「燃える男」はハッタリだった……。名伯楽・権藤博が今明かす、投手・星野仙一が“広島戦”を避けて“巨人戦”にこだわった驚きの裏事情
執筆者: ノンフィクションライター/長谷川 晶一

現役時代には「燃える男」と称され、監督時代には「闘将」と呼ばれた星野仙一が天に召されてすでに8年が経過した。昭和、平成を代表する野球人である一方、優しさと厳しさ、飴と鞭を巧みに使い分けた人心掌握術は、現在の観点から見れば、行きすぎた「根性野球」「精神野球」といった側面がクローズアップされたり、選手たちへの鉄拳制裁が問題視されたりすることもある。
「私は殿堂入りパーティーに呼ばれなかった」権藤博が語る“星野仙一の最期”と、最後まで埋まらなかった二人の距離感
一体、星野仙一とはどんな人物だったのか? 彼が球界に遺したものとは何だったのか? 彼の実像を探るべく、生前の彼をよく知る者たちを訪ね歩くことにした。彼らの口から語られる「星野像」は、パブリックイメージ通りである一方で、それとは異なる意外な一面もあった。「星野仙一」のリアルに迫りたい——。連載第7回は、星野の現役最晩年に中日ドラゴンズの一軍投手コーチを務めた名伯楽・権藤博に話を聞いた。【権藤博インタビュー全2回の1回目/第2回へ続く】

「燃える男」のイメージとは裏腹に……
権藤博が中日ドラゴンズ一軍投手コーチに就任したのは1981(昭和56)年のことだった。現役晩年を迎えていた星野仙一はこのとき、権藤の下でコーチ補佐を兼任することとなった。
「常に《燃える男》としてふるまっていたけれど、僕がコーチになったときの星野は、現役晩年を迎えてすでにボールの力はなかったね。この頃の彼は巨人相手に投げたがっていた。でも、広島戦になると、“ちょっとひじが……”と言って投げたがらないんですよ」
プロ入り以来、「打倒巨人」の思いを原動力として、がむしゃらに投げ続けてきた。現役晩年を迎えてもなお、ジャイアンツへの闘志は燃え盛っていた。そう理解していると、権藤は「いや、そうじゃない……」と続けた。
「あの頃の巨人は、投手陣はすごかったけど、打線は弱かった。まだ若手だった原(辰徳)、元ヤンキースの(ロイ・)ホワイトぐらいが目立っていただけでしたから。一方の広島打線は山本浩二に衣笠(祥雄)がいて、(ジム・)ライトルもクリーンナップにいる強力打線だったから、広島相手には投げたがらなかったんです」

当時のジャイアンツは江川卓、西本聖、加藤初、定岡正二など、リーグ有数の投手陣を誇っていた一方、原辰徳、中畑清、篠塚利夫(現・和典)などの若手野手陣はまだ成長途上にあった。つまり、星野がカープ戦を回避したのは、「ジャイアンツ打線なら抑えられる可能性が高い」という消極的な思いからだったのである。
「広島には通用しませんよ、あの頃の星野では。彼は元々、《燃える男》というイメージが強かったけど、実際は繊細で弱さも持っていた。右打者のインコースにシュートを投げるふりをして、実はスライダーを投げていた。主力には《インスラ》ばかりでまともに勝負をせず、補欠クラスにだけシュートを投げていた。もちろんプライドがあるから、打たれる姿は見せたくなかったんですよ」
そして権藤は、「以前、聞いた話だけど……」と前置きをして、前任の稲尾和久投手コーチから聞いたというエピソードを披露する。試合終盤を迎え、ベンチに戻ってきた星野に対して、「交代するか?」と、稲尾が告げたときのことだ。
「そこで星野は、“次は誰が投げるんですか?”と聞くから、稲尾さんは“(鈴木)孝政だ”と答える。すると、“孝政じゃ、頼りにならん”と言うから、“じゃあ、どうする?”と尋ねると、“先頭打者を出したら代えてほしい”と、星野は言ったそうです……」
次の回、星野は先頭打者に出塁を許す。ベンチから稲尾が出てくる。すると星野はグラブを思い切りグラウンドに叩きつけた。権藤が微笑みながら続ける。
「これが星野なんですよ。自分から、“先頭打者を出したら代えてくれ”と言いつつ、それでも、《燃える男》のイメージを壊さないために、“オレはまだ投げたいんだ、交代は不本意だ”と、稲尾さんに対して、そんな失礼なことをする。稲尾さんは優しいからいいけど、僕だったら、決してそんな態度はさせないし、星野もそれをわかっているから、僕には決してそんなことはしないよね(笑)」
この記事を書いた人
1970年生まれ。早稲田大学卒業後に出版社へ入社し、女子高生雑誌『Cawaii!』などのファッション誌の編集に携わる。2003年からフリーに。ノンフィクションライターとして活動しながら、プロ野球12 球団すべてのファンクラブに入会する「12 球団ファンクラブ評論家®」としての顔も持つ。熱狂的な東京ヤクルトスワローズファンとしても知られ、神宮球場でのホームゲームには全試合駆けつける。単行本が7刷となり文庫化もされている『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間』(単行本:インプレス、文庫:双葉社)をはじめ、ヤクルト関連の著書・連載多数。スポーツ総合雑誌『Sports Graphic Number』(文藝春秋)にも定期的に寄稿中。日本文藝家協会会員。
お問い合わせ:smartofficial@takarajimasha.co.jp
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