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【WBC】「あのときが一番ギラついていた」第2回大会の世界一戦士・片岡保幸が明かす激闘の舞台裏

執筆者: smart編集部/熊谷洋平

2009年WBC第2回の世界一メンバーでもあった元西武、巨人の片岡保幸氏

アメリカの球場の土が「僕にとってはラッキー」だった

――(笑)。足が持ち味の選手にとって、球場が天然芝か人工芝かは影響があると思うんですけど、片岡さん的にはアメリカラウンドの天然芝の球場は追い風になっていましたか?第2回WBCのアメリカラウンドはサンディエゴのペトコ・パークとロサンゼルスのドジャー・スタジアムでの試合でした。

片岡 天然芝の球場も走路は土なわけですけど、そこは日本の土とやっぱり違って、ちょっとねっとりした感じの粘土っぽい感じで。スパイクの刃が土にすごくしっかり入ってくれて、つかんでくれるというか。人工芝に近いような感じで走れたので、僕にとってはラッキーでした。人工芝より滑る感じもなかったので、感覚的には走りやすかったです。

――その感覚はどの選手にも共通していたのでしょうか?

片岡 うーん、どうですかね?とはいえやっぱり土の硬さはあるので、嫌だっていう人もいるだろうし。でも走る人間は地面の反発をもらいたいから、やっぱり硬いほうがいいんです。土がちょっと柔らかいところだと滑ってしまう感覚があるので、その不安があるんですよね。日本だと、天然芝の球場も当時の(阪神)甲子園(球場)とか広島市民球場とかは、土がちょっと滑っちゃうので走りづらかったりもしました。ただ土が硬いと、逆に守備でゴロを捕るのが難しくなるんです。球足も速くなりますしね。

――土に関して、内野手としての守備面と走塁面を両立させるのは難しいということですね。 

片岡 そうですね。土はある程度硬いほうがいいんですけど、走路だけ硬くされても困るし、土が硬すぎると球足が早くなってイレギュラーすると怖いので、そのバランスは本当に難しいんですけど。ただアメリカのように綺麗に手入れされた球場でプレーできるのは、選手にとってもすごくいいことだと思います。

――今大会のアメリカラウンドはフロリダ・マーリンズの本拠地であるローンデポ・パークで行われます。その球場ではプレーされたことはありますか?

片岡 いや、ないですね。僕たちが試合をしたペトコ・パークもドジャー・スタジアムも西海岸の球場でしたけど、今回は東海岸の球場になるわけですよね。初めてのことだから、気候とかこれまでとは違う部分も出てくる。ドジャー・スタジアムとかは結構寒かったので、日本との気候の変化に対応するという意味で、ちょっと調整は難しくなるんじゃないかなとは思いますね。

――“走りやすかった”球場ということもあり、大会では4盗塁を記録されました。 

片岡 すべてアメリカラウンドで記録しました。日本ラウンドは初戦の中国戦に代走で1回出ただけで、走塁ミスをしてしまったんです。初戦の中国戦に二塁ランナーの代走で出て、普通のショートゴロに飛び出して三塁でアウトになってしまいました。初戦ということもあってすごくフワフワしていて。4対0と快勝したけど、終盤に出てそういうミスから始まったWBCだったんです。でもそれを引きずるということはなかったので、逆に最初につまずいちゃってよかったのかもしれません。最初にミスをすると、最後までダラダラといっちゃう選手もいると思うんですけど、そのへんはちょっと僕のよくわからない性格のおかげで(笑)。

