谷 普段の会話ではこういう話はしたことがないけれど、そういう鋼太郎さんの背中を見つめ続けた3年間だったなと思います。

吉田鋼太郎が敬愛する
俳優アル・パチーノの魅力とは?

山谷 今回は、映画の連載ということで、映画のお話を。前に鋼太郎さんがアル・パチーノが好きとおっしゃっていたので、今回は対談に備えて1週間みっちりアル・パチーノ作品を観てきました。7〜8本しか観られなかったのですが、鋼太郎さんが一番好きな作品は?

吉田 1作品は選べないなぁ。ただ、『スカーフェイス』『カリートの道』は、すごい。アル・パチーノの独壇場。あの人はああいう作品が得意で好きで、その芝居を観せられているという気持ちになるよね。

山谷 私は『ディアボロス』を観たときにもう鋼太郎さんにしか見えなかった。

吉田 あれは俺もめっちゃ真似してる(笑)。

山谷 キアヌ・リーブスと対峙するエンディングの炎の燃え盛るシーンは、鋼太郎さんにしか見えなくて。時々、(舞台の)途中休憩のときに「今日はアル・パチーノ風に演じてみました」っておっしゃることがあったんですが、これをやっていたんだと。

吉田 よくぞ気づいてくれました! 

山谷 アル・パチーノ作品では『ゴッドファーザー』が一番有名かと思うのですが、その作品が1番ではないんですね。

吉田 『ゴッドファーザー』はアル・パチーノの出世作で彼自身が若くてヒリヒリした緊張感はすごくいいんだけど、まだ本来のアル・パチーノにはなっていない感じがする。

山谷 何がきっかけでアル・パチーノが好きになったんですか?

吉田 僕らの世代の1960年代は、ヒーローが活躍するジョン・ウェインの西部劇に代表される勧善懲悪モノや、女優を主人公に豪華絢爛な世界を描く『風と共に去りぬ』などに象徴される“ハリウッド映画”が主流だったんだよね。その流れを受けてもっと身近でリアルな題材を映画にしようとなったのが、“アメリカン・ニュー・シネマ”(アメリカのベトナム戦争に邁進する政治に対して反体制的な心情を綴った映画作品群)が一気に広まり、『イージー・ライダー』や『俺たちに明日はない』に代表される反社会的とも言える若い主人公を描く新しいアメリカ映画が生まれたんだよ。その頃、俺は小学校6年生くらいで、ちょうど映画に興味を持つ年頃になっていて。

山谷 映画に興味を持つのが割と早い時期だったんですね。

吉田 中1の頃から新宿や渋谷の映画館に通っていたね。その頃に人気があったのが、アル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロ、ジャック・ニコルソンで、その頃からデニーロよりもアル・パチーノが好きで。やっぱりね、色気があるんだよね。今どきの言葉でいうと“あざとい”(笑)。観ていてワクワクしちゃうんだよね。

山谷 「俺を観て♡」というアピールを感じます(笑)。でもそれがいやらしく見えないのがいいんですよね。

吉田 『セント・オブ・ウーマン』という作品でアル・パチーノは盲目の元軍人を演じているんだけど、完璧なタンゴを踊るんだよ。あれは衝撃だったよね。

山谷 私はアル・パチーノ作品で一番と言ってもいいくらい好きな作品です。本当に目が見えていないような全く目を動かさない演技も圧巻でした。

吉田 ただね、いわゆる映画評論家たちが怒る演技でもあるのよ。盲目の設定で、カフェのシーンでコーヒーカップの取っ手を探している動作があるんだよね。それで取っ手を見つけるまではいいのよ。見つけたのに、まだずっとコーヒーカップを触ってるのがね、気になってしまうんだよね。

山谷 私は気が付かなかった。もう一度、ちゃんと観たくなってきました。

吉田 観客の視線を引きつけるためにわざとやっているんじゃないかっていうね。なんて頭がいいんだと思ってぶっ倒れた。

山谷 それは鋼太郎さんの演技に生かされているんですか?

吉田 『海をゆく者』という男5人の芝居で、自業自得で目も見えなくなった男の役を演じたときに取り入れてみたんだけど、(映画と違って広い舞台の上だから)誰も観てなかった(笑)。

山谷 改めてアル・パチーノについてお話が聞けてよかったです。

吉田 こうやって話すと解釈の違いもあったりして、芝居も映画も奥深いよね。

smart世代に観て欲しい!
アル・パチーノ作品を厳選

山谷 余談なのですが、うちの父が若い頃のアル・パチーノにそっくりなんです。純粋な日本人なのですが、ちょっとハーフっぽい見た目なんです。さっき、アル・パチーノの1位の作品は決められないとおっしゃいましたが、smart読者にオススメの作品を挙げたいです。

吉田 初期の作品としては『スケアクロウ』。アル・パチーノがものすごく堅実に地味な芝居をしているけれど、この若さでこの上手さはなんだと思う作品。

山谷 何もしていないけれど何かがある作品。

吉田 中期はやっぱり『スカーフェイス』が一押し。

山谷 ラストのシーンもいいですよね。最近のアル・パチーノ作品を観るのが間に合わなかったのですが、オススメはありますか?

吉田 特にないかな。アル・パチーノだけでなく全般に言えることなんだけど、西洋人って、歳を重ねて“枯れる”という美学がなくて。いい意味で若いままならいいんだけど、まだ若さに固執している部分が見えてしまうんだよね。それが少し残念でもあって。

山谷 そしたら、3作目は『セント・オブ・ウーマン』がいいかも。smart世代の若者に観て欲しい。人間関係や愛を感じられる作品だと思います。

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