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2022年11月25日(金)発売
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ヤクルト村上宗隆を“令和の最強打者”に導いた“鬼軍曹”宮本慎也との日々

 プロ野球史上最年少となる三冠王、プロ野球記録となる5打席連続本塁打、そして日本人選手シーズン最多となる56本塁打など、2022年の東京ヤクルトスワローズ・村上宗隆は記録ずくめだった。その村上がブレークしたのが、プロ2年目の2019年。当時ヘッドコーチだった宮本慎也氏は若き大砲の未来に、国民的スター・松井秀喜氏の存在を思い描いた。今年の全56本塁打の完全データを掲載し、“世界の王”こと王貞治、元「侍ジャパン」監督の稲葉篤紀などの特別インタビューをまとめた書籍「証言 村上宗隆  若き天才スラッガーの真実」(宝島社)より、宮本慎也氏の“証言”を紹介する――。

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「証言 村上宗隆  若き天才スラッガーの真実」(宝島社)¥1,430

※本記事は、宮本慎也+稲葉篤紀+松中信彦+長谷川晶一ほか「証言 村上宗隆  若き天才スラッガーの真実」(宝島社)の一部を再編集したものです。

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2018年9月22日、巨人戦で空振り三振に倒れベンチに戻る村上を見つめる宮本ヘッドコーチ(左)と厳しい表情の小川監督(右)。写真=日刊スポーツ新聞社

先輩が運転する車で寝る“大物感”

 2019年11月のファン感謝デー。初めて一軍定着のシーズンを終えた村上宗隆が、先輩たちから総ツッコミを受けていた。いわく、先輩が運転する車で寝る。いわく、自主トレ先の米国ロサンゼルスで靴を買いに行き、18歳上の青木宣親を待たせる。笑いとともに〝大物感〟漂うエピソードが披露された。

 明るくアットホームな東京ヤクルトスワローズ。2018年から2年間、ヘッドコーチを務めていた宮本慎也氏は、“大物感”を真の大物にしようと心を砕いていた。

「野村克也さんは『エースと4番はチームの鑑(かがみ)』とおっしゃっていました。村上は入ってきた時点で、将来のヤクルトの4番候補であり、さらにもう一つ、『日本の』という冠(かんむり)がつくレベルを念頭に置いたんです」

 2017年ドラフト1位の村上に、球団は日米通算507本塁打の松井秀喜氏(現・ヤンキースGM付特別アドバイザー)のような活躍を願って、背番号55を渡した。

「目指すべき選手像としても、松井秀喜をイメージしました。松井はジャイアンツの4番だけあって、身なり、ゲーム中の言動はさすが。村上にもそうなってほしいと」

 2018年9月16日の広島戦。プロ1年目の村上がプロ初打席で本塁打を放った。一塁ベースを回りながら右人さし指で天を指す。このパフォーマンスで宮本氏と当時の石井琢朗打撃コーチから注意を受けたが、その理由は、4失点につながった1回のエラーの意味にあった。

「わかるんですよ、初打席で本塁打。素晴らしいことです。本人もうれしいでしょう。でも、あそこは我慢するところ。エラーをして、それで点を取られた投手がいる。そこは頭に置かなければいけない」

 高校野球ではなくプロ野球。自分の失策はチームの士気だけでなく、他選手の年俸に影響し、ひいては野球人生にまで及ぶ場合もある。その相手への配慮はするもの、という意味での叱責だったのだ。

右膝に激痛も根性でやりきる

 プロ2年目の2019年。宮本氏は村上のド根性を感じたことがある。

 オープン戦初戦となる2月23日の阪神戦(沖縄・浦添市)に6番・三塁で先発出場。相手打者・北條史也の三ゴロを右膝に当ててしまった。

 「相当痛かったと思います。『大丈夫か』と聞いたら、すぐに『大丈夫です』。別メニューでもおかしくなかったけれど、ほぼ練習をやりきっていた。ここで絶対にレギュラーを獲るんだという執念を感じました。なかなかやるやん、と」

 2019年の開幕戦スタメン。高卒2年目の野手として球団では55年ぶり6人目となる村上が名を連ねていた。打てない時期も、失策することもあるだろう。それでも、当時の小川淳司監督は我慢の起用を続ける決断を下した。

 宮本氏と村上は開幕前、約束を交わしている。

 「本来はまだ体をつくる時期。一軍で出続けることで結果は日々いろいろ出るけれど、これから先10~20年やっていけるように、与えられたウエートトレーニング、ランニングのメニューはどれだけ疲れていても全部こなすこと」