――片岡さんは常々ご自身のことを「そもそも自分はメンタルが強くない」と評していらっしゃいましたが。 

片岡 メンタルは強くないですね。だから、とことん練習しないと落ち着かない。 

――でも、そうおっしゃいますけど、盗塁は野球の中でも最も勇気がいるプレーの一つだと感じます。それこそ代走だと極限状態でゲームに入るケースも多いと思います。

片岡 勇気がないと盗塁の一歩目は出ないし、「アウトになったらどうしよう」というのは誰もが思うことなので。でもその“誰もやらないこと”をやらないと、(プロの世界で)生きていけないと思ったから、足はあまり速くはなかったけど、スライディングとか走塁の技術を高める努力はしていました。一応僕はホームランバッターとしてプロに入ったんです。ただ当時の西武には(アレックス・)カブレラがいて、和田(一浩)さんがいて、ナカジがいて、おかわり(中村剛也)がいて、ホームランバッターとしてやっていくのは、まぁ無理なわけです。それでプロに入ってキャンプの最初の紅白戦かな?当時の監督の伊東勤さんが「今日はサインを出さないから、お前ら全員が考えてやれ」とおっしゃって。僕が8番か9番で試合に出て、ランナー一塁で(一、二塁間に)おっつけたんですよ。おっつけて、たまたま打球が一、二塁間を抜けて、ランナー一、三塁とチャンスが広がったんです。それが伊東さん的にすごく良かったらしくて、そのバッティングで「やっぱりあいつは野球をわかっているな」と思われちゃって。伊東さんはキャッチャー出身ですし、そういう「イヤなバッティングをするな」という部分を評価してくれて「こっち(片岡)を使おうかな」って思ったらしいんですが、それを聞いたのは伊東さんが侍ジャパンのヘッドコーチだった2009年のWBCのときです。「当時はお前ならなんとかしてくれると思った」と言ってくれましたね。

2009年WBC第2回の世界一メンバーでもあった元西武、巨人の片岡保幸氏

一番打者は「一番いい打者だから」大谷翔平

――WBCはファン目線で見ても、他のあらゆる試合とまったく雰囲気も違えば、対戦相手も当然違うわけですけども、決定的な違いというのはどこにあると片岡さんはお考えですか?

片岡 オリンピックとかもそうですけど、国を背負って戦う国際大会なので、他の国の選手たちがどういう思いで来ているのか。たとえばアメリカは野球が国技だから、負けられない理由がありますよね。何かしらそういう、それぞれの国の負けられない理由があるというね。我々は、日本の野球を世界に示さなきゃいけないし、2回優勝してるわけですから。やっぱり勝たなきゃいけないし、日本の野球はすごいんだというところを見せてほしいと思いますね。各国が国を背負ってやる野球なので、やっぱりいつもの野球とは全然違いますよね。

――日本もオリンピックでは東京五輪で金メダルをとったり、プレミア12で優勝したりもしていますけど、“WBCの借りはWBCでしか返せない”みたいなところもありますよね。

片岡 2009年の第2回大会以来、10数年優勝していないわけですから。今回の大会で日本の野球を示さないと、これからメジャーに行く人たちも「日本は大丈夫か?日本人は大丈夫か?」と周りに思われるかもしれないし、未来の日本人メジャーリーガーたちのためにも、勝っておかないといけない大会ですよね。

――客観的に見て、今回のメンバーはいかがですか?

片岡 最強じゃないですか?史上最強と言ってもいいと思います。メジャー組も5人いるし、特に投手陣は史上最強。あとは野手陣ですよね。軸となる選手が誰なのか。キャッチャーは誰なのか。そこも結構議論がありますよね。野手陣もみんなレベルが高いところにいるけど、野手陣の軸も実戦をやりながら見えてくると思います。それに今回はチームにキャプテンをつけていないわけです。そこはやりながら誰かが中心になっていくというね。

――投手陣はダルビッシュ投手を中心にまとまっている印象です。

片岡 投手陣は間違いなくダルビッシュですよね。2009年も野手はイチローさんがいて、ピッチャーで松坂さんがいて、キャッチャーに城島さんがいて、という風に各ポジションで素晴らしいリーダーシップを発揮する選手がいましたから。今回は野手の最年長が(捕手の)32歳の中村悠平でしょ?とにかく若い。そこはちょっと不安かなとは思いますけど、でも中村もセ・リーグを連覇してるチーム(東京ヤクルトスワローズ)のキャッチャー、正捕手ですからね。経験と知識はあると思うので期待しています。

――ここで片岡さんの予想スタメンをお伺いしてもいいですか?“片岡ジャパン”ならどういうオーダーで戦いますか?

片岡 一番DH大谷、二番レフト吉田、三番ライト鈴木、四番サード村上、五番ファースト山川、六番センターヌートバー。ヌートバーのことはあまりよく知らないんだけど、たぶん使うでしょうね。七番セカンド牧。八番キャッチャー甲斐、九番ショート源田。よし、これで固まった!この予想が当たるかどうかは知らないけど(笑)。

――一番大谷選手、セカンド牧選手、キャッチャー甲斐選手あたりに“片岡ジャパン”らしさを感じます。「一番大谷」の理由は?

