「甲本ヒロト、鳥肌が立った音楽の原体験を語る」ニルヴァーナ、レッチリ…ロックの原点に見た“わけ分かんない感動”の正体
執筆者: 編集者・ライター/高田秀之
「わけ分かんない感動」さえあればいい

――たぶんそこでまたロックンロールの復権が起きたと思うんですけど。
ヒロト:理屈じゃ分かんないけど、僕の体の反応からするとそうとしか思えなくて。そのときは中学の2年生だったんだけど、「今、自分がやってもいいんだ」って思えたんですよ、そうしたらいてもたってもいられなくなって、親に、「僕、中学卒業したら家を出ます、バンドやります」って宣言したんです。もう中学出たら義務教育じゃなくなるから、生きようが死のうが俺の勝手、のたれ死んでも自分の責任だって言って。
僕は自分が間違えてないと思ってたから、反対するなら僕を説得してくれって言ったんですね。そうしたら親に顔面を殴られて、僕も殴り返したんです。いまでもそのときの手の感覚が残ってるけど、そのときに自分はやっちゃいけないことをやってしまったって気がついたんです。自分の主張は間違ってないけど、やったことは間違っている。だから親の言うことを聞こうと進学しました。
――その77年に受けた衝撃に近いものはその後ありましたか?
ヒロト:あんなデカいものはないです。でも、同じじゃないけど、そのレッチリの「Give It Away」を初めて聞いた瞬間とか「Smells Like Teen Spirit」に触れたときに似てるとは思った。
――そこでまたロックが復権したんでしょうかね。
ヒロト:思う思う。それは正しかったと思う。
――そして2000年以降はロックに元気がなくなった気もするんですが。
ヒロト:それでもいいバンドはいっぱいいるんじゃないかな? エイジアン・ダブ・ファウンデーションって何年?
――2000年ぐらいですかね。
ヒロト:あれ聴いたときも、イケてるなぁって思った。かっこいいなって。
――音楽もそうだけど、流行って周期説があるじゃないですか?それにロックンロールが当てはまるのかどうかは分かりませんが。
ヒロト:洋服なんかは、全く同じじゃないけどなんとか風っていうのが繰り返しくるっていうのは、分かりやすくあるんじゃないですか。ロックンロールの場合は、やっぱりスタイルじゃないんだよ。だから本当は今ヒップホップとか、あの連中からガツンとくるものが出てきて欲しいんですけどね。フォークギター1本でもいいし、なんでもいいんだけど、ガビンとくるロックンロール。
――ビースティ・ボーイズとかはヒップホップだけどパンクもやってましたけどね。
ヒロト:なんかでも、ヒップホップってベクトルが見えちゃうんだよなぁ。
――ベクトル?
ヒロト:何をやろうとするかが分かっちゃうんですよ。言いたいことが明確だったり。そこはどうでもいいんです、僕は。言いたいことが何かを別に知りたくないし、何やりたいかも知りたくない、ただ単純に、わけ分かんないけどいきなり涙が直角に出るような感動、それがあればいいんです。ヒップホップは、向かってる方向が見えちゃうんだよね。そういうものは本人の中にあればよくて、そうすると何か感じると思う。そう、わからなくていいから感じるやつが好きです。
――見えちゃうって、投げた玉がどこにくるか分かるってことですか?
ヒロト:いや、そいつがどっちに投げたいのかが見えるんです。どっちに投げたいのか、何をやりたいのかが。やりたいことなんてさ、分かんないよ。分かってたまるかよ、自分が何をやりたいのかなんて。ただ、やらずにいられないことをやるんですよ。どっちに飛んでいくかわかんないけど、投げずにはいられない衝動。
――やりたいことが見えると冷めちゃうんですかね。
ヒロト:理屈が見えちゃうと、なんかリミッターがかかっちゃうんだよ。ただの人間じゃん、こいつって思っちゃう。僕、お化けとか怪獣が好きなんだけど、ゴジラが好きなのは、これ例えとして合ってるのかな? ゴジラは時代とともにちょっとずつ変化したけど、初代ゴジラって何物か分からないじゃない?
――何だか分からないけど怖い存在でしたよね。
ヒロト:ただ怖い、ただ無茶苦茶する、それでおしまい。あのゴジラが僕は大好きなの。そのうち誰かだったり何かだったりを守るようになったり、ラストシーンで 「ゴジラは我々に何か大切なことを教えてくれたのかもしれない」ってメッセージが入ったりするじゃない? ああなっちゃうと、なんかなぁ。とにかくわけ分かんないことやって、無茶苦茶していなくなった初代ゴジラが大好き。僕は。
――『シン・ゴジラ』はどうでした?
ヒロト:『シン・ゴジラ』は面白かった。
――『シン・ゴジラ』はもっとストレートにゴジラをわけの分からないものとして描いてましたよね。
ヒロト:あと、市川実日子さんもすごくよかった。いい映画見たなって気がした。
この記事を書いた人
流行通信社、ロッキング・オン社をへて、1990年に宝島社入社。Cutie編集長ののち1995年にsmartを創刊。2024年に退社し、現在はフリー。
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お問い合わせ:smartofficial@takarajimasha.co.jp
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