 チームは5月に入ると急降下し、当時リーグワーストタイ記録の16連敗を喫した。故障者続きのチーム事情も相まって、同12日の巨人戦(東京ドーム)で初めて4番起用。10代の先発4番は1987年清原和博(西武)以来32年ぶりのことだった。

 「打撃の技術は、琢朗の指導が大きいと思います。つきっきりでよく教えていました。早出練習では琢朗、宮出(隆自)、僕でずっと(打撃投手として)投げていましたね」 

「なぜ僕にだけ言うんですか」

 シーズンが進むにつれ、宮本氏は約束したメニューを村上がこなしていないことに気がついていた。

 「いつ自分から行動するかな、と待っていました。でも、やる気配がなくて。コーチ室に呼んで叱りました。村上は叱られると言い返してくる。それはプロだから全然いい。立ち向かってくるヤツには、また別の方法で伝えることができるので」

 感情豊かな当時19歳は、言うなればガキ大将タイプ。宮本氏からは服装、髪形についても指摘を受け、青木からカツを入れられたこともある。

 プロとしての気構えを注入された2019年は何度も涙したという。

 「途中はいろいろありました。『僕は嫌われていると思っていました』『なぜ僕にだけ言うんですか』と聞かれたこともあります。その理由は、『日本の村上』になれる選手だからです」

 1年目の2018年秋季キャンプ。村上の打撃フォームは現在と異なり、トップの位置は浅く、投手寄
りだった。

 一軍レベルの速球に対応する本塁打打者になるには、捕手寄りにつくる必要があった。

 「どんなスイングになるのか、『1回それで振ってみろ』と言ったら、わざと変なスイングをしたんです。自分の考えがあるとわかったので、そこはしばらく放っておきました」

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最下位に終わることになる2019 年シーズン序盤、疲労の色が隠せないヤクルトベンチ。左から村上宗隆、宮本慎也ヘッドコーチ、小川淳司監督、石井琢朗打撃コーチ。写真=日刊スポーツ新聞社

よく考えているから、
常にクエスチョンがある

 2019年1月、村上は青木の合同自主トレに参加した。青木のルーティンである強烈なストレッチをやり続けると、体の柔軟性が増した。

 すると、打撃フォームが変化した。村上本人が先輩・上田剛史のYouTube番組でも、体が変わったことで顔の横から後ろで構えられるようになった、と説明している。

 結果、宮本氏が指摘したフォームになったが、その過程は村上自身が経験して、見つけ出し、到達した。

 「そこが凄いところでもあるよね。自分で考えて行動したんだから。よく考えているから、常にクエスチョンがある。どうしたらこうなるんだろう、こうやってみようかな、わからなかったら聞こうかなという。だから、成長速度が段違いで速い」

 宮本氏は2019年シーズンをもって退団。翌2020年春に新型コロナウイルス感染拡大の影響でプロ野球の開幕が延期された。そのシーズンで村上は打率3割をマーク。以降の活躍はご存じのとおりだ。

「率を上げるには時間がかかるだろうと思っていたので、3割は予想以上でした。たしかに、以前は簡単に振って打ち取られていたボールを振らなくなった。このカウントではこういうボールを投げてくるという傾向と対策をどんどん理解していったのでしょう。伸びない選手は毎年同じことをするけれど、一軍で活躍していく選手は、いつも振っていたボールを振らなくなるんです」

いい打者は「ゆるく振る」
「バットを加速させる」

 村上は自身の打撃について「ステップの足を下ろした時に手も下りてきて、そこからバットを加速させる」という説明をしたことがある。

「『あ、もうわかってるやん』と思いましたね。村上はスイングスピードがプロの中でもトップクラスに速いけれど、ビュッと振らない。昔、古田さんが稲葉(篤紀)に『ファウルを減らすために、ゆるく振ってみな』と言っていました。僕は『ゆるく』という言葉を自分の中で『サーッと振る』というイメージで捉えていて、この感覚を体で理解したのは30歳ぐらい。結局、打ち出した時期ですよね。あの年齢でそこまでわかっているかと驚きました」

 若き大砲は駆け足で成長を遂げ、2022年は偉業を成し遂げた。

 「もう何年かしたら、きっとMLBに行くのでしょう。ここまでくると、アメリカでどれぐらいやるんかなあというのも見てみたい。今の村上と23歳の松井を比べたら……もう抜いているよね」

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Profile/宮本慎也
みやもと・しんや●1970年11月5日、大阪府出身。PL学園高-同志社大-プリンスホテル。1994年ドラフト2位でヤクルト入団。2013年引退。プロ19年間で通算2162試合出場、2133安打、打率2割8分2厘、62本塁打、578打点。右投げ右打ち

取材・文=丸井乙生

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