片岡 理由はシンプルで、一番いいバッターだからです。ピッチャーは立ち上がりが不安なので、一番いいバッターを置かれるとイヤだと思うし、打席の数が多く回ってくるところに大谷がいたほうが相手にはプレッシャーになるかなと。大谷もね、メジャーで5年やっているので、それなりの経験もあるし、打線は大谷を軸としていいかなと思います。 

――先程2009年は決勝でチームの雰囲気が最高潮になったっていう話がありましたけど、始まってみないと分からない部分も多いですよね。打線も開幕オーダーのまま戦い続けるかも分かりません。

片岡 僕たちのときも、イチローさんが一時期打てなくなったし、何が起きるかは分かりません。ただやっぱり上位打線は固定したほうが軸になる選手も明確になりますし、2009年もイチローさんを一番で固定したように、特に一番打者は変えないほうがいい。だから今大会に関しては“一番大谷”を変えないのがいいと思います。

――日本の野球はアメリカとかドミニカとかと比べたときに、“スモールベースボール”とよく言われます。今回だったら周東(佑京)選手とか、2009年の片岡さんしかり、足を使える選手が結構注目されますけど、足を絡めるという戦い方はWBCにおいて有効だと考えますか?

片岡 大事だと思います。足を使える選手というよりも、国際大会は控えの選手が非常に大事になってくる。周東に関してもどこでも守れるし、周東を試合のどこのタイミングで使うかですよね。確実に走れるから、どこで周東というカードを切るか。今回のメンバーを見ても、走れる選手ってそんなに多くないですよね。山田(哲人)も走れるといっても年々盗塁の数は減っていますから。鈴木誠也と大谷もまぁ走れるし、村上も(足が)遅くはないので走る意欲はあるし。ただ圧倒的な走力を持つ選手は周東しかいないから、周東の役割は結構大事だと思います。

2009年WBC第2回の世界一メンバーでもあった元西武、巨人の片岡保幸氏

走塁は試合でしか試せない。試合でしかうまくならない

――片岡さんから周東選手への助言はありますか?

片岡 走塁は試合でしか試せないし、走塁は試合でしかうまくならないので。そのことを理解してくれる監督、コーチがいるかどうか。ある程度失敗を許容しないと、上達しないのが走塁です。西武はそういう感じだったので。ミスしても「いけいけ!」と声をかけてくれるし、当時の監督だった渡辺(久信)さんからも走塁ミスでアウトになった後に「お前が作ってくれたチャンスだから」と言われたことがあります。渡辺さんは走塁ミスを怒らなかったですね。アウトになっても「どんどんいけ!明日やり返せ!」とよく声をかけてもらいました。

――WBCも日本ラウンドはそういう失敗をある程度許容して、アメリカラウンドを本番として捉えるというのもアリかもしれないですね。

片岡 WBCに選ばれた選手は本当に自分のプレーをやればいいだけなので。日の丸を背負っているからこうしなきゃいけないとかじゃなくて、これまでのみんなのプレーを見て選ばれているわけです。自分のプレーができれば問題ない。走れると思ったら走ればいいし、こっちに打球が来そうだなっていう感覚が守備のときにあれば、ポジショニングだって変えたらいい。そういうのを含めて、選手には自分のプレーを存分に表現してくれればと思います。それがチームにとってプラスだと思うし、そういう風に戦ってほしいですね。首脳陣もファンも、それ以上を求めてない。それ以上背負わなくてもいいと思うんです。ただ日本代表に選ばれた自覚だけは持って戦ってほしいです。

――栗山采配も注目したいところです。

片岡 栗山さんはいまどきの感じで下の名前で選手を呼んでね。栗山さんは本当に勉強熱心ですからね。選手とのコミュニケーションもすべて計算した上でやっていらっしゃる方なので、あの人はすごいです。

――ちなみに実績と勢い、チーム編成としてどちらを優先すべきだと思いますか?

片岡 さっきも言ったように、軸は動かさない。もちろん勢いも大事だし、2009年でいう内川みたいな選手がぱっと出てくるかもしれない。それが牧じゃなくて山田なのかもしれないし、勢いは当然利用したほうがいいです。でも、大谷や村上という選手には代わりがいないので。そういう選手は調子がどうであろうがブラさずに試合に出続けることになると思うので、やってほしいですよね。あと今回は10回からタイブレークがあるけど、そこで仮に村上が先頭打者だったときに「バントをさせるのか」というのも重要だと思います。栗山さんはおそらくもう本人に言っているはず。「お前にはバントはさせない。でも他の選手にはバントあるよ」みたいなことを言っているかもしれませんし、村上や大谷にはバントをさせないと思います。そういうのをはっきりさせておけば、戦う上で迷うこともありません。

――今回の予想スタメンを見ると、ファン心理としてもバントをさせたくないメンバーが揃っていますよね。

片岡 本当にそうですよね。大半の選手がチームではバントをやってない選手だと思うんです。だから今、代表にいるうちにちょっとでもやっておけば今後の野球人生においてもプラスになる。でもあくまで今大会は守備のチームで、ピッチャーが軸になるチームです。投手陣は最強ですから。初戦の中国戦は大谷がいって、韓国戦はダルビッシュがいって、その後のチェコ戦やオーストラリア戦も(山本)由伸がいって佐々木朗希がいって。準決勝と決勝は大谷とダルビッシュが、先発だけじゃなく後ろ(リリーフ)で投げる形をとれれば連投もOKなので。準決勝か決勝でアメリカを相手に大谷とダルビッシュのリレーで抑えて勝てたりしたら最高ですよね。

――ダルビッシュ投手とは片岡さんも09年に一緒にやられていますけど、当時ダルビッシュ投手は22歳。片岡さんは今の姿を想像できましたか?

