【たまに会う惑星】 モノンクル吉田沙良×CRCK/LCKS小田朋美が語る新作とシンガーの孤独 AI時代に「楽しい」を追求する理由とは互いのリリースライブも迫る
執筆者: 音楽家・記者/小池直也
孤独な歌録りに効くパン作り

吉田:「日常のきれいな世界を切り取る」という意味だと「枝と嵐」は、CRCK/LCKSとしての小田朋美から一枚服を脱いだような歌と歌詞が温かくて、“人間・小田朋美“を垣間見れる特に好きな曲です。その瞬間そこに小田さんが居たんだなと想像して、勝手に隣に居させてもらってるような贅沢な時間を感じました。あれはどうやって作ったんですか?
小田:あの曲は元旦に書いたんですよ。お正月の新しい自分になれるようなワクワクを感じながらベランダに出たら、すごく空がきれいで、そのときに浮かんだ曲を弾き語りで録音しました。録ってみて、なんだか「終わり」と「始まり」が自然に同居しているようなイメージもあるなあと思って、そんな話を歌詞共作の佐藤文香さんと話しながら歌詞を作って。
ちょうど近いタイミングに、メンバーの小西(遼)の子どもが産まれると聞いたこともあって、祈りのような気持ちも宿っている気がします。
吉田:そういう、ふとした瞬間に生まれる曲ってある。リサイクルショップで見つけた古いトイピアノを、私の1歳の子どもにあげたんですよ。音程もガタガタなんですけど、何となく「弾いてくれたらいいな」と思って。
そうしたら自分から蓋を開けて、がむしゃらに鍵盤を叩く訳でもなく美しい旋律を弾いたんですよ。ちゃんと終わったら閉めてました。
小田:すごい、そこまでやるんだ(笑)。
吉田:あまりにも美しい旋律だったから、これは天才だと(笑)。そのフレーズを別の日に弾いていたものも含めてサンプリングしている曲が「Ü?」なんです。音の修正もリズム補正もしてません。彼女のなかで無垢なメロディとテンポがあるんだなと。
小田:「Ü?」は大好きで、先日もクラクラのメンバーにおすすめしまくってました。「HOTPOT」はエネルギッシュで元気になるし、「奇跡。」も名曲で、最近の脳内再生曲No.1です。

——お互いの歌について感じたこと変化などはありました?
吉田:『まにまに』を聴いて、小田さんの歌が変わった気がしたんです。録音後の処理もあるかもしれないけど、よりパーソナルな感じ。
小田:歌については今回、家で録音したのでそれが大きいのかも。
吉田:モノンクルもそうなんですよ。全部ではないけど、ほとんど家で録りました。
小田:そうなんだ!面白いな、私は『僕ら行き止まりで笑いあいたい』を聴いて、沙良ちゃんの歌声が今までより一層世界に対して開かれた歌声になったような印象を受けました。時代的に宅録する人が増えているけど、家で録るのって大変じゃない?
吉田:大変ですね。キリがないし、集中力が持たない。少なくとも20テイクくらいは録るし、断片的に歌ったトラックもたくさん。だから、どのテイクを使うのか決めるのはレコーディングした日ではなく、全部忘れた次の日に聴き直して選定するようにしてます。
小田:ジャッジは角ちゃんがするの?
吉田:ふたりでしてます。まず角ちゃんが選んだテイクをフレッシュな頭で聴いて、「そう考えたのか。ふーん」と思ってから(笑)、自分でいいと思ったものを答え合わせの感覚で選びます。最終的に誰の判断を採用するかは曲によって変わりますね。
小田:羨ましい! クラクラはリモート制作が多いから自分でジャッジしなきゃいけないんですよ。全体に送る前にある程度セレクトしなきゃいけないから、たくさん録って自分でエディットするんだけど、徐々に「自分って何だろう?」みたいになってくる(笑)。
吉田:気持ちわかります……。
小田:それが辛すぎてパン作りを始めたの(笑)。ベースの越智君とパートナーのまいちゃんが応援に来てくれたときは、私が作ったパンを一緒に食べてから作業をして、作業の合間に、越智君は肩もみ、まいちゃんは耳つぼマッサージをしてくれるという超贅沢な時間があって癒されたり……。テイクの良し悪しって、全体とのバランスもあるから難しいし、ミックス作業まで行ってはじめてわかることもある。

吉田:空気感は大事。モノンクルの最後の曲「プレピローグ」はラジカセの内蔵スピーカーで録音しているんです。家で鳴らしたカセットに閉じ込めてミックスもせずに収録しました。私と角ちゃんがケンカしている場面から始まるんですけど、雰囲気が悪いところから始まって、最後までやりきってます。
小田:夫婦だから毎日ずっと一緒にいるわけじゃないですか。だから仲がいいときはいいけど、難しいときもあるでしょ。それはどう乗り越えてるの?
吉田:暗黙の了解で「今はヤバそうだな」という空気を互いに察知できるんですよ。だからあえて触れずに大爆発を回避して、調子の良さそうなときに優しく言いたいことを言う感じ。あと今は共通目的である娘もいるので、ケンカも少なくなりました。
この記事を書いた人
音楽家/記者。1987年生まれのゆとり第1世代、山梨出身。明治大学文学部卒で日本近代文学を専攻していた。自らもサックスプレイヤーであることから、音楽を中心としたカルチャー全般の取材に携わる。最も得意とするのはジャズやヒップホップ、R&Bなどのブラックミュージック。00年代のファッション雑誌を愛読していたこともあり、そこに掲載されうる内容の取材はほぼ対応可能です。
Website:https://smartmag.jp/
お問い合わせ:smartofficial@takarajimasha.co.jp
この記事をシェアする
この記事のタグ
関連記事