片岡 いや、できなかったです。当時も間違いなくすごかったんですけど、メジャーでサイ・ヤング賞を争う投手になるところまでいくとは想像できませんでした。独特な考え方を持っている、自分を持っている人間だからこそ、あそこまでいけたんでしょうけどね。手術もしているし、チームもいくつか変わっていますから。パドレスとも大型契約を結んで、それは実力だけではなく彼の人間性であったり取り組みであったりも評価されてのことだと思うので、そこはさすがですよね。あいつ、右と左の腹筋をバラバラに動かせるんですよ。右だけじゃなく左でも投げられるしね。やっぱり考え方ですよね。考え方が本当に大人ですよ。

――当時、野手と投手だとコミュニケーションをとる機会は多かったんですか?

片岡 僕も人見知りだし、でも(同じ西武だった)涌井(秀章)がダルと同い年でいたし、コミュニケーションはとっていましたよ。その当時からTwitterも流行っていて、僕もTwitterをこっそりやっていたんですけど、ダルビッシュが「片岡さん、Twitterやってますよ」って僕のアカウントを拡散しやがって(笑)。それで一気に5万フォロワーぐらい増えちゃって、「やばいやばいやばい」となって止めました(笑)。

――以前のインタビューで拝見しましたけど、片岡さんは目立ちたがり屋だけどあまり被り物のパフォーマンスとかも好きじゃなかったんですよね?

片岡 目立ちたがり屋だけど、恥ずかしがり屋。あまり目立ちたくなくて裏方が好き。本当はつまらない人間なんだけど、そういうことを求められちゃうから責任感が出てきて「やんなきゃ!」みたいな。それで疲れちゃう。チャラチャラしてるように見られますけど、(マネージャーに向かって)意外と真面目だよな?

マネージャー そうなんですよ。真面目なんです。本当に見かけによらず意外と真面目。

――ズバリ、今大会は優勝できますか?

片岡 できるでしょう!間違いなく。僕らのときもWBCで世界一になった後は西武球場にも人が増えたし、2009年の盛り上がりは去年のワールドカップよりもすごかったという話も、当時日本で応援してくれていた知人から聞いていました。去年はサッカーのワールドカップもあったし、その熱っていうのはまだ続いていますから。そのサッカーの熱に便乗してじゃないけど、やっぱり野球でも頂点を取ったほうが今後のね、スポーツ界に影響すると思うので。大丈夫です、勝ちます!

(了)

※取材は鈴木誠也選手が代表辞退をする前の2023年2月20日に行いました。

Profile/片岡保幸(かたおか・やすゆき)
1983年02月17日生まれ、千葉県出身。宇都宮学園高から東京ガスを経て、2004年ドラフト3巡目で西武ライオンズに入団。ルーキーイヤーからスタメンに名を連ね、俊足を活かしたプレースタイルで盗塁王を4回獲得。08年にはオールスター出場、最多安打に輝き、リードオフマンとして日本一にも大きく貢献した。09年、第2回WBCに出場。14年、新天地ジャイアンツへFA移籍し、15年には通算300盗塁を達成した。その後は度重なる怪我に悩まされながらも、希望を捨てず必死のリハビリを続けたが、17年に引退を発表した。18年から21年までジャイアンツ2軍内野守備走塁コーチを務めた。

ジャケット¥62,700、シャツ¥23,100、スラックス¥37,400/以上すべてts(s)(HOMEDICT ☎03-5774-1680)

写真=大村聡志
スタイリング=NAO
インタビュー&文=熊谷洋平
撮影協力=CAFEDICT

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この記事を書いた人

スポーツ新聞社、編集プロダクションを経て宝島社に入社。2014年よりsmart編集部に所属し、2022年9月よりsmart Webの専任担当。タレント特集を中心に、ファッション、スニーカー、腕時計、美容などを幅広く担当。3度のメシより野球好きで、幼稚園年長の頃からの熱狂的な東京ヤクルトスワローズファン。最近はサウナにハマっており、smartサウナ部の広報担当も兼務。